もう後ろを振り向くのはやめようか


私は考える事をやめた。


考えるのは今日の事のみ。いつか見た明日の結末も、迫り来る昨日の過ちも。


大した事じゃない。世界は広い。私の見ているこの日常など、何も特別な事は起きてはいない。


私はとにかく、焦らない様に心がけ、ただ、前だけを見ました。


そして、全てを受け入れる事にしました。良いも悪いも。


面倒だった仕事も、嫌いだった人間関係も。出て行った彼女の事も。借金の事も。


そうする事によって、私は現実を少しずつ見出していきました。


常に笑う様にしました。人間の脳はとても簡単に騙されるそうで、暗い気分でも、笑ってさえいれば、


気持ちが前向きになるそうです。


私の連れからは少し心配されました。


無理をしているのでは無いか?


当時、私はとても惨めに思っていたのでしょう。


高笑いしても目はやはり笑いません。


音楽を聞く様にしました。当時、連れの一人が気持ちが晴れる様にと、グリーンデイのアルバムを


持ってきてくれました。その中で、マイノリティと言う曲が大変気に入ったのを覚えています。


「少数派」


なぜか私はその単語に共感しました。





私は会社に呼び出されたものの、今の時間は12時を回った所。


正直な所、この先この仕事をやって行く自信など無く、もうクビでもいいと思いながら準備をしていました。


この先・・・誰かが言っていますが、絶望とは周りを眩しく見せる物だと思う。


車を走らせながら、すれ違う人や車。景色や音。全てが今の私には・・・


憧れというよりも、嫉妬の方がしっくりくるこの感情は、我ながら情けなかった。


会社に着き、事務所に入るや否や、罵声が飛び交った。


私は聞くだけだ。これは私が無断欠勤したので相当頭に来たのだろう。


この3日間、酒に入り浸っていたのでまだ頭はもうろうとしている。


叱咤激怒されようとも、もはや何も思わなくなっていました。


数分が経ち、社長は私に尋ねました「どうしたい?」と


こんな無断欠勤して酒臭い、死んだ魚の目をした私に、選択肢を与えてくれました。


その気持ちが一番嬉しくて、泣きました。


自然に出てきた言葉が、続けさせて下さい。の一言でした。


社長はうんうんと頷き、わたしの頭をポンと叩くと、後は理由など聞いてはきませんでした。


私は家に一度帰り、翌日からまた仕事に出ることになりました。


部屋に帰っても何も変わりませんが、私はこの日、自分を捨てる事にしました。


弱い自分と決別し、前を見て生きて行くために。


私の人生。


女に貢いで、ストレス溜めて、八つ当たりして、親に迷惑掛けて、悲しませて。


勉強も投げ、仕事も投げ、友の忠告も聞かず、呆れられて。


私は自分が正しいと信じて来た道は、振り返れば誰もいない。一人ぼっち。


残ったのは、膨大な借金だけ。


ああもういいだろう。


来世がんばろうか。


みんな迷惑かけたね。


自分の人生だ。後悔はしていない。


そう自分に言い聞かせ、楽に死ぬ方法を探していた。


よく聞くのは練炭だ。部屋を密閉し、練炭を燃やし、酸素を無くして行く。


人間は酸素濃度が6%を切ると死ぬ。こんな感じだ。


(今は少し詳しくなったので、あえて言いますがこの方法はお勧めしません。


一般的に酸素欠乏症とは、一瞬で死ぬので楽だ。等といってますが、


あれは大嘘で、酸欠は、倒れた後、しばらく意識が残り、それはそれは苦しいそうです。


私のようなビビリの方は絶対やめましょう。)


わたしは練炭か睡眠薬か悩んでいた。


そんな時、電話が鳴った。


私は少し胸が高鳴った。彼女からの電話を期待していたのだろうか。


しかし、電話は会社からでした。


もう電話を握っていたのもあり、私は出ることにした。


「なにをやってるんだ」


電話のスピーカーが割れて声が声になっていないような声でした。


社長でした。


こんな社長初めてでした。普段はやさしく、私はどちらかと言えば、舐めて掛かった様な社長。


私は一気に視界が広がって行く感覚を覚えた。


社長は今から来いと言うことで、私は怖いながらも、気持ちが高まったのが分かった。