私はまだ娘のままだった


社会人になってすぐ、私は家を出ました。


高校を卒業して就職し、念願だった

「本当の自分の時間」

を手に入れた。 


親と同じ屋根の下にいなくていい。

あの空気を吸わなくていい。

それだけで、自由になれた気がしたんです。


でも、自由ってなんだろう。

安心って、何だろう。


家を出てしばらくは、

連絡もほとんどありませんでした。

だけど、ある日を境に、

母親からの電話が鳴るようになります。


それは

「元気?」

「どうしてるの?」

なんてものではなく、

決まって 

「お金を貸してほしい」

という内容でした。


最初は断りきれず、少しずつ渡していました。

でもそれが一度だけでは済まなかった。


何度も何度も続き、

最終的には私名義での借金を

100万円近く背負わされました。

もちろん、返ってくることは

ありませんでした。



母は、

私の住む場所の最寄り駅まで来て、

お金を受け取ると、

すぐに帰っていきました。

「元気でやってるのか」

「ご飯はちゃんと食べてるのか」

そんな言葉は一度もなかった。

子どもの生活に心を寄せるような素振りは、

全くありませんでした。


ただ、必要なのは

“お金を渡す娘”

という役割だけだったのだと思います。



後になって分かったことですが、

母はこのことを父には

一切話していませんでした。

父は、母が私にお金を借りていたことなど

まったく知らなかった。

母は父に内緒で、

子どもたちから金銭を搾取していたのです。

私だけではなく、社会人になった

弟に対しても同じように。


その事実を知るのは、

もっとずっと後のこと。

でもこの頃にはもう、私は母に対する

信頼も、感情も、

限界に近づいていました。


私はそのとき、まだこう思っていました。

「弟は普通に暮らしているだろう」と。

「私だけが、背負っている」と。

そんなふうに、どこかで思い込んでいました。


でもそれは、間違いでした。

弟もまた、同じように、

いや、もしかしたら私以上に

苦しんでいたことを、

このときの私はまだ知りませんでした。


弟は私に相談も出来なかった。

そんな姉弟の関係でしたから。


「許せない」

という感情はずっと心の中にあって、

けれどそれをどこにぶつければいいのか

分からない。

だから私は、

静かに、でも確実に、

母から距離を置くようになっていきました。


やがて私は結婚をします。

「もう関わらない」

と決めることがたくさん起こります。



それでも、

「娘であること」

から完全には逃れられなかった。


私はまだ、「親の影」の中にいました。