【執筆ノート】 『世界への信頼と希望、そして愛──アーレント『活動的生』から考える』 | ねぇ、マロン!

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今日、こんなことがあったよ。
今も、うつ病と闘っているから見守ってね。
私がどんな人生を送ったか、伊知郎、紀理子、優理子が、いつか見てくれる良いな。

曽田歩美様に頼んでマロンの絵を描いていただきました。

【執筆ノート】『世界への信頼と希望、そして愛──アーレント『活動的生』から考える』

三田評論ONLINEより

  • 林 大地(はやし だいち)

    舞鶴工業高等専門学校非常勤講師、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程・塾員

あの修士論文、書籍化したいよなあ──指導教官がそうぼそっと呟いたことがすべての始まりだった。

本書は、ハンナ・アーレントの主著『活動的生』を「世界」概念を主軸として読み解くことを目的としたもの。主題は「誕生」と「死」、そして「出生性」と「不死性」。修士論文に加筆修正を加え、本書は出上がった。アーレントが『活動的生』を通じて私たちに伝えようとしたメッセージは何だったのか──ずっと考え続けていたのはこの問いだった。

修士論文を書いているとき、まさかこれが1冊の本になるとは思ってもみなかった。けれども、指導教官に編集者の方を紹介してもらったその瞬間から、いろいろなことが動き始めた。1年前の自分に言っても、たぶん信じないだろうと思う。

本書を作るうえで大事にしたのは、「私という人間はアーレントをこう読みました」ということの表明となるような文章を書くこと、言いかえれば、私という存在がそこに透けて見えるような、そんなアーレント研究にすることだった。たしかに「私」を前面に出すのは研究のご法度かもしれない。しかしそれでもやはり、たとえひそかなかたちであれ、私がこれまで生きてきた証しのようなものをそこに籠めることができる本にしたかった。

小林秀雄が『人間の建設』で述べた言葉「学説は書きますよ、知識は書きますよ、しかし私は人間として、人生をこう渡っているということを書いている学者は実に実にまれなのです」、あるいは大江健三郎が『文学ノート』に書いた言葉「作家は、自分にとってこの世界のなかに実在しているとはこういうことなのだ、と、かれより他の人間にたいして連絡したいのである」、私はこれらの言葉から影響を受けた。

だからこそ、加筆修正の結果、字数が大幅に増えてしまったことを恐る恐る伝えたときの編集者の方の言葉──字数については気になさらず、とりあえずは思いのたけ、存分に書いてください──は、この「私」を前面に出すスタイルが肯定されたようで、本当に嬉しかった。

私は今でもこの言葉に励まされている。

『世界への信頼と希望、そして愛──アーレント『活動的生』から考える』
林 大地
みすず書房
424頁、4,180円〈税込〉

 

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。