【特集:変わる家族と子育て】 座談会:子育ての意識変化とそれを阻むもの | ねぇ、マロン!

ねぇ、マロン!

おーい、天国にいる愛犬マロン!聞いてよ。
今日、こんなことがあったよ。
今も、うつ病と闘っているから見守ってね。
私がどんな人生を送ったか、伊知郎、紀理子、優理子が、いつか見てくれる良いな。

曽田歩美様に頼んでマロンの絵を描いていただきました。

【特集:変わる家族と子育て】座談会:子育ての意識変化とそれを阻むもの

三田評論ONLINEより

  • 西村 純子(にしむら じゅんこ)

    お茶の水女子大学基幹研究院教授、グローバルリーダーシップ研究所所長

    塾員(1998社修、2002社博)。博士(社会学)。明星大学人文学部教授等を経て2023年より現職。専門は家族社会学。著書に『子育てと仕事の社会学 女性の働きかたは変わったか』等

  • 藤田 結子(ふじた ゆいこ)

    東京大学大学院情報学環・学際情報学府准教授

    塾員(1995文)。英ロンドン大学大学院博士号(コミュニケーション)取得。2023年より現職。専門はメディア・文化、人種・ジェンダー等。著書に『ワンオペ育児』『働く母親と階層化』(共著)等。

  • 中野 美奈子(なかの みなこ)

    フリーアナウンサー

    塾員(2002商)。大学卒業後フジテレビジョン入社、「めざましテレビ」等で活躍。12年、同社退社、フリーとなる。2023年内閣官房「こども未来戦略会議」有識者構成員となる。

  • 平野 翔大(ひらの しょうだい)

    産業医・産婦人科医/医療ジャーナリスト

    塾員(2018医)。産業医・産婦人科医として働く傍ら、ヘルスケアベンチャーの専門的支援、医療ジャーナリストとしても活動。一般社団法人Daddy Support 協会代表理事。著書に『ポストイクメンの男性育児』。

  • 稲葉 昭英(司会)(いなば あきひで)

    慶應義塾大学文学部人間科学専攻教授

    塾員(1958文、87社修)。1989年東京都立大学大学院社会科学研究科社会学専攻博士課程中退。首都大学東京人文科学研究科教授等を経て2014年より現職。専門は計量社会学、家族社会学。

子育ての移り変わり

稲葉 本日は皆さんお忙しい中、お集まりいただき有り難うございます。今日は家族と子育ての変化をテーマに、皆様とお話ができればと思います。

男女共同参画が言われて久しい中、家庭内での性別役割分担の見直しも進み、育児に対する考え方も、男性の育休取得率の上昇など、この10年で変化が見られるようになったとは思います。一方、まだ政策や意識、行動のレベルで私たちの社会は様々な問題を抱えているようにも見受けられます。

まずは簡単に自己紹介と、差し支えなければご自身の子育てとのかかわりをご紹介いただければと思います。

中野 私は現在、2歳と7歳の子どもを育てながら、出身地の香川でUターンという形で子育てをしています。

私自身の子育てに関しては、両親が歩いて5分ぐらいの距離にいますので、仕事で東京に来る時は両親の力を借りてなんとか仕事をできているという形です。本当に両親がいなかったら仕事をできないというぐらい、すごく頼りにしてしまっています。

また、昨年、「こども未来戦略会議」の有識者構成員に選ばれまして、そこでいろいろと、少子化の課題などについて自分の意見を述べる機会をいただいています。

平野 私は現在30歳で、本業は産業医です。もとは大学の産婦人科の医局にいたのですが、今、女性の健康ケアについて各企業が関心を高める中、都内20社の産業医を担当しています。

また、もう一つの仕事として、男性育児、育休の支援をやっています。これまでいわゆる「イクメン」の流れで男性育休が推進されてきましたが、それをできる環境がちゃんと整っていない中で、「育休を取れ」と言われる状況に対する危機感を、産婦人科医、産業医の現場から感じていました。それに対する一つのソリューションとして自治体・企業での支援システム作りを、男性の当事者の方と一緒にやっています。昨年『ポストイクメンの男性育児』という男性育休に関する書籍を出させていただきました。

藤田 私は、もともと社会学の分野でもコミュニケーションが専門です。でも、あるきっかけで「毎日新聞」で子育てに関する連載をすることになり、「ワンオペ育児」について書いたら、その言葉が世の中に広まるきっかけになりました。これは私が作った言葉ではなくネット上で使われていた言葉でしたが、それを広めたことになってしまい、その年の流行語大賞にノミネートされました。

そのような背景もあり、エスノグラフィ、フィールド調査も並行して、そうした研究を一昨年に共著で出しました(『働く母親と階層化』)。

西村 私はずっと家族社会学の分野で研究をしてきました。これまでワークライフバランス、あるいは女性の就業や子育てに関わるような課題について、主に量的なデータを使って、今がどういう状況なのか、これまでどのような変化があったかなどを中心に見てまいりました。今は主に時間というところに注目して研究してみたいと思っています。

稲葉 最後に私ですが、ちょうど平野さんの二倍ぐらいの年齢になります。子どもは一人で、もう30歳になり、子育ての期間は終わったのですが、妻が新聞社に勤めていたので私が家事と育児を全部やってきました。よく嘘だと言われるのですが(笑)、100%私がやっていまして、今も基本的に家事は私の役割です。

