⑤ 球状マリモの栽培方法 |   マリモ博士の研究日記

  マリモ博士の研究日記

      - Research Notes of Dr. MARIMO -
  釧路国際ウェットランドセンターを拠点に、特別天然記念物「阿寒湖のマリモ」と周辺湖沼の調査研究に取り組んでいます

 阿寒湖畔エコミュージアムセンターの大型水槽では、2002年から直径15 cmの放射型球状マリモを、また2010年から纏綿型小型マリモの栽培を継続している。以下、栽培条件を示す。

 

阿寒湖畔エコミュージアムセンターのマリモ水槽.写真はマリモの育成活動に参加している地元の子どもたち.

 

  • 培地: 水道水を曝気して脱塩素したもの。阿寒湖地域は火山地帯のため、水道の原水は高濃度のミネラルを含み、また水槽の容量が1 ton以上あって比較的低濃度でも十分な効果が得られるため、窒素を除いて成分の強化は行っていない。
  • 水温: 14~16℃。内部で枯死した糸状体の分解物がマリモの表面からが泥のように出たり、腐敗臭がしたりする場合は、水温を低めに設定する。
  • 栄養塩: 濃緑色のマリモ糸状体の色が黄緑味を帯びた時には、窒素不足でクロロフィルを十分に合成できていない可能性が考えられるので、(NH4)2SO4を0.2 g/ton (0.2 mg/L)~15 g/ton (15 mg/L)の範囲で徐々に濃度を上げながら添加する。高濃度だと珪藻や藍藻が発生しやすくなる。
  • 光源: 白色LED(2017年まではハロゲンランプ)
  • 照射時間: 開館日の9:00~17:00
  • 光強度:  最高で40 μmol/m2/sec(マリモや付着藻類の状態を見て調整)
  • 清掃: 週に1回、マリモ表面の付着藻類を清掃。潜水用に販売されている合皮の手袋もしくは固く絞ったタオルなどで表面を穏やかにこする。定期的な清掃は、光源に対するマリモの位置を変える効果も有する。
表面に付着した微細藻類の除去作業.
 
 
■ 国立台湾博物館における変更点や指示事項
  • 栽培に使用する水は、飲用に適しているのであれば、使用できる可能性が大きい。水道水の場合は、一晩くみ置きするか、曝気して脱塩素してから用いる。
  • ミネラル濃度の低い軟水や、成分に関する情報がない場合、ミネラルを補強するため、市販の人工海水(粉末)を加える。濃度は0.01%~0.2 % の範囲で低濃度から始め、様子を見ながら1~2週間ごとに濃度を上げる。
  • 人工海水にリン酸塩や硝酸塩が含まれている場合、珪藻や藍藻の発生に注意する。水槽の内壁面やマリモの表面に微細藻類の発生が認められた場合には、速やかに水槽とマリモを洗浄し、それ以前の低濃度に戻す。
  • 小さなマリモだけを栽培する場合、光強度を上げる必要がないので、良好な状態長く保つことが可能となる。
  • 一方で、展示効果を考慮すると、光の照射が不可欠となるが、その場合は、光強度が大きくなりすぎないよう注意する。明暗のサイクルは厳密でなくともよい。夜間や休館時は消灯する。
  • エアーコンディショナーの除湿効果によって水槽表面が結露しないのであれば、温度はできるだけ下げて(<15℃)、微細藻類をはじめとする微生物の活性を抑える。
  • 結露が頻繁に発生する場合は、扇風機で水槽表面に風を当てる。
  • 清掃の頻度は2~4週間に1度で十分と予想されるが、マリモの状態に変化がなく、付着藻類の発生も見られない場合は、それより長いインターバルでもよい。
  • マリモは急激に乾燥すると細胞構造が破損して死に至る。このため、清掃のため水槽から取り出す際は、十分に水を含ませ、また操作を短時間で済ませて水中に戻すようにする。
 
つづく