カンヒザクラ

 

奥村あきこ議員の一般質問のご報告第2弾

 

1.防災対策について の続き

TKB(トイレ、キッチン、ベッド)について

 

 日本では災害そのものによる直接死に加えて、その後の災害関連死が多いことが特徴です。それを防ぐためには、在宅避難の支援強化と併せ、防災拠点の環境整備が重要です。

 日本と同様に自然災害が多いイタリアでは、トイレ、キッチン、ベッドの略である「TKB」が発災直後から各個人に提供される仕組みが確立されています。安心できる清潔なトイレ、暖かい食事、快適なベッドは人間的に暮らすために欠かせないもので、これらがしっかり整っていないと命を落とすことにつながります。

 

 イタリアのTKBを学ぶため、現地を視察したNPO法人日本トイレ研究所代表理事の加藤篤氏によると、イタリアでは災害時、被災者が避難所となる体育館などに入りきらない場合は、屋外に300人位の規模で家族ごとのテントを張り、こうしたテント村にコンテナ型のトイレカー、キッチンカー、シャワーカーが送り込まれる体制がとられます。

 

 トイレカーは5~10コンテナほど配置され、1つのトイレカーにはトイレ個室が4個室程度あります。7~15人に1個室あるという計算になり、日本における国のガイドラインよりもはるかに多い数で、しかもエアコンや手洗い用の洗面台も完備され、車イス用のトイレもあるそうです。

 

 キッチン(食事)については、イタリアに限らず欧米では避難所で食事を作ることが必須となっており、プロのシェフや調理トレーニングを受けた人が職能ボランティアとして調理にあたります。

 国際栄養情報センター国際災害栄養研究室室長の笠岡宣代氏の報告では、イタリアではコンテナ型のキッチンカーと食堂がセットで配備され、長テーブルと長イスも用意されます。パスタ、リゾット、スープ、肉や野菜などの温かい料理に加え、チーズ、アイスクリーム、コーヒーなども提供されますが、こうした栄養価の高い食事の費用は請求すると公費から支払われる仕組みとなっています。

 日本の避難所での食事は炭水化物が中心で、量および質ともに不十分で、ビタミン類が少ないことなどから深部静脈血栓症が高頻度に発症することも報告されており、栄養面の改善が必要です。

 

 ベッドについては、避難所・避難生活学会理事長の榛沢(はんざわ)和彦氏によると、体育館などの床に段ボールやマットを敷いて大勢の被災者が毛布で寝ているような避難所は、実は先進国では日本だけで、イタリアに限らず欧米の避難所では必ず簡易ベッドが準備され、またテントで家族ごとに避難生活をするのが一般的とのことです。

 簡易ベッドが用いられるようになったのは、第二次世界第戦中の1940年のロンドンで、防空壕が足りずに大勢の市民が地下鉄駅構内へと避難し、今の日本の避難所のように雑魚寝が続く中、肺塞栓症(はいそくせんしょう)、いわゆるエコノミー症候群で亡くなる人が前年比で6倍、肺炎で亡くなる人も2倍と増え、簡易ベッドの必要性が訴えられたことに始まります。

簡易ベッドが準備された後、こうした疾患の増加がなくなったことは、今でもロンドン市博物館やロンドン交通博物館などでくり返し展示されているそうです。

 避難所ではいくら環境整備をし、土足禁止にしても大勢の人が行き来し、埃や塵も入ってきます。段ボールやマット、布団を敷いても床から冷気が伝わり、背中が冷えると脊髄神経も冷やされ、交感神経が刺激されて安眠できず血液が固まりやすくなり血栓ができることから、エコノミークラス症候群や心筋梗塞、脳梗塞などが起きやすくなります。こうした疾患を防ぐため、避難所・避難生活学会は簡易ベッド、特に冷気を遮断する効力が強い段ボールベッドの使用を提唱しています。

 

 こうして紹介したように、欧米、またTKBの本場イタリアでは、国として徹底的にヒトに主眼を置いた人道支援が柱となっています。快適なトイレ環境、暖かく美味しい食事、安心して眠れるベッドを整えることは、決して贅沢なことではありません。「災害時だからしょうがない、我慢するしかない」と被災者、国民はあきらめる必要はないのです。そうした支援策を準備しておくのが行政の責任ではないでしょうか。

