マリモと台風 |   マリモ博士の研究日記

  マリモ博士の研究日記

      - Research Notes of Dr. MARIMO -
  釧路国際ウェットランドセンターを拠点に、特別天然記念物「阿寒湖のマリモ」と周辺湖沼の調査研究に取り組んでいます

<Marimo and Typhoon>

 【北海道新聞・朝の食卓, 2020年11月19日】

 

 雪の季節になった。これでようやく、北海道に近づく台風の進路予報を気にせずに済む。というのも、台風が阿寒湖の西側を北上すると、強い南風によって湖の北に分布する球状マリモが大量に、湖岸に打ち上げられてしまうのだ。

 

 面白いことに、この現象は5~9年ごとに起こる。打ち上げられるのは水流の抵抗を受けやすい大きなマリモで、これが沖合の群生地から湖岸まで運ばれ、波打ち際で壊れて無数の断片を生じる。

 

 他方、群生地では、太陽光を独占していた大型マリモが一掃され、日陰者だった小さなマリモの成長が活発になる。一部は5年ほどかけて大きく育ち、それが湖底を覆い尽くすまでに増えた段階で強い南風が吹くと、再び大量打ち上げが起こる。こうして5~9年の周期になるわけだ。

 

 打ち上げ現象は球状マリモの破損を伴うため、過去には被害と捉えられてきた。しかし、見方を変えればマリモ集団が順調に生育している証しでもある。そしてそれは、保護対策の成果でもある。さまざまな人為によってマリモが減少を続ける中、打ち上げられたマリモを地域の人々が湖中に戻すことで、競争相手の水草が増える前に生物量を回復させるのに役立ってきた。

 

 前回の打ち上げは2016年。6年目を迎える来年以降、大量打ち上げの可能性は増し続ける。ますます台風の進路予報から目を離せなくなりそうだ。

 

 

マリモの大量打ち上げ(2002年10月).

 

打ち上げられたマリモの湖内移動作業(2013年12月).