【From Keio Museums】次元を思考する
三田評論ONLINEより
▲大山エンリコイサム(FFIGURATI #437)2022年
ポリプロピレンシート、アルミパイプ、他
H.51 x W.47 × D.47
Artwork ©Enrico Isamu Oyama
Photo ©Katsura Muramatsu
慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)では「大山エンリコイサム Altered Dimension」展(10月17日~12月16日)を開催している。都市の壁面や地下鉄の車体に名前をかき残していくライティング文化への関心から独自のモティーフ「クイックターン・ストラクチャー(QTS)」を展開する大山が、「もう一つの次元」についての考察と新たな表現に挑んでいる。
展示室に並ぶ複数体の立体作品──。整然と並んだ台座に対し、設置された作品自体は1体ずつ異なる複雑な構造をもつ。そこに鋭角な先端やカーブのような形が見え隠れするが、これは我々の知るQTSだろうか? 窓のある展示室内に設置されたそれらは、時間帯や天候による光の違いによってマットなグレーにも鈍いシルバーにも見え、金属のような重厚感とどこか軽やかな様相を併せもつ。鑑賞を進めていくと、そこにいくつかのルールを発見できる。フォーマット化した台座、支柱としてのアルミパイプ、1点だけ止められたビス──複雑な構造の組み立てを頭の中で解いてみると、どうやら1枚のシートから成っているようだ。
1枚の下絵として作家の手から生まれたQTSの造形は、デジタルデータとして取り込まれレーザーカッターで複数枚の平面シートに切り出される。同じ姿をしたそれらは、再び作家の手により1点ずつ個別の立体造形として形作られるのであるが、そこでモティーフとしてのQTSに内在する身体的/視覚的運動に、次元をひねりながら造形する作家の新たな身体運動が加わる。一方、QTSは3次元に立ち上がると同時に、環境的要素である光によって「影」という形で2次元へと引き戻されるが、このことはかえって鑑賞する我々に次元の間を想起させ、連続する空間と時間の中で揺れる2次元性と3次元性、あるいは次元それ自体に思いを巡らせることへと誘う。
会場には、既存シリーズの展開作品やKeMCoの空間と呼応する作品など「Altered Dimension」に関するいくつかの表現が揃う。新たな可動域を得たQTSはこれからどこへ向かうのか──同時代作家による造形の展開と思考の一端を、ぜひ体感いただきたい。
(慶應義塾ミュージアム・コモンズ所員 長谷川紫穂)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。