 

 そこでお聞きします。

 第一に、避難生活を支えるため、コンテナカー方式のトイレカーやシャワーカー、キッチンカーの活用をすすめるべきだと思いますが、いかがですか。

 

 第二に、中央区で設置される仮設トイレの洋式、和式の別、バリアフリーの有無、それぞれの数についてお示しください。また、防災拠点でのトイレやマンホールトイレも合わせ、何人に1個の割合となっていますか。十分な数はあるのでしょうか。お示しください。

 

 第三に、災害時の学校の給食室の運用についてお示しください。また、中央区は自校方式となっていますが、他自治体の給食センターの活用の計画についてもお示しください。

 

 第四に、内閣府の「避難所運営ガイドライン」には段ボールベッドも含む簡易ベッドの使用について明記はされたものの、これまでの事例では設置まで発災後平均10日以上かかっているとのことです。段ボールベッドの備蓄状況と設置までの流れをお示しください。欧米並みに3日以内に設置できるよう整備が必要だと思いますが、いかがですか。

 

 第五に、災害時、交通が途絶えた場合でも、すぐに住民の支援活動などにあたるための職員確保が重要だと思いますが、職員住宅や区内在住の職員は何人いますか。職員住宅の拡充が必要だと思いますが、いかがですか。

また、中央区では非正規職員が増加の一途を辿っていますが、会計年度任用職員など非正規雇用の方は災害時の参集要請に応じる義務はないため、正規職員を増やしていくことが防災上も必要だと思いますが、いかがですか。

 

 第六に、イタリアには市民安全省という常設の国家組織があり、災害対応には専門知識や技能をもったボランティアが全国に100万人規模で組織され、災害直後から稼動するシステムが構築されています。

 災害が発生すると、有給ボランティアとして各専門職が集合し、調理、電気整備やテント張りなどの対応にあたりますが、こうしたボランティアには発災時には最長3カ月の休暇を取って被災支援にあたることができるルールがあり、人件費は会社に対して政府が負担することになっているとのことです

 このように専門職をボランティアとして配置する仕組みはとても有効だと思います。国、東京都とも連携しながらボランティアを活用する仕組みを構築することを求めますが、いかがですか。イタリアではボランティアを前提として調理士免許を取得するための訓練も毎年実施されているそうですが、こうした職能訓練を取り入れる仕組みづくりも必要だと思いますが、いかがですか。

それぞれお答えください。

 

【区長答弁(骨子)】

 一)二)トイレの整備について、防災拠点はおおむね20人に1基のトイレで飛散者に対して必要な数を確保。仮設トイレは大小それぞれ30基備蓄。

 トイレカーやシャワーカー、キッチンカーの活用は、能登半島地震の事例を踏まえ、今後研究する。

 

 三)学校給食室の運用は、一部の防災拠点では炊き出しの準備を行なう予定。他自治体の給食センターの活用は考えていない。

 

 四)段ボールベットは、防災拠点での避難生活はエアーマットと毛布で対応するので、備蓄はしていないが、避難の長期化で必要になった場合には競艇事業者や都に要請して確保する。備蓄について現在検討中。

 

 五)令和5年4月1日現在、区内に居住する正規職員は254人、うち81人が職員住宅に入居している。災害時の職員体制を確保する観点から、一定の戸数を維持していく。

 正規職員は「最小の人数で最大の効果をあげる」原則のもと、平常時における行政需要や業務量に応じて適正に配置すべきと考えている。

 災害発生時には状況に応じて、他自治体に人的支援を要請するなどの対応を図る。

 

 六)災害時のボランティア活動が円滑に行えるよう中央区社会福祉協議会の協力の下、災害ボランティアセンターを設置し、活動を支援する。専門職のボランティアは有効だが、八歳児は全国からボランティアが集まることから、職能訓練を含めた仕組みづくりは、広域的な立場から国において議論を重ねていくべきと考える。