英語教育あれこれ:「どれ?」「それ!」

英語教育あれこれ:「どれ?」「それ!」

phonicsや文字指導を中心に
英語教育について
書いています。
入門期のシラバス
(文法事項の導入順序)
にも興味があります。

2月19日、北烏山編集室のTさんがX上で、東京新聞の次の記事を紹介されているのを知りました。

 

 

 

この記事に対して、Tさんは「いわゆる「筆記体」」の復活には反対、という意見を述べていらっしゃいました。

そして、次の小著を紹介してくださり、私の試みも取材して欲しい旨、展開されていました。

(実はTさんこそが、この本の出版にゴーサインを出してくださった恩人です。)

 

 

東京新聞の記事によれば、米国で「筆記体」の指導が復活させる州が増えていることに加えて、「英国では6〜8歳で筆記体を学ぶ」と報じています。

 

ここで使われている2つの「筆記体」という日本語が別物を表していることを、どれくらいの英語教師が見破れているのでしょうか。少々不安なので、解説します。

 

・米国の文脈における「筆記体」は、かつて日本で「筆記体」と呼ばれていた、あのにょろにょろした書体のことで、正式にはcopperplateと呼ばれるもの。

 

・英国に関する記述の中の「筆記体」はcursiveの訳(というよりも誤訳)。cursiveというのは、英国で100年前から指導されているsimple Italicあるいはsimple modern handなどと呼ばれる書体を、1文字1文字バラバラに書くのではなく、(字形はほとんど変えないまま、文字と文字の間に接続線を補いつつ)紙から鉛筆を離さずに書く「続け字」のこと。

 

そして、「筆記体」にはもう1つの意味があります。それは、TさんがX上で書いていらっしゃるように、

 

・(印刷された文字でなく)手書きしたあらゆる文字のこと(「筆記体」は、語源的には「筆記」した書「体」のことですから、これが「筆記体」という言葉の正しい使い方だと思います)。

 

というわけで、少なくとも「筆記体」の定義がされない中では、議論は噛み合いません。

(ちなみに、そもそも文部省時代から文科省になっても、指導要領上で「筆記体」の定義がなされたことはありません。)

 

さはさりながら…本当の問題はそこではありません。

ノスタルジーで「筆記体(copperplate)」を懐かしみ、復活させるべし、という論調には与することができないのです。1人の英語教師としては、「筆記体」にまつわる問題は、教育的であるか否かの視点で論ずる必要があると思うのです。

 

加えて、次のような巷で聞かれる俗説も頭に浮かびます(順不同です):

 

・「「筆記体」のほうが速く書ける」。これは迷信。急いで書けば自分でも読めないし、あとで読めるようにと丁寧に書けば、時間がかかる。

 

・上記記事への投書にもあるように、「筆記体」は(少なくとも現代では)日本語で言えば草書・行書に相当する芸術的な文字であって、実用的な文字とは言えない。その証拠に、中学校時代に「筆記体」を学んだ世代の人の多くが、大学入学以降(早ければ高校時代から)「筆記体」を捨てて、「ブロック体=活字体」を滑らかに書けるようにくずした文字を手書き文字として使っている(部分的に、たとえば小文字のエルなどは、「筆記体」を使ったり、続けやすい文字の連続では、続け字を使うことがある)。

 

・「「筆記体」を学べば、昔の人が手書きしたものを読める」的な議論を展開するのであれば、「国語」の授業では、全員、変体仮名を学ばなくてはならない、ということになる。

 

・「英語の母語話者が「筆記体」で書いてきたものが読めないのは困る」。これは書いた側が非常識というべきである。我々は外国語として日本語を勉強している人に対して、続け字で手紙やメモを書いたりしない。

(そもそも、英語母語話者が書いてきたのが「筆記体」だから読めないのか、それともその人の書き癖が強すぎるのか、あるいは、そもそもその人は書くのが苦手なのか(=要するに文字が下手なのk)を冷静に判断すべきである。)

 

・(指導要領も含め)「筆記体」を署名に使う、という言説が見られるが、間違い。実際の署名を見たことがないのだろうかと疑問に思う。現米大統領の署名も含め、署名は誰もが真似できないようなクセや崩しかたで書くのが常識。誰もが書けるような文字を署名に使うのは、印鑑登録に三文判を使うようなものである。

 

ということで、上記の内容の一部を、東京新聞に宛ててメールを送りました。

どんな反応が返ってくるか、楽しみにしているところです。

 

付記:

上記、東京新聞の2つめの記事の中に「筆記体」の例があるのですが、withinが誤ってwhitinと綴られています。

揚げ足を取るつもりはないのですが、「筆記体で文字を続けて書くと綴りが覚えやすくなる」といった流言も聞いたことがあるのですが、そうではなさそうです。