「先生、もしかしたらこっちですか?」
えつ、「こっち」?
「あっち」とかではなくて?
何回か言われたことがある。
最初はFランの大学にいたころ。もう30年以上前。
どういうきっかけか忘れた。
もう今頃、あの男子学生は50代前半のはず、おそろしい、会いたくない。
四谷のバーの名刺をもらった。バイト先だ。
だから、名前の音は覚えている。漢字は忘れたが。 イニシャルは、H.Sh.
店長がゲイで、やりまくっている、と彼が言う。
どう言うふうに異性愛者とのセックスに持ち込むかも(詳細は忘れた)。
そう言うことに異性愛者は興味を持たないだろう。
彼はゲイだったのか。
その時、なぜか彼が研究室にいて、先生こっちですか? 全然おれ平気ですよ、とかなんとか。
平気とはどう言う意味なのか。肯定はしなかった。否定もしなかったが。
会いたくも見たくもないが、どういう人生をいま送っているのかは気になる。
そういえば、彼は当時胃を悪くしていた。
若者が胃潰瘍とかありえないだろう。
バイト先の店長に掘られてしまい、ストレスが溜まっていたのではないか。
異性愛者なのに、ゲイの喜びを感じてしまい、自己嫌悪の潰瘍だったのではないか。