ですので、一応、育児をしている人の苦労や気持ちは私なりに理解しているのかなと思っています。やはり子どもは一人が精いっぱいだったなと思います。31の時に子どもが生まれたのですが、30代は研究者は研究しなければいけない時期で、苦しかったですね。

よく子育てと仕事の両立の話になりますが、私は両立できなかったという感じで、どちらかというと仕事を無理せずに育児を優先せざるをえなかった感じがしています。

「パパ育休」の企業格差

稲葉 では、子育て世代の現状と悩みということで、今、子育ての渦中にある中野さんから、現状、どんなところで苦労されているかなどを、述べていただけたらと思います。

中野 私自身、やはり両親が近くにいることで、すごくサポート体制に恵まれているとは思います。ただまわりを見ると、それこそ「ワンオペ育児」をされている方がたくさんいる。

今、実際に産後パパ育休を取る動きがすごく増えていると思います。ただ地方に実際に住んでみるとわかるのですが、東京の大企業などではパパ育休を取らなければいけないという風潮もあるし、会社の中でも取得を促進する動きがあると思いますが、地方はそれが進んでいません。

特に建設業など男の人が中心の会社だと、自分が育休を取ったらまわりの人の負担が増えてしまうということから、なかなか休みが取りづらいようです。

また、今は育休を取るとお給料の6割がサポートされますが、それでもやはり給料が減ってしまう。特に地方だと、両親が近くに住んでいる人が多いので、父親が育休を取るより、祖父母に子どもを預けてフルで働いたほうが給料が減らない。おじいちゃんおばあちゃんも、孫の面倒がみられてハッピーとなることが多い。

パパ育休は、私もすごくいい制度だと思うのですが、地方や職種によってはなかなか浸透しづらい部分があるのかなと思っています。

平野 先日、ニッセイ基礎研究所が出していたデータでは、コロナで一度、地方回帰が進み、地方の人口は増えたものの、今、また都会流出を起こしている。特に一番都会に出ていくのが、18―22歳の女性だそうです。

その原因の一つは、育児をしてもらえるパートナーや、それができる制度が整った会社を若い女性が志望するようになったからだと。その環境は、なかなか地方では叶えられない。そこで結局、都市圏での結婚を望んで出て行き、都会が女性過多になるそうです。

男性育休が取れるようになってきたのは確かにその通りです。今、給付率を100%相当にしたり、男女ともに育休を取ることを要件にしている大企業もあります。しかし、中小企業や個人事業主が対応できているか、というと実態は全然追いついていません。

大企業とそうでないところのギャップはすごく広がっていて、問題になっているのだろうと思っています。

稲葉 企業格差のようなものが、やはり育休の取りやすさにも反映するということでしょうか。

平野 明らかにそうですね。

藤田 それは地方と東京の差だけではなく、首都圏でも格差はあると思うのです。私たちが2年前に出した研究では階層によって違いが出ることが明らかでした。非大卒のお母さんたちに話を聞くと、彼女らの夫は建築現場で働いている方が結構多いのです。妻は保育園に子どもを預けている、ソーシャルワーカーや介護士、ケアマネ、看護師の方が多い。

すると、男性が会社を休んで家で子どもの世話をすることなんて考えられないようです。夫は家に帰ってきてもスマホでゲームをしながら寝ていて、「パパ、やってよ」と言ってもやってくれない。そういうことが都会でも普通にあって少し驚きました。

一方、大企業に両方とも勤める高学歴のカップルの話を聞くと、すごく先進的で、パパも子どものイベントに積極的に参加し、当然育休を取るような話がたくさん聞かれる。同じ首都圏でも、全然違う価値観で生きている層がいるわけです。

父親が育休を取っているのは全体で17%ぐらい(令和5年度厚生労働省調査速報値)ですが、それは都会の高学歴で先進的なカップルが多いのが現状なのかなと思っています。

年々増える育児時間

稲葉 階層間の格差が大きいということなのでしょうか。これは西村さんのご専門だと思います。

西村 私も藤田さんのご著書を拝読して、夫婦の学歴の組み合わせと育児へのかかわり方への違いがかなりはっきりと出されていて、気付かされるところが多くありました。

私は最近、女性の家事や育児に費やす時間が世代によってどのように変化してきたのかを分析したのですが、家計経済研究所が実施してきた『消費生活に関するパネル調査』によると、1960年代後半生まれと1980年代前半生まれを比較すると、家事育児時間のトータルが、若い世代のほうが一時間以上少ないことがわかりました。

しかし一方で、若い世代では高学歴層ほど家事・育児に長い時間を費やす傾向が見られるようにもなってきています。階層間の格差というか、おそらくは子育てに対するかかわり方の違いが、近年、拡大しているのではないかと思いました。

稲葉 社会生活基本調査という国の大きな調査がありますが、それを見ても、育児時間は近年増えていますね。一方で家事時間は減っている。一組あたりの夫婦が産む子どもの数は少し減っていますが、子どもにかける時間はむしろ増えているという傾向があります。

また、かつて日本の女性は、学歴にかかわらず出産したら退職するという傾向が強かった。ところがこの4、5年のデータを見ると出産時退職が非常に減って、4年制の大卒女性だと、出産直後でも4割ぐらいは正規職として就労しているんですね。

