5...Nside
足早にスクランブル交差点を渡ると、後ろも振り返らずに、人混みに紛れた。
機械的に足を動かせば、その分、あいばさんから離れられる。
やっと、ビルの角を曲がると、、そのまま、そこへしゃがみ込んでしまっていた。
あぁ、、どうしよう。。。
あいばさんに、番号も知られたし、その上、名刺まで渡しちゃったよ。
オレのこれまでの苦労と悲しみは、何だったんだ。
どれだけ泣いて、どれだけ苦しんだか、おまえ分かってるのか!
なんて、、自分自身に言ってみたけど。
その心の中の、奥の奥で、、笑ってるオレが居る。
嬉しそうに笑ってる。
、、、だって。
やっぱり、嬉しいんだもん。
きっと、あの人は、オレのことなんて忘れてるか、酷いヤツだと怒ってると思い込んでいた。
だから、、もし万が一、どこかで会っても、無視されるか罵倒されるかのどちらかで、こんな風に、言われるなんて思ってなかった。
考えたら分かるのにね。
オレが好きになった人が、そんな人じゃないなんてこと。
やっぱ、、オレってばかだ。
どうしよう、、。
どうしたらいいんだろう。。
いつ、、電話が来るの?
今夜?
明日?
それとも、、明後日?
オレは、それを、、きっと、、多分、、絶対に、、。
心待ちにしてしまう。
雨が、、激しくなってきた。
ふぅ、、。
やっと立ち上がると、また、歩き始めた。
とにかく、会社へ行って、今日は早く帰ろう。
オレのこの状態を見れば、課長も早く帰ることを許してくれるだろ。
会社に着くと、、、受付の女の子が目を丸くしてオレを見た。
「二宮さん、大丈夫ですか?」
「あぁ、ごめん。床が濡れちゃうよね」
「そんなことはいいんです。
早く着替えないと、、」
「そうだね。課長に言って、今日はもう帰らせてもらうよ。じゃ」
足早にエレベーターに乗ると、自分の課がある階を目指した。
床には、薄く雨の水が、落ちてる。
「ただいま戻りましたぁ」
「あぁ、おかえり、、な、、さい」
一番前に座る子の驚いた声。
「二宮!おまえ、傘持ってなかったのか?」
櫻井課長も驚いて、声を掛けてきた。
「すみません。急に雨に降られちゃって。
あの、、着替え持ってないので、今日は、帰っても?」
「あぁ、そうしな。
風邪引くぞ」
「はい、、じゃ、これで、、失礼します」
挨拶すると、同期の松潤がタオルを持ってきてくれていた。
「にの、これで拭きなよ」
「ありがと、潤くん」
「どうしたの?にのらしくない」
「、、、そう?
ま、そういう時もあるよ」
「だって、いつものにのなら、どっか雨宿りするとか、タクシー使うとか、、」
「ふふ、、油断してただけ。
ごめん、オレ、帰るわ。タオル、借りてくね」
「あぁ、気をつけて、、」
心配そうに見送ってくれる同期入社の松本潤に、悪いとは思いながらも、また、早足で会社を後にした。
外は、まだ雨が降ってる。
けど、、これだけ濡れてりゃ、もう同じだ。
オレは、腹をくくると、そのまま歩いて帰ることにした。
ギリギリまで、朝、家に居たいオレは、会社の近くにアパートを借りている。
いつもは、3区間ほどバスに乗るけど歩けない距離じゃない。
歩きながら、、また、思うのは、あの人のこと。
結構せっかちなあの人は、きっと、、そんなに時間を置かずに連絡してくる気がする。
オレは、その時、なんて答えればいいんだろうか。
本当のことなんて、絶対に言えないのに、、。
連絡を心待ちしてる自分が、、。
とても、厄介で、、
苦しいよ。