小川真由美ほど八つ墓村の森美也子がハマった女優が居ただろうか。
八つ墓の大将・尼子義孝直系の子孫。義孝は村に落ち延びる前に、奥方を播磨三日月に落とし、その後、丹波篠山と流れ、島根県の広瀬町に落ち着き、奥方は、その地で出産。美也子は、その生まれた子から24代血を引く直系の子孫だった・・・本当に信じてしまいそうな位、リアルな設定だが、マジでそうかもしれないと思わせる雰囲気が小川真由美にはあった。
2026年3月26日。鹿児島市内の病院で急性・冠動脈症候群で死去。享年86歳。
年齢的にも心臓が弱り易い事もあってか、急性の発作で亡くなったと言う認識で良いのだろうか。寿命であり老衰であったと言っても間違いではないかもしれない。
所で、公表までの成り行きが中々興味深い。今年の3月26日に病院内で死去し、絶縁していた一人娘の雅代に連絡が行ったのが二か月後の5月。8月9日に正式に公表となった。世間で有りがちな冷めた親子関係ゆえの定番とも言える<遺体の引き取り拒否>が、この親子の間でも起きた。これと全く同じ事が起きたのが女優の島田陽子で、彼女の遺体引き取りに誰も名乗りを上げず、暫く後に兄弟が仕方なく引き取っている。
遺体の引き取りに関しては、家族の複雑な感情の問題があるから仕方が無いにしても、引き取りから約三ヵ月経って公表となったのは、何だか腑に落ちない。更に凄いのは、小川真由美ほどの大女優の死が半年間も守られた事で、雅代の公表まで誰一人漏らす事はなかった。完全に守秘義務が守られた。これは褒める意味で凄い事だ。
小川真由美について調べていると、なるほどなと思わず唸ってしまう。67年に俳優の細川俊之と結婚し、その年に長女・雅代が誕生。つまり二人はデキ婚だった。二人の愛は6年後に冷め、73年に離婚。離婚後、俳優の橋爪功と恋愛が始まり、婚約まで行ったが結局、婚約は解消。どちらかが婚約破棄したと言う事だ。
皆が大好きな77年の松竹・八つ墓村で森美也子を演じたのは彼女が30代後半の頃で、当時10歳になる雅代が居た。女優としても女としても脂が乗り切っている頃で、独特な魅力と色気があったのも出産をしている女が放つオーラだったのかもしれない。
やがて成人した娘の雅代は、母・真由美の人格批判を始め出す。雅代の話によれば、真由美は奇行家であったと言う。具体的な奇行については週刊誌の文藝春秋が取り上げているが、幾つか取り上げると、出演した作品で自分が演じたSEXシーンを態々見せたり、占いに執着し、占い師の助言を当てに行動を起こしたり、何を思い立ったのか突如、僧侶になる為に出家をした。突拍子もない突然の思わぬ行動の原因は、躁うつ病だと雅代は公表した。
実際、躁うつ病の精神安定剤や睡眠薬を常用していたらしい。俳優業と言う、とてつもない過酷さがストレスとなり、芝居で上がったテンションをクールダウンさせる事が容易では無かったのだろう。クールダウンが上手く行けば普通の日常生活を送れるが、上手く行かない場合、上がったテンションは家庭内で暴走する。躁うつ病は周りにも迷惑を掛け、当の本人も疲れ果てて苦しい。
躁うつ病は、生まれた環境や、持って生まれた気性も関係しているのだろうか。小川真由美のプライベートにおいても、いわゆる<とんでもなさ>が随所にちりばめられている事に気付く。思い付きと言うか、あまり考えずに行動を起こす。今は亡き離婚した亭主の細川俊之も、真由美と言う妻に対し得体の知れない危うさを感じていた事は間違いあるまい。
女優としての小川真由美を考えてみると、どの辺に位置する女優だっただろうか。
業界的には年齢も近かった岩下志麻とライバル関係の様に思われていた。なるほどなって思う。二人が同じ画面に入っていると互いに見劣りしない。流石と唸らせるほどの迫力が画面から滲み出てくる。このオーラを出せる女優達は中々居ないだろう。今となっては奇跡的に共演を果たした松本清張・原作の映画<鬼畜>で、互いに怖い女を演じた。
受賞歴としては岩下志麻が圧倒しており、小川真由美の受賞歴はいまいちパッとしない。王道路線の岩下志麻、カルト路線の小川真由美と分けると比べやすいかも知れない。そんな王道の岩下志麻も、70年代から80年代前半までは怖い役が多かった。70年代は野村芳太郎監督の「鬼畜」、80年代では「悪霊島」と「この子の7つのお祝いに」が代表的な作品だろうと思う。以前読んだ角川春樹の著書に岩下志麻の事が書いてあった。角川によれば「悪魔と言ったら岩下志麻だろう」と言う事らしい。
所で77年の松竹・八つ墓村でも、岩下志麻と小川真由美はちょっとした関係がある。なんと森美也子の最初の配役が岩下志麻だった。この作品は鬼畜の後なのだが、岩下志麻が役柄に難色を示し出演拒否、第2候補だった山本陽子にも断られ、第三候補の小川真由美が抜擢されたと言う裏話がある。つまり小川真由美と山本陽子の配役が逆になった。山本陽子の森美也子はシックリこないが想像してみると面白い。小川真由美の多治見春代も同じく想像し辛い所だが、結果オーライって所で良かったのではなかろうか。
それにしても、小川真由美の最期が南九州の鹿児島県と言うのもミステリーだ。東京都足立区出身の彼女が、何故、日本列島の南端に行かされたのか。嫌な勘繰りだが、医療のたらい回しがあったのかもしれない。娘の雅代によれば、晩年の小川真由美は家も金も失っていたと言う。認知や精神の方はどうだったのだろう?とつい想像してしまう。
才能と人間性は別物なのだろう。才能が豊かだから人間性が優れている訳ではない。犯罪者の中にも天才は居るし、才能豊かなゲスは確かに存在している。アメリカで二刀流をやっているアノ人だって、その本性は誰も知らない。知ろうともしない。所詮はイメージ戦略であり、乗せられる人達が居る。一方で疑う人達も居る。宗教の始まりはそうやって誕生する。
娘の雅代によって晒された裏の顔の小川真由美に、どう想いを寄せるかが問題な訳だ。我々の様な世間にとっては、裏の顔とかはどうでもいい。色気があって素敵だった小川真由美の作品を観ればイイのである。
さらば、愛しの森美也子様へ!