非大卒の人たちも基本的には出産退職が減っている。そのように、階層に関係なく、女性が出産後も仕事を続けている傾向は明らかに出てきていると感じます。

日本の「子育てのしづらさ」とは

稲葉 そういう中、育児のあり方はどう変わっているのでしょうか。中野さんは育児では、どういう点で苦労されましたか。

中野 様々なところで問題になっている「子育てのしづらさ」は、やはり今の日本にあると思っています。私は第1子が生まれてから3歳ぐらいまでシンガポールで生活していたのですが、皆、当たり前のようにベビーカーも持ってくれますし、妊娠している時は電車に乗ると必ず席を譲ってくれました。

本当に自然に接してくれるので、子育てに関して海外生活で大変だったところもありますが、ストレスに感じたことは正直なかったです。

稲葉 社会が協力的だったと。

中野 そうです。それが、日本に帰ってきて、新宿から京王線に乗り換えようと思った時、新宿駅でベビーカーで迷っていても誰も助けてくれない。エレベーターは果てしなく遠い。どこに行ったらホームに行けるのだろうと困っていても、皆、素通りなんですよ。これがいわゆる日本で子どもを育てる際の、育てづらさなのかと実感しました。

都会で子育てをされている方は、今でも双子のベビーカーでバスに乗ったら何か言われたり、公園ですら「子どもがうるさい」と言われるという話もよく聞きます。

「こどもみらい戦略会議」でも、子どもが優先して並べる優先レーンを作ろう、ということが話題に上がるのですが、そういったものを作る前に、皆の意識を変えるのが先なのではと思います。普通に子どもを大事にする社会、「すみません」と言わなくても、子ども連れには譲ってくれる社会、子どもが騒いでも許容する姿勢を国民全体が共有する社会。それが当たり前である社会にすべきなのではないかなと思うのです。

藤田 私も子どもが小学生ですが、子育てしにくいな、ということは感じています。

中野さんがおっしゃった駅のエレベーターがとても遠いところにあることは、いつも感じています。これは、最近よく言われるジェンダー視点で、主に男性がデザインしているのだと思います。女性や母親の視点で街がつくられていないということが、最近、いろいろな研究で言われていますが、そういうジェンダー不平等の問題があるのだと思います。

実はベビーカーの問題は1970年代から繰り返し社会問題になっています。50年前の新聞記事を読むと、ほとんど同じような議論があり、それが繰り返されているのです。

そうしたジェンダー不平等や、性別役割分業、また労働の価値の問題がすごくあります。つまり、外でお金を稼ぐ労働は価値があるけれど、家庭内の無償労働、ケア労働はお金を産まないので価値がないというような議論です。社会の中に、ベビーカーを押している人よりも働きに行く人を優先するような意識がどこかにあると感じます。

稲葉 社会空間がジェンダー化されて作られているので、ジェンダー平等を求めるとぶつかってしまうと。

藤田 それと、日本は欧米と比べて家事時間が少ないと言われていますね。欧米はDIYをしたり、お客さんを呼んだり、家庭での時間をもっと豊かにしようとしている。しかし日本では家というのは母と子どもの空間だから、家事を最低限にすることに一生懸命です。今はメディアで、時短術がもてはやされていますよね。掃除も時短、料理も時短、家事は最低限というような言説がすごく強い。

しかし、その一方で、先ほどあったように子育ての時間が延びています。世界中でIntensive Mothering と言われるように、子育てにはすごく愛情と時間をかけ、教育にも時間をかけるという意識がすごくある。そこは何かすごく複雑な問題が絡みあっているのだと思います。

育児を家庭に閉じ込める社会

平野 日本は高度経済成長期から、育児を家族の中に閉じ込め過ぎた、と個人的には思っています。

家と書いて「うち」と読む。これはすごく日本らしいと思います。育児というものは家庭で責任を持ってやるものだという観念が、どことなしか社会にある。高度経済成長期に核家族化した家庭でのみ子育てをやるようになって、専業主婦が登場し、いわゆる母性神話みたいなものが生まれて母親が全部コミットすることが、子どもにとってよいことだという考え方ができたのではと思うのです。

もちろんこの考え方は今では否定されていますが、今の男性の育児参加の流れも、お母さんが社会で働くのであれば、次に育児をするのはお父さんだよねということですよね。それ以外の選択肢が出てこない。「両親で、家の中で完結させてください」という議論で、いろいろな制度設計が進んでいるように思えます。

本来子育ては、もう少し社会で分担していくという考えのもとに制度や文化も再構築していかなければいけないと思います。母親が負っていたものを、今度は父親にも負わせれば何とかなるという議論になっているのではないか。母親を追い込んでいたものが、今度は両親を追い込むことになりかねないのではという危惧を抱いています。

西村 母親を追い詰めていたものが、今度は両親を追い詰めることになるのではというのは、本当にそうだなと感じるところがあります。

なぜ男性が育児休業を取りにくいかに関する研究などを見ると、父親たちは、職場では、男性だったらこれぐらいやれるだろうと、これまでと同じような量と質の仕事を求められ、自分もそうあらねばと思っている。そういう中で、なんとか時間をやりくりして育児に時間を割いている。例えばいったん帰宅し、子どもをお風呂に入れて、また職場へ戻るという状況さえあるようです。

このような状況は、藤田さんがおっしゃったようにケアやケアをする人を、社会がとても軽く見ていることから生じているのではないかという気がします。仕事を優先する人が職場では評価され、家庭の中にもそういう価値観が持ち込まれている。仕事はやって当然で、残りの時間をやりくりして育児をするのが正しいというような考え方、規範意識のようなものが、社会にあるのではないでしょうか。

