会社に着くと、さらに残酷な光景が待っていた。


オフィスの入り口に、昨日まではなかった大きなポスターが貼られていたのだ。


『プロジェクト・エクリプス 世界公開まであと99日!』


若手社員たちが、その前で「あと99日ですね!」と笑い合っている。



奇妙で、不気味な一致。



希は逃げるようにデスクへ向かい、震える手でパソコンを立ち上げた。


けれど、キーボードを叩くたびに腕時計のバンドが

99の刻印に触れ、そこだけが異常に熱を持っているような錯覚に陥った。



(無理だ。ここにいたら、息ができなくなる)





午前中の会議が終わり、希は吸い込まれるように駅前の皮膚科へと向かった。



「……数字、ですか?」



初老の医師は、希の左手首をルーペでじっくりと覗き込んだ。



「そうです。昨日までは100。今朝、起きたら99になっていたんです」



医師は何度か手首を指でなぞり、それから眼鏡を外して、困惑したように希の顔を見た。



「結城さん、落ち着いて聞いてください。あなたの皮膚には、何の異常もありません。私には、綺麗な肌にしか見えません」



希の思考が真っ白に染まった。



「……え? そんなはずありません。ここに、こんなにはっきりと、99って……」



呼ばれた看護師も、怪訝(けげん)そうな顔で希の手首を覗き込み、医師と顔を見合わせた。



「……先生、何もありませんが」



その瞬間、希の背筋に冷たい氷柱(つらら)が突き刺さった。



見えない。二人には見えていない。




***


続きはこちら