(妖怪 塗壁(ぬりかべ))

 

 そごう美術館「水木しげるの妖怪 百鬼夜行展 ~お化けたちはこうして生まれた~」展(2024年1月20日(土)~3月10日(日))に行ってきました。

 ずっと、行ってみようかどうしようかと迷っていて、この頃は天気も悪いし、ということで気が付いたらもう会期の終わり近く、になってしまっていました。

水木しげるの妖怪 百鬼夜行展 ~お化けたちはこうして生まれた~ |そごう横浜店|西武・そごう (sogo-seibu.jp)

 

 水木しげる(1922-2015)さんは、私の子供の頃に実写ドラマ化された「悪魔くん」(1966年-1967年 悪魔くん:金子光伸 演、メフィスト:吉田義夫、潮健児 演)の原作を描かれた方でした。ドラマが始まる前の洞窟で蝙蝠が舞う場面での「エロイムエッサイム...」という導入部はいまだに心に残っています。

 とはいえ、「悪魔くん」はあまり「水木しげる原作」というのは意識していずに、「水木しげる」という名前を意識した最初の作品が少年漫画雑誌に連載された「墓場の鬼太郎ーゲゲゲの鬼太郎」であり、その後にテレビアニメ化された「ゲゲゲの鬼太郎」(1968年-1969年)でした。その頃は私も子供ですから今みたいに「妖怪も幽霊もいない、魂もない」なんて気持ちではなくて、妖怪も幽霊も否定しきれない心を持っていたので結構夢中に見ていたものでした。

 そんな歴史のせいなのか、この展覧会、観客の方は私と同年代か少し上かくらいの女性(60-70代の女性)が結構、ご覧になっていました。そう言えば、2010年度のNHKの朝ドラは「ゲゲゲの女房」(松下奈緒、向井理 演)で水木さん夫婦で話題になっていたのもあると思います。

 

 この展覧会、4章構成になっていて、ちょっと予想とはずれました。良い方に。

第1章:水木しげるの妖怪人生

第2章:古書店妖怪探訪

第3章:水木しげるの妖怪工房

第4章:水木しげるの百鬼夜行

 というものでした。

 実は、「行こうかどうしようか」と迷っていたのは「妖怪百鬼夜行」という題だから、「ぬりかべ」とか「一反木綿」とかの妖怪画が延々と100枚くらい展示されているようなものかな、それだと面白くないかな、どうだろうとか色々と迷っていたからでした。

 でも、行ってみて新しい発見があって結構面白かったのでした。

 

第1章:水木しげるの妖怪人生

 ここでは「のんのんばあ」が語って聞かせてくれた妖怪のお話、を紹介したりしています。いかにして水木少年が妖怪に興味を持つようになったか。

 つまり、思っていた「妖怪の絵100枚」とはだいぶ違ったのでした。

 

第2章:古書店妖怪探訪

 ここでは、水木さんが神田の古書店街に行って昔の鳥山石燕(1712-1788)とか速水春暁斎(1767-1823)とか柳田国男(1875-1962)とか、そういう昔の人の絵や書物を渉猟していく様、及びそれらの書物が展示されています。その展示されているものを見ると、私がてっきり水木しげるさんの創作した絵、とばかり思っていたものが、そうした伝統的なものを受け継いでいるものもある、ということが分かりました。神田の古書店街は私は1970年代終わり頃から知っていますがそれより前の1960年代の写真とかあったりして、さすがに懐かしさと時の過ぎゆくさまとを感じました。

 

第3章:水木しげるの妖怪工房

 ということで、水木さんの絵は実はルーツが三つあるというのが説明されているのがここのパートで、昔の絵師たちの絵が残っているものは基本的にそれを使うそうなのでした。「あかなめ」「ぬらりひょん」「小豆洗い」などがそうしたものです。

 様々な資料から「創作」されたものの一群があって、たとえば「がしゃどくろ」「砂かけ婆」等。

 さらに、文字情報から創作したものの一群もあり、たとえば「座敷童子」「一反木綿」等。

 ここでの展示には絵の一枚一枚に解説がついていてよかったです。

 その他に妖怪の本、外国で出版された妖怪の本等が展示されています。

 

第4章:水木しげるの百鬼夜行

 ここでは「山」「里」「水」「家」に出る妖怪をカテゴリー分けして妖怪画が展示されています。ただ、ここでの展示は「木霊」「海坊主」とかの絵であることは示されるのだけれど、どういう妖怪なのかが解説されていないので少し物足りない気がしました。とはいえ、ここで前章のように一枚一枚に解説をつけているとスペース的に足りなくなったんだろうな、というのも理解でき、それがこの狭いスペースの美術館の制限だったかなと思いました。

 

 ところどころに立体のオブジェ「べとべとさん」「大かむろ」「川獺」等があって雰囲気を盛り上げてもいました。

 ただし、この展覧会、基本的に最初に挙げた「塗壁(ぬりかべ)」のオブジェ以外は妖怪画も全て「撮影不可」でした。

 

 行ってみれば、「行こうかどうか」と迷うまでもなく私にとっての新発見(水木さんの絵の中には先人の絵に倣っているものもあるのだ)というものもあって、また戦争中の体験談*もあったりして、「本当に妖怪を信じた方だったのだな」ということがよく理解でき、なかなか面白かった展覧会でした。欲を言えば第4章の絵にも一つ一つ解説をつけて欲しかったものでしたが。

 

*戦地で「塗壁」に出会って、進めなくなってしまったことがあるそうでした