自分の生活を振り返っても、そういう気がするのです。藤田さんが、欧米のお客さんを招く文化の話をされましたが、自分も、理想的には週末に友達に家に来てもらって楽しくおしゃべりする時間を持ちたい。海外からどなたかいらっしゃったら家にお迎えしたい、と思うのですが、反面、その準備は誰がやるの、と考えてしまい、今度も無理と思ってしまうことが多い。

ケアや家族で楽しむこと、プライベートな時間を充実させることの優先順位が、社会の中でとても低くなってしまっているのではないでしょうか。

ケアを重視しない社会

稲葉 男性はまず稼得役割というか、世帯の家計を支えるということが第一に期待されているところがある。これはアメリカでもそうです。その期待が非常に強いので、まずそれを優先して、残った時間で育児や家事をという形にどうしてもなってしまう。

逆に男性が実際に育児や家事をやっていても、なかなか職場ではそうは思われないのではないでしょうか。私が育児をやっていたのは随分前ですが、職場では誰も私がそんなことをやっていると思わないので、残業はどんどん降ってくるし、雑用も振られるし、ものすごくきつかったですね。

一方で、同じ大学の教員でも女性は出産されると、やはりまわりが配慮するところがあるんです。でも男性については、そういうところはなかったなと。それも育休の取りにくさと関連しているのかなと思っています。

平野 産業医をやっていて思うのは、日本では子育てのようなケアだけでなく、往々にしてセルフケアより仕事が優先されるんですね。それは会社もそうだし、本人もそうなんです。明らかにメンタルを病んでいる人が、回らない仕事のことを考えているわけです。

それぐらいケアというものに対して金銭的な価値もプライオリティも置かれていない。これが近年の話なのか、国民性なのかはわかりませんが、結局、誰もが人をケアするし、自分をケアする、ということが当たり前になっていないんだなと思います。育児でなくても自分をケアする時間やパートナーをケアする時間があってもいいはずです。

私の知人で助産師でありながら会社を経営している方がいますが、彼女のまわりはケアする側の立場である助産師なので、多忙な経営者であってもお互いにケアをして当然だよね、みたいなところがあります。子どもができたらお互いに行き来し合う。一晩うちで見るからゆっくりお風呂に入っておいでよ、というようなことを当たり前にやっている。

人をケアすることは同時に自分をケアすることであるとなってくれると、育児やまわりのケアに、もっと皆の目が向くのだろうと思いました。

家事の外部化という選択

稲葉 なるほど。ところで中野さんは家事代行サービスなどは、あまり使われませんか。

中野 家事代行は、子どもが生まれる前から丸亀市のシルバー人材センターというところを利用しています。

高齢者の方が週に3回ぐらい、私が子どもの時から、人は替わっていますが、来てくださっているんです。ちょうど私が二人目を出産した時に、母が足をケガして、2カ月ぐらい入院したんですよ。一番厄介だったのは、父を見なければいけなかったことです。すごく昔の人間なので、お茶を出せとか漬物を切れとか言うんですよ。

産後、私もヘロヘロなのにそう言われてとてもイライラして、その時にシルバー人材の方が、多めに来てくれたことが本当に有り難かった。何より話し相手がいてくれるという安心感は、産後、すごく心の支えになりました。

稲葉 主にハウスクリーニングをやってもらった感じですか。

中野 そうです。お料理ではなく、掃除機をかけてもらったりとかですね。

稲葉 西村さんもシルバー人材を使われていましたか。

西村 はい。うちは子どもが小さい時からずっと頼んでいます。

稲葉 お子さんが多いですから。4人いらっしゃるので。

西村 シルバー人材センターにお願いするのがコスト的にもリーズナブルで、割と地元の近所の方が来てくださるという安心感もありました。週2日ぐらいは来ていただいて、掃除と、夕食を作ってもらう時もありました。

稲葉 家事代行サービスを上手く使うことで両立が可能になったという部分はあるわけですか。

西村 それは大きかったと思います。どうしても自分が帰れると思っていた時間に帰れないこともあるので、帰った時に夕食がある程度できているということはすごく有り難かったです。

稲葉 藤田さんはそういうものを使われましたか。

藤田 使いました。でも、西村さんのように4人子どもがいれば、来ていただくことですごく助かると思うのですが、うちは子どもが一人なので、シルバーだと近所の年配の方が来るから逆にすごく気を使ってしまって。時間のマネジメントもしなければならないので、これはあまり意味がないのでは、と思ったこともあります。

稲葉 平野さんはそういうサービスは使われたことはありますか?

平野 私は実は社会人2年目から使っています(笑)。

中野 一人暮らしで?

