狂犬ピットブルの襲撃事件被害の顛末(2)からの続きです。

 

4.民事訴訟

 ここで基本的なところを整理しておきます。

 今回のような事件だと、刑事および民事の両面で加害者側と被害者側が争うことになります。

 「刑事」では、加害者側の行為が法律に照らし合わせて罪となるかどうかを判断するものです。

 被害届が出され、さらに告訴状が出され、最終的に検察の判断で起訴が為され、罪名がつけられ罰則が適用されるという手続きが為されました。

 

 「民事」では次のように進行しました。

(1)損害賠償について加害者側から案を提示

(2)損害賠償額について被害者側から考えを伝える

(3)損害賠償額が折り合いがつかない場合は双方で協議

(4)協議で折り合いがつかない場合は訴訟

(5)裁判所から和解案が出され、双方で納得がいけばそれで和解、でなければ裁判所が判決

 

以下、順を追って記します。

 

(1)損害賠償について双方で協議

 損害賠償金を相手側弁護士が提示してきます。相手から最初の提案が来たのが2018年の7月3日でした。

 事件が起きたのが1月末、私もまろさん(ビーグル犬オス当時3歳)もその頃には傷が癒えた頃で(ただ私の3回目の必須の破傷風予防接種はまだ)、通院がおさまってからというタイミングです。

 加害者側は2月早々に保険の適用で弁護士を立ててきたこともあり、こちら側も評判の良い弁護士の方に2月に相談し、3月には訴訟もスコープに入れて相手との交渉などをお願いしました。

 

(2)損害賠償額について被害者側から考えを伝える

 最初の提案についてはこちらの考えとかなりの乖離があり、提案には合意できない旨、伝えました。

 

(3)損害賠償額が折り合いがつかない場合は双方で協議

 協議の途中で刑事事件に関して検察の方針、つまり略式起訴で罰金刑が被告側に伝えられ、示談にするための賠償金額について被告側から新提案がありました。これが2018年の7月下旬でした。

 この時点で示談が成り立てば最終的な刑事事件の判決も軽いものとなる可能性があります。そのために示談を急ぐために歩み寄りを見せてきたということだと推察されます。

 ただ被告側としては、罰金刑の金額を払うのであれば損害賠償はしたくない、その場合は訴訟もやむなしということでした。

 しかし条件がまだ折り合いませんでした。

 8月末日には刑事事件の被告側に処分通知書が届けられました。

 

(4)協議で折り合いがつかない場合は訴訟

 結局、交渉は決裂でしたが、9月初旬の段階ではまだ示談の可能性を探る提案が為されました。さらに条件は若干の歩み寄りを見せましたが、こちらとしてはそれも突っぱねることにしました。

 示談交渉に臨んでいただいた弁護士の先生にはそのまま訴訟もお願いしています。その時点が2018年10月です。

 さらに訴状について弁護士の方と相談をして最終確認の上、それが提出されたのが2019年の1月でした。

 

(5)裁判所から和解案が出され、双方で納得がいけばそれで和解、でなければ裁判所が判決

 それから、被告側からの答弁書、双方からの準備書面のやり取りがあり、つまり要するに相手の言い分に対して反論していくわけですが、裁判所が「そろそろ和解してはどうか」という意思を示したのが2019年の5月でした。 

 そうしたやり取りの中で、こちらからすれば大間違いの、血圧が上がりそうなことを被告側が文書で主張してきたりもしましたが、そういう場合でもあくまでも冷静に反論していくのが吉です。そういう物言いは本当に被告自身がそう言っているのか、相手側弁護士が敢えてこちらの嫌気がさすように作文しているのか、本当のところ判断できません。不合理なことをいくら書いたところで裁判では合理的に判断されますし相手側の主張は実際、ピントがずれていたのです。

 それからもお互いの言い分を双方の弁護士を通じてぶつけ合い、結局は双方和解に応じず、2019年7月に結審して、2019年9月12日に裁判所が額を決める形での判決が出されました。こちら側弁護士の方に最初に相談してから1年5か月経過していました。

 

 判決は勝訴でした。

 

 裁判所はこちら側の主張を認め、賠償金について相手方の言い分より多くほぼこちらの主張に沿った形で認めていただきました。

 ポイントとしては裁判所が以下のことを認めてくれたことです。

1.被告飼い犬のピットブルが非常に危険な犬種であること

2,にもかかわらず加害者側が相応のピットブルの管理を怠って敷地の外に出してしまったこと

3,被害者側が感じた心理的な恐怖とまろさんの傷害

 最初に警察が動いてくれたのも「1」で加害犬がピットブルであったこともあるのだと思います。

 

 この被害の顛末は以上のようなものですが、まだ影響は残っています。

 一つはまろさんの散歩範囲が、この事件以来狭くなってしまったこと。事件以前はかなり遠くまで調子よくお散歩で出かけることが多かったのに、事件以降はデフォルトが徒歩2分くらいの公園までゆっくりゆっくり臭いを嗅ぎながら15分~30分の散歩、少し遠くて歩いて5分程度の近所の住宅街や田んぼといった距離の散歩しかしなくなったことです。

 まろさんも随分と用心深くなりました。まろさんなりに、それ以前みたいに相手の犬を全面的に信頼して無邪気に「遊ぼう」みたいな態度では全くなくなりました。相手をかなり注意深く値踏みするようになりました。

 もう一つはやはり私自身が少し大きな犬を見るとどうしても襲われることを考えるようになったこと。時折出会う犬たちは大きくても凶暴ではないのだろうと思うのですが、まろさんの散歩のときに遠くに大きな犬を見ると進路を無理にでも変えるようになりました。ドッグランも事件以前は安心を感じて毎週のように行っていたのが、行かなくなり、勇気を出して再び行ったら結局まろさんが大きな犬に吠えられて、大好きな空間だったドッグランにもう二度と行きたくなくなってしまったこと。以前は吠えられても犬同士だから大丈夫、と楽観的に見ていたのが、全く変わりました。まろさん本人は巨大犬に吠えられてもピットブルに対しての態度とは明らかに違っていても、それでも私が心配で最悪のことを考えてもう二度とそういう危険な目に遭いたくないとなってしまった、ということです。

 

 犬に咬まれた、犬が大型犬に咬まれて大けがを負った、という場合に泣き寝入りしてしまう人は結構いるのかもしれません。あるいは菓子折り等、雀の涙ほどの「お詫び」で我慢するとか。

 しかし、今回は相手がピットブルと言う要因が大きかったにせよ、被害を受けたら堂々と出るべきところに出て主張すれば、判断する人はちゃんと判断してくれるのではないでしょうか。心理的後遺症的な面も含め色々と影響がある事件でしたが、刑事も民事も訴えたことに関しては正しかった、と思っています。裁判も二度とは味わいたくはないけれども、手続きやスピード感、お世話になった警察、検察、弁護士、裁判所の方々の役割等も実感として理解できて良かったと思います。その節は有難うございました。

 

                                      (完)