PAINT IT, BLACK
当喫茶室の書棚から1冊。
今回ご紹介するのは、1980年に刊行された
吉田カツ氏のイラストレーション集『セクサス』。
吉田カツ氏といえば、
ボクにとっては情報誌『City Road』や
音楽誌『MUSIC MAGAZINE』の表紙で馴染み深く、
ほかにもカルメン・マキ&OZやザ・ロッカーズのジャケット、
パンタ&HAL『マラッカ』の題字(!)、
さらにはキティ・レーベルの猫の絵も氏によるもの。
(もっともっと有名なものがたくさんありますが…)
『セクサス』は、ボクが
学校のグラフィック・デザイン科に身を置いていた、
10代の終わり頃に入手。
描かれた対象にミュージシャンが多かったことと、
なにより“絵を手段にロックしている”ことに衝撃を受け、
見つけてすぐさま買い求めたように記憶しています。
“プールサイドと美女と青空”。
そんなイラストレーションが人気の、
ハッピーで爽やかでトロピカルな時代の空気に
黒いペンキを激しくぶちまけたかのような、
氏の絵にはそんな強烈な特異性がありました。
クルクルとしたストローや
ハイビスカスのデコレーションとは対極の世界。
絵でロックするとはこういうことなんだと、
はじめて具体的なカタチを伴って、
理想的なヴィジョンとして、
ボクの目の前に現れたのです。
その絵はリアルなものから
描きなぐったようなものまで実に多彩。
攻撃的な意志を感じる
鋭い線や大胆な筆使い、荒々しいタッチは、
素人がついつい真似したくなるのですが、
実際にやってみるというと、なんと難しく、
そして勇気のいることか!
(当たり前ですが)
また、テーマ(対象)に対して、
常に“裏切りの痛快さ”をも兼ね備えており、
ボクはそこになにより“ロック”を感じたのです。
上っ面をなぞったのでは決して出せない
ロックの本質を的確に捉えた、
反骨のイラストレーション。
それは、ボクが――イラストレーターを
目指していたわけではありませんが――
自分のスタイルを模索する過程において、
一番最初に直接的な影響を受けた、
いわば出発点。
学校の課題をこなす上で、
必要性に迫られて描いた自分の絵の多くは
稚拙ではありますが、
氏の影響を強く受けたものでした。
なにしろこれらの絵を描いている最中、
傍らにはいつも『セクサス』があり、
頻繁に、そしてやや乱暴に
パラパラとページをめくっていました。
ボクはモノを、殊に本やレコードは
丁寧に扱うタイプですが、これに関しては
そんなわけでボロボロ。
当時の自分にとっての教科書ともいえるこの本には、
今も黒いパステルのあとが残っています。
まだまだ(自分の)スタイルなどなにもなく、
たったひとつハッキリしているのは、
“怒り”にしか表現欲求を見出せないということ。
『セクサス』は、そんな10代だった自分を
突き上げてくれるような、
指針となるような存在でした。
学生時代、ずっとこの絵を壁に貼っていました。
合掌。
*
My all-time favorites
#154
氏のイラストレーションとの最初の出会いは、
中学生の時に友人に借りた
ローリング・ストーンズのベスト・アルバム
『Rolled Gold』の日本盤ジャケットだったと思います。
曲は、The Rolling Stonesで「Gimme Shelter」。
想像力喫茶室『バラ・グラフィック』にようこそ。