平野 そうです。自分自身、無茶苦茶な働き方を臨床現場時代はずっとしていたので、荒廃していく家事を見てお願いしたという経緯がありました。

産業医として子育て世帯に対してもこういうサービスをご案内することはあります。その一番の意義は孤立しないことです。しんどいと思った時に2人で家に籠られてしまうとどうしようもなくなるので。

家事代行を入れること自体、もちろん自分の手数を減らすこともそうですが、自分自身がケアされていると感じることができる。自分が気付いていないことがあった時にここをこうしておきましたと言われると、自分の生活をケアしてもらえると感じて少しうれしい。そんなこともあるのではないでしょうか。

手作りにこだわる理由

稲葉 やはり家事代行サービスを使うことで、可能になっている部分もあるということなんでしょうね。僕はあまり使わなかったんですよね。だから家の中が荒廃してしまいまして(笑)。

家事代行などを使う一方で、これはあまり外部化しないという部分もありませんか。食事は手作りにこだわるとか、そういうこともあると思うのです。

中野 うちはスーパーもすぐ近くにありますし、それこそ母が近くに住んでいるので、おかずをもらったり、あげたりという部分では手作りにはこだわっています。

稲葉 それはやはり健康にいいとか、安全性の部分ですか。

中野 そこまでこだわりはないのですが、お野菜がすごく安く買えるのが大きいですね。香川では市場のような所で買うのですが、生で食べられるぐらいすごくおいしい。せっかくこんなものがあるのに料理をしないのはもったいないと思い、手間はかかりますが、それこそ今は時短のレシピなどがたくさんSNSに上がっていますので。

稲葉 やはり子どもが生まれると、手作りのものをという人は多いですよね。

中野 それは人によりますね。こだわる人はたぶんすごくオーガニックにこだわって、熱が出てもキャベツを頭に載せたり(笑)。

西村 私自身は、自分が作らなければいけないという感じは全然なくて、シルバーの方にお願いして作っていただいたものを食べることもまったくオーケーです。今はいわゆる週末にドンと届くようなものも結構利用しています。

藤田 私たちの調査では、フルタイムで働いている正規雇用の人は、サービスや調理器を活用して夕食を用意するという話が多くて、非正規や主婦の方はなるべくきちんと手作りしたいという人が多かったです。

非正規の方は、つまり家族のケアをするために非正規なので、夕ご飯を買ってしまうと意味がなくなってしまうんですね。そうすると、自分のアイデンティティの問題で作る。専業主婦の方からも、夫に家事をやられると私のやることがなくなってしまうから、夫には家事はやってほしくない、という話がたくさん聞かれて驚きました。

稲葉 ゲートキーピング仮説というやつですね。

藤田 皆さん、自分の家庭での存在価値にすごくこだわりがある。専業主婦のコミュニティでは手作りが当たり前という感じなんですよね。だからやはり働き方、仕事によって結構違うということは日本の中でもあります。

一方、中華圏はテイクアウトがすごく充実して朝ごはんも外で食べたりするぐらいです。また、アメリカやイギリスは、チンするレトルトがものすごく充実しています。最近読んだ論文によるとcooking 自体が、アメリカだとheatingと同じ意味になっていると。一から材料を切ったりするのはすごく手の込んだ料理で、普通のcookingではないのだそうです。

ですので、簡略化されつつあるけど、他の国と比べると日本はお母さんの手作りがまだ多いのかもしれません。今、服は60年代以降は既製品がいっぱい出たので誰も作らないですよね。海外では、家庭の料理も服のように買ってくるものになるのかもしれません。

稲葉 そこをどう評価するかということはありますよね。先ほどケアの評価が低いという話がありましたが、逆に家事や育児の価値が高いと言えるところもありますよね。つまり料理などは手作りのものを大事にして、それを出すことに価値があるということで、それを優先する。でも、それではやはり両立が難しくなるという批判も、当然あります。

私自身は実は手作りに非常にこだわりまして、まず外食はしないですね。お総菜もあまり買わないで自分で作ります。やはり、子どもが生まれてからは随分こだわるようになって。だから両立ができなかったのかもしれません。

結局、両立するには家事時間を減らさなければいけないわけです。逆に非正規の人たちは、むしろ家事や育児を優先して合間に仕事をするという選択をしているので、家事などは手作りにこだわるということでしょう。

そういう家事や育児のあり方をどう評価するかは、なかなか難しいですね。料理などは手の込んだものを作らずにミールキットを利用して外部化すればいいんだという意見も、当然あるかと思います。ただ、そうはいってもそこまで割り切れないのも本当なのかなという気もします。

こだわりが増す子育て事情

中野 価値観が様々ですよね。主人は、お総菜に抵抗があって、買ってくるとどこで作ったかよくわからないからと文句を言うので、私はお総菜をリメイクしているんです(笑)。パートナーが同じ方向を向いていたらいいけど、片方がオーガニック志向で片方が全然そうではなかったりすると結構きついですよね。子どもが生まれたら特に。

平野 妊娠期の調査などでよく言われるのは、子どもの食の手作り志向にこだわりがちなのはむしろ男性なんですよ。女性のほうが現実を見て、時短でいい、出来合いのものでいいとなっていくという調査は出ています。

藤田 それはたまにしかやらないというのもあるでしょうね。私たちの調査でよく出たのは、「うちのお母さんは作ってくれた」みたいな男性の意見が結構聞かれて。

中野 味噌汁の味が違う、みたいなことですよね。

藤田 うちのお母さんは手作りしたのに何でおまえはやっていないのと夫に言われて頭にくる、みたいな話を繰り返し聞きます(笑)。

稲葉 日本は高度成長期ぐらいに性別役割分業が成立して、専業主婦がその時期に誕生した。そして家事や育児がどんどん複雑化、高度化していったということはありますよね。そしていったん高度化した家事や料理の水準を落とすというのは、やはり抵抗がある。

複雑化してしまった料理や子育てを、これから簡単にしていくのがいいのか。家事代行みたいなものを使って水準は維持していくのがいいのかというあたりの選択なんでしょうか。

