(ビーフル犬まろさんの「こんにちは」)

 

 新入生、新入社員の頃、どきどきして新しい学校や組や組織に加わったものでした。私はどちらかというと内気なたちだったので、自分はちゃんと受け入れてもらえるだろうかとか色々と考えてしまいましたが、挨拶は欠かさないようにしていました。

 挨拶は、自分と周囲に妙な波風を立てないように、身を守るために大切だと思っています。誰か知ってる人に会ったら、「お早うございます」「こんにちは」「こんばんは」、別れるときは「さようなら」「失礼します」「お先に失礼します」。これ、当たり前のことを言ってる、のですが、でも結構それをしない人もいるわけで。

 で、それをしない人はとかくに「挨拶もできない奴」とかいう印象、悪評を獲得してしまいます。それはしかし損ですから、当たり前の挨拶というのは「身を守るために」しっかりした方が良いと思います。どんなに他のことが有能でも、良い人でも、相手にとっては「無視すべき人、悪い考えを持っても良い人」になってしまっては、元も子もありません。

 

 ちなみに、さきほど「こんにちは」「こんばんは」と書いたのですが、「こんにちわ」「こんばんわ」というのもよく見るし、どっちが正しいのかと思って調べてみたらやはり「は」が正しいらしいのです。しかし「わ」でもあながち間違いでもないとか、「わ」は親しみを込めた場合に使うとか、なかなか微妙なようです。ただ昭和61年7月に文化庁から「は」と書く、と正式に出されたようで、試験問題なんかのときには「は」のが無難なようです。

 

 挨拶の本題に戻ります。

 私、本来が内気で引きこもり性格なものですから、「あ、知ってる人が来た、挨拶しないと」と思ってから、するまでに結構緊張してしまいます。

 まず、相手がちゃんとこっちに気が付いているかどうか、相手が挨拶を返してくれる人かどうか。相手に無視されるのはなかなかに気分が悪いしんどいものです。

 さて、お互いに気が付いたとして、どのタイミングで挨拶するのかという問題があります。目が良かったとして50m先に相手を見つけた、その相手に大声で挨拶する、、、いやありえません。ではどのタイミングで、どれくらい近づいたら?10m?20m?先方が先にこちらを見つけてこちらが声をかけるより前にお辞儀してこられるときは、こちらもお辞儀でとりあえず返しますがやっぱりある程度近づけばお互いに声をかけます、そのタイミング。これがちょっと難しい。

 難しいと言えば、相手がずっと後ろを向いて何かの作業をされているときも難しいものです。声をかけたら、相手が気が付いて挨拶を返してくれるなら結構なのですが、相手が気が付かないとか、気が付いても「誰か別の人に向けての挨拶だろう」とかに思われると、自分の発した挨拶は宙に浮かんでしまって気分が悪いものです。

 で、そんな場合は結構、心が乱れた状態で緊張しつつ挨拶をする、ということになります。うーん、疲れる。しかし、緊張しようが何だろうが、「身を守る」ことにかけては挨拶は非常に有効なのですね。

 

 とはいえ、それが結構行き過ぎて会社ぐるみで「挨拶運動しましょう」なんてやられた日にはぞっとしてしまいました。退職するまでいた某企業ではそういう運動をしていました。そこで挨拶運動を推進する側のお役目だった時もありますが、あれは大嫌いでした。

 社員が出社してくるところに、「挨拶運動キャンペーンの人」が横一列に並んで、「お早うございます!」とか元気よく挨拶するわけです。ちょうど、この4月なんかだと新入社員歓迎の時期だとかで強化してやっていたような気がします。しかし同じ会社の人だって、知ってる人に挨拶するのでも何でもなくて、誰彼構わず、人が来れば単に機械的に頭を下げて機械的に「お早うございます」とか言うのって、なんだか心がこもっていないというのか、、、そう、心がなくて形式的にやっておけば良いだろうみたいな感じだったので、もう違和感ありまくりでした。

 同僚の人に「お早うございます、今日も元気に一緒に仕事しましょう」なら良いのだけれど、大企業のどこの部署の誰かも知らん人に「お早う」なんて言ったところで、言われたところで、そんな心のない挨拶は何も心に響きません。

 

 ところが、そうは言うけれども「知らない人同士の挨拶」が行われている場所もあるようなのですね。山に登るとき降りるときにする「こんにちは」は別としても、もの凄い田舎だと、見知らぬ人がいると警戒して、その見知らぬ人に「こんにちは」とか挨拶をしかけてくる、とか。それで挨拶を返してこない奴はいよいよ不審者であるということになるんだそうで。、、、となると挨拶運動推進の会社は凄い田舎の社会だったってことでしょうか。いやそうじゃないですが。

 

 実は、もの凄い田舎、ではないけれど、私の住んでいるところでも「朝、会った人にはとりあえず挨拶」みたいな感性の人もいるのか、ビーグル犬まろさんを散歩させている私のところを通り過ぎるときに「お早うございます」とか私に言う、ということがあります。これが少々、気持ち悪い。周囲にその人以外に誰もいないのを確かめてとりあえず「お早うございます」と自信なさげに小声で答えるのですが、そりゃその人の挨拶の相手が自分ではなくて誰か他の人に向かってだったらものすごーく恥ずかしいですから。よくありますよね、いやよくあるかどうか知らんけど、美人がこっちに向かって微笑んで手を振ってるところに、無視するわけにもいかんし仕方ないからこちらも微笑んで手を振ってみると、その美人が自分を素通りして後ろの人に真っすぐ行って、「あ、あの微笑みも手を振るのも自分にではなかったの」と気が付くとか。そんなのと同じくらい、知らない人に挨拶するのは緊張する事態になります。

 

 ただ、そう言えば例外を思い出しました。海外出張したときに、多分アメリカだったと思いますがエレベータで乗り合わせたりするとか、買い物のレジで目があったりするとかなりの確率で挨拶してきますね。こちらも無視してると思われるのは心外なので挨拶を返すのですが、やはりあちらの人は日本人とはメンタリティが違うようで、、、というか、日本人でも、海外に行くと結構、積極的に「ハロー!」「ハイ!」とか言い出しますか。日本ではそういうことをしない人でも。これも身を守るための挨拶、というわけで。

 もう一つ思い出しましたが、私が可愛いビーグル犬まろさんを連れて朝夕の散歩をしていると、特にどこかの知らないお婆さんとかは私を無視して犬のまろさんにだけ「お早う」「こんにちは」とか挨拶します。してみると、犬のまろさんはお婆さんたちにとって外人さんなのか、それともお婆さんにとって外人さんたちは犬と同じなのか?いや外人さんが犬なんて断じてそんなことはないのですが、可愛い犬なら「お早う」っていう、人間は無視ってのはホントになんだか変な話ではあります。そのおかげで、私たち夫婦の間では「ビーグル犬まろさんの方が、この町では自分達より多くの知り合いがいるらしい」ということになっています。

 

 ということで、なかなかに挨拶というものは難しい・面白い・疲れるのですが、身を守るためにも大事だよ、と「新入○○」の人たちには声を大にして言いたいです。しかし私はいい歳して未だに何緊張してるんだか。