平野 子育てに関して言えば、私は時代を追うごとに、強迫的になっていくように感じています。貴重児と言われますが、子どもは一人だけで、その子もやっと40歳になって不妊治療で得た子ども。もう、そこを崩したら全て終わるみたいな感じで、ある意味すごく強迫的になって視野が狭くなって育児をしている。それゆえにこだわりが強いのです。

客観的に見れば、その食事一つでは子どもの人生を変えないぞと思うのですが非常にこだわる。誤嚥するようなものを食べさせたら別ですが、オーガニックの人参と普通の人参ではほとんど変わらないでしょう。まさに高度化したところに重なるようにすごく強迫的になっているという印象は、いろいろ話を聞いていて思うところです。

稲葉 実際、育児時間は、先ほど述べたようにどんどん増えています。これは大卒でも非大卒でも同じで、共働きでも、いわゆる専業主婦世帯でも育児時間がどんどん延びていて、子どもに時間とお金をかける傾向がますます加速化している感じです。

先ほどIntensive Mothering いう話がありましたが、アメリカでもこの傾向は非常に強い。最近の研究だと、大卒でもそうでなくても、階層を超えて子育てに時間とお金をかけるという考え方自体が一般的になっている。ただ大卒層のほうが所得に余裕があるので、それを実現できているようです。

少子化対策と子育て支援

稲葉 少子化対策の話というのは、今日のテーマとどうしても連動してきます。日本でもやはり子育てに時間とお金をかけるからこそ、どうしても子どもの数も限定せざるを得なくなってしまう、という傾向もあるかと思います。そのあたりは何か、こども未来戦略会議で議論になりますか。

中野 今、若い世代の収入を増やそうとは言っているのですが、税金ですごく持っていかれて、手取りがすごく減っているということもありますよね。それで2人目を持ちたいという時になかなか収入が増えなかったら、難しく感じることもあると思います。この状況で子どもを産んで、奥さんが育休を取って収入が減って、さらにそこでパパ育休をと思うととても産めないという声も、地方だとよくあります。

こども未来戦略会議では、それこそ3人目は高等教育無償化という声もありますが、まず一人、子どもを持つか、前提として結婚するか、しないかが重要ですよね。今、結婚したくない人も増えているじゃないですか。そこの部分をどう考えるかに、もう少し重きを置いたほうがいいのでは、とは思います。子どもを持ちたくなるような社会はどういう社会かということと、若者の賃金をもう少し増やす。それで子どもを持ちたいと思えるような風潮になればいいなと思います。

稲葉 少子化については社会学者の先生たちはいろいろと言いたいことがあるのではないかと思いますが、藤田さん、いかがですか。

藤田 もう東アジアはみんな少子化の流れですよね。

稲葉 韓国や台湾は出生率が1を下回っていますから。

藤田 中国もすごく急速に少子化は進んでいます。近代化の中で様々なファクターが影響を与えていて、小手先で何をしてもそんなに増えないのかなと。日本だけが減っているというのだったら違いますが。

稲葉 まさに先進国、全部減っていますからね。

藤田 でも、今、若い学生も、子育てが大変という話はメディアなどでとても多く聞くので将来にすごく不安があるのは確かだと思うのです。その中で、そんなに大変だったら子どもを持ちたくないという若い人もどんどん増えています。そこをどうするかということはあるとは思います。

子育てしない人も幸福になる政策

稲葉 西村さんはどうお考えですか。

西村 少子化対策としていろいろな政策が相次いで出されています。児童手当の期間を高校卒業まで延ばす、出産費用を保険適用する、多子世帯は高等教育を無償化するなどの政策が出てきています。経済面での政策的な支援は、この先、より充実していくのかなと感じていて、それは、やはり必要なことだろうとは思っています。

それに加えて、保育でも「こども誰でも通園制度」という、親が働いていなくても月に一定時間、子どもを預けられるようにする新たな通園制度もでき、育休も充実する。いろいろな支援が打ち出されるということはもちろんいい。それを今後ずっと継続していくということで若い人たちが子どもを持てるかなと、少しでも思えるようになることは大事です。

子育て支援に関連して、少し前の研究で、ヨーロッパおよびアングロサクソン諸国の政策をいくつかのカテゴリーに分け、ケアに関する休暇と柔軟な働き方、保育に対する給付という3つの政策の充実度を国別に数値化し、それらの充実度によって、親になっている人と親ではない人の幸福度がどのように違うかを検討した論文があります。

その結果で興味深かったのは、親になっている人と親ではない人の幸福度の差が最も小さかったのは、それらの政策がパッケージとして充実している社会だということでした。しかも、いろいろな政策がパッケージとして充実している社会は、親になっている人もそうではない人も幸せだ、という結果が出ていて、それは非常に示唆的だと思いました。

政策がパッケージとして存在しているということは、子育てをしている人を多面的に支えているということです。親ではない人もハッピーだということは、子育てに関する政策の充実が、親ではない人に自分たちは損していると思わせるのではなく、そういう人たちも幸せにする。そういう効果を持っていることを示唆しているように思います。

ケアに対する社会のサポートは、今、ケアに携わっている人だけではなく、もっと広範囲な社会全体に影響力を持ち得るということではないかと思っています。

日本でも子育て政策を充実させることは、直接的には今、子育て中の人たちを手厚くサポートすることかもしれない。でも、広い目で見ると、社会全体で子どもを育てているという意識や、自分が困った時に何か助けてくれる仕組みがあると思えることにつながり、波及効果を持つのではないかと思っています。

稲葉 大事な指摘だと思います。子育て支援を充実させるということは、子育てしない人の幸福感も上げるということですね。

平野 女性の健康経営で、まさにこれが今、起きていると思います。育児や出産についての休暇ばかりを一方的に推す企業は、男性からの不公平感がすごく出るんです。それに対して、きちんと教育をやったり、両立支援で女性の健康経営をやった企業は、男性も休みやすくなり、知識が増えてケアのほうにも頭が回るようになり、結局、男性も働きやすい企業ができあがっていく面があるようです。

婚活促進よりもセルフケアを

稲葉 中野さんが言われたように今、非常に未婚率が上昇していて、生涯、結婚しない人が男性が3割近く、女性はもう少し低くて2割ぐらいです。育児支援を充実させると社会の分断を生むという話もありますが、今の話だと、そうではないということになりますね。

少子化の基本的な原因は、結婚する人が減少していることが圧倒的に大きいんですよね。一組当たりの夫婦が産む子どもの数自体は、少しは減っていますがそれほど大きくは減っていない。すると、子育て支援を充実させることがどれだけ少子化に歯止めをかけることになるのかが議論になります。

藤田 私は、少子化になるという前提で社会の仕組みを考えるべきであって、無理に少子化を改善しようと婚活をさせたりするのは全く意味がないし、個人の幸せよりも産めよ増やせよみたいな政策は、若い人の感覚にも全く合っていないと思っています。

子どもが欲しい人が産めるようにするのは重要だとは思いますが、そうした的外れなことをするよりは一人一人が幸せに生きられる方向を考えていくべきでしょう。子育て支援自体が少子化対策に影響はなくても、きちんと子どもが幸せに生きていけるような形を考えること自体、まだ全然足りていないと思うんですよね。

平野さんがおっしゃったセルフケアにもつながっていると思います。日本は男性がセルフケアを全くしない。高齢者で具合が悪くても寂しくても、助けてと言ったら恥ずかしいという感じがあります。そういう人たちがいる社会では他人をケアする発想は生まれてこないと思うんですよね。そういう意味でも多面的に支え合うような社会になれば、いろいろなことが違ってくるだろうと思います。

平野 私は実は「推し活」ってすごいセルフケアだなと思っているんです。もちろん推している相手もケアしていますが、あれは何よりもセルフケアなのだと思うのです。

産業医面談で結構、「推し活をしています?」と聞くんですよ。これができなくなったら、まずいなと見ているぐらいです。ああいう自分が好きなことへの偏愛を語れるところも一つのケアとして、日本人の文化にはすごく合っていると思っています。子育てもある意味、そういう要素があるのだろうと思っています。

稲葉 セルフケアの問題というのは、社会学でも、特に高齢者の問題としてよく出てきています。今は未婚で高齢期を迎える男性が増えていて、そういう人たちがセルフネグレクトに陥りがちであるとよく指摘されています。そういう意味では、われわれの社会にあるジェンダーみたいなものを平等化していかない限り、この問題は解決できないという感じはしますね。

男性育児をめぐる諸問題

稲葉 この何年かのトピックとして重要なのは男性による育児ですが、このあたりの状況について平野さん、まず今後の課題や現状で思うところはいかがでしょうか。

平野 まず、男性の育休を、男性が育児をしたいから取得したのが北欧であるなら、女性の負荷を軽減して、出生率を上げなければ、ということからやったのが日本だと、総論的にはそういう捉え方をしています。そして、日本では、与えられたものとして男性育休、育児というものが降ってきたがゆえの、矛盾を今、生んでいると感じています。やはり多くの男性にとっては、今はやれと言われているからやっているような状況で、ここをいつ脱却できるかがポイントです。

若い世代は育休を取りたいと言っていますが、それは本心からやりたいと思っているのか、社会的にそういう権利を勝ちとることがいいと思っているのか、ほとんどの人は、おそらく子育てが何たるかをイメージできていない。

その状況で皆が子育てに入っていくからには、それがきちんとできるような環境を整えなければいけない。子育てはもちろん楽しく面白いものだと思ってもらいたいけれど、同時に家族にとって大きな負担を負わせることも、また事実ではあると思うのです。

そういったことを伝えながら、子育てという選択肢を取れる社会であるということ。育休も自分から取りにいく社会になると、その時期も主体的に選択する話になっていくのかなと。そのあたりの社会の意識、教育をもう少し分解したら、教育設備が足りない、行政支援が足りないという話になってくると思います。

稲葉 日本の男性の家事育児参加はずっと低いと言われてきたのですが、時間としては、最近、増えていますね。内閣府の2022年の報告書では、世帯全体で見ると、3分の1ぐらいの家事を男性がやり、育児も増えてはいる。

そういう意味では政策の後押しもあって、主体的に選んだのではないのかもしれませんが、家事育児へのかかわり自体は増えている。ただ、それでも多くの部分は女性が担っている実態はあります。保育園や幼稚園、小学校の保護者会などで、お父さんが参加することは増えていますか。

中野 すごく増えています。入学式などのイベントは、私の実感ではお父さんもすごくたくさん来ているなと思います。授業参観も私が子どもの時はほとんどお母さんしかいなかったので、増えているという印象はあります。

稲葉 そういう場でお父さんたちはお母さんたちのネットワークの中に、うまく溶け込んでいますか?

中野 溶け込んでいますね。お父さんは普通の会社員の方ですが、有休を取って子どもの晴れ舞台だから見に来ているという感じです。保護者会などでも、お父さん率は高いですね。

稲葉 それはだいぶ大きな変化ですね。

平野 先日、たぶん日本で一番大きな子育てイベントのベネッセの「たまひよファミリーパーク」というものがありました。私は展示側で参加したのですが、年を追うごとにどんどん男性率が上がっていて、ついに男性が男性の友人を誘って来た人がいました。

今までは女性だけか、夫婦で来るかでしたが、すごく急速な変革が起きているというのは、そういう面からも感じられると思います。

中野 少し前だと、たぶん男性が行っても気恥ずかしいので、行きたくても行けない人が多かったですよね。

稲葉 僕は皆さんよりずっと前に育児をやっていたので、保護者会などに行くと、大体男性は僕一人。するとこちらが気後れしてしまって、お母さんたちのネットワークに入れないんですよね。だから、例えばどこの医者がいいとか、どこの塾がいいといった情報が全く入ってこなかったんですよ。

藤田さんも保護者会では男性の方をお見かけすることは多いですか。

藤田 来てはいますが、でもやはり男性が増えているのは週末のイベントとか娯楽系ですね。

稲葉 サッカーとかキャンプとか。

藤田 やはり平日の昼の保護者会だと今でも少ないと思いますし、学校の行事も女性にとっては義務だけど、男性にとっては自分に余裕がある時に土日に参加したりするものという感じがあるのではないでしょうか。そこの部分は変わっていないと思います。

西村 小学校などでは、おやじの会というのがありますね。その会に期待されているのは、一つは溝の掃除、扇風機の汚れを取ったりする汚れ仕事。それからキャンプ、スイカ割り、花火等のイベントというのが典型的です。

そういったイベントでは羽目を外していいような雰囲気もあり、これは育児の場面での性別分業だと思うことがあります。お父さんと遊ぶ時はルールを気にしなくてもいいという一方、母親には相変わらず、子どもの身のまわりの世話が期待されているなど、育児の場面での性別分業を、より深めていくような方向性が、現状ではあるかなと思うことはあります。

若い世代の意識変化を後押しするには

西村 一方で若い世代の意識変化は、実際に起こっていると感じます。中学生と高校生を対象としたNHKの意識調査で、2022年では、将来、自分が子どもを持つことになった時、どのように育児を分担するのがいいと思いますかという質問に、中学生も高校生も7割程度が、母親も父親も同じようにかかわるのがいいと回答しています。

10年前、2012年のそれと同様の調査では、中学生、高校生ともまだ半数ぐらいしか、母親も父親も同じぐらい育児にかかわるのがよいという回答がなかったということです。10年の間に20ポイントも増えたというのは、かなり大きな変化ではないかと思っています。

これは若い男性たちがパートナーをもった時に、片方だけがケアを圧倒的に担うという状況はおかしいと、ようやく気が付き始めたということかもしれません。それは大きな変化だと思います。

それを社会が後押しする、皆が同じようにケアを担える働き方にしていくような形で、社会が若い世代の意識の変化をサポートするということがこれから必要ではないかと思っています。

稲葉 そうした意識を持っている人に、それが実現できるような社会的サポートをするというのはまさにその通りですが、一つは労働時間などをもう少し柔軟にして短くすることが不可欠です。配偶者が8時に帰ってくるようだと、未就学児や小学校低学年のお子さんがいる場合、かかわれませんよね。

平野 社会生活基本調査のデータから国立成育医療研究センター研究所の政策科学研究部が出していたのが、現在政府が目標としている「男性の家事+育児時間2時間半」を達成するためには仕事プラス通勤で9.5時間以内に収めなければ難しいということでした。

9.5時間というのは、通勤に片道45分かかったら、残業ゼロということになる。それぐらいじゃないと、まともに子育てはできないということです。残業したら特に未就学児まではほぼ子育ては無理、という意識が形成されてくると、社会は変わっていくのではないでしょうか。

稲葉 あとはやはりオンラインで仕事ができるような人たちは、多少、他の人たちよりは柔軟性はあるのかなと思います。

ただオンラインで在宅で仕事ができるというのは、ホワイトカラーで大卒の人たちが多数なので、それこそ階層差のようなものが反映されてしまうかもしれない。労働時間の長さ、短さというよりも柔軟性というか、両立可能な労働時間の重要性が、はっきりしてきたのかなという感じがします。その中で選択可能性があるということが大事なのかと思います。

平野 あともう一つはわれわれもそうですが、育児を支援する側、保育や医療、それこそ産婦人科医も、夫婦で来ているのに女性だけを見て話をするんですよ。ここが変わらなければいけない。支援側や制度設計側がちゃんと男性も育児をするんだという大前提のもとに動けるかどうかは、もう少し進まないといけないと思うのです。

稲葉 保護者会が平日の昼間というのも、仕事を持っている人は参加できないですよね。有給休暇を取れということなのかもしれませんが、簡単に取れないケースも多いでしょう。もう少し時間をずらして土曜や平日の夜にやるとか、そのあたりは変えてほしいというのはありますよね。

今日はいろいろなお話ができてとてもよかったと思います。長い時間、有り難うございました。

 

(2024年1月18日、三田キャンパス内で収録)

 

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。