アップルVSグーグル
小川浩/林信行

・アップルは美しいユーザーインターフェースと整然とした利用環境を、
独自のOSと独自のハードウェアと独自のコンテンツ流通システムによって
担保している。
その代わりに、ユーザーに多くの選択の自由を与えるようなことはしない。
しかし、グーグルは、整理して管理したいのは情報あるいはデータだけ。
アップルはそれだけではなく、アプリケーションや課金システム、
あるいはコンピューティングのユーザーインターフェースそのものを管理したがっている。
グーグルが目指す世界では、OSは一切主張しない。見えなくなるといっていい。
全てクラウドで管理する。組み込みソフトはいらない。

ウェブは進化し、ゲームのように巨大な容量を必要とするアプリも扱えるように
なるだろうとグーグルは言う。
次世代のHTML5が普及すれば、App Storeからソフトを買わなくてもブラウザ経由で
ウェブアプリを使うことができるようになる。
これがグーグルの考え方。

つまり、グーグルのオープンソースとブラウザ中心主義は、アップルの自社OSと
自社プラットフォームによるビジネスモデルと真っ向からぶつかるのだ。

・iPhoneは、非常によくブラッシュアップされた製品だが、そこまで素晴らしく
洗練できたのは、コンセプトから工業デザイン、ハードの開発、OSの開発、
微調整、マーケティング戦略、流通、パッケージングまで全てをアップルが
ただ1社で行っているから。
アンドロイドは、ネットのサービスを含めたOSを作る会社と製品コンセプトとハードの
開発、販売を行う会社が別々になっている。
今回のスマホ戦争で、ジョブズの厳しい目は、たとえどんな状況になろうと
製品の質で妥協しそうなことはないし、間違ってもブランド力を下げる互換機戦略を
再び繰り返すことはしないだろう。
唯一のライバルであるアンドロイドが、まだまだ一般コンシューマ用スマホとして
洗練度が足りないが、急速に巻き返しを図ったり、第3の勢力としてiPhoneを意識して
全面的に生まれ変わったマイクロソフトのウィンドウズフォンがそれなりの
質に仕上がれば、市場が分断する可能性もある。
いずれにせよ、今後おそらく2015年ぐらいまでの間は、熾烈な戦いが続くことに
なるだろう。そしてその結果が、その後10~20年のIT業界や家電業界の明暗を
分かつことになるだろう。

・アップルは個人を相手にした、手で持てる製品作りを本業としたソフトウェア主導型の
ハードウェアメーカーである。
アップルの製品は、基本的に個人が所有して持ち歩く機器を目指している。
個人が実際に手で触れて持ち歩く製品を作る会社であり、製品に触れる一人ひとりの
笑顔や楽しい生活を重視している。

それに対して、グーグルは、個人が日常的に手に触れる製品は作ったことがなかった。
グーグルがインターネットを通して提供し続けてきたものは、身体性を伴わない
情報であり、集合地であり、そこに肌感覚というものは一切ない。
アンドロイドにしても、スマートフォン端末という体はあるものの、
その本質はアンドロイドOSを通して利用するインターネットの向こう側の
クラウドサービスであって、手触りを感じられるものではない。

アップルが一人ひとりの人間の生活を変えようとものを作るのに対して、
グーグルは人々が集まった社会が変わることで生活も変わることを夢見ている。
ネットの向こう側で顔の見えない大勢の人々が笑みを浮かべている姿を想像しながら
ものを作っているのかもしれない。
どちらが正しいとかいうことではなく、ただ両者は違うアプローチをとっているという
それだけのことである。

・日本の企業は、今こそ勇気を持って立ち止まるべきだと思う。
立ち止まって、当座の売上げを上げる為に増やしすぎた製品群を見直し、
自社の価値を高めるために本当に必要なのはどれなのかを見極め、
顧客に対しても社員に対しても、自分の会社ならではのブランド価値を明確にする。
そのコアバリューやブランド価値がわかったら、それと今の時代のコンテクストを
掛け合わせる。
競合を気にせず、自分の会社だからこそ作れる未来の世界を思い描き、
それを実現にするのにふさわしい製品を一つひとつ着実に誠実に作りあげて、
そこにブラッシュアップを重ねていく。
ウィンドウズとのOS戦争に負け、みじめな思いをしていたMacユーザー達もアップル社員達も
「世界を変えられると本気で信じている人々こそが、世の中を変えている。」
という広告コピーの展開を行った。
ジョブズがその次に行ったのは、製品ラインの見直しだった。
製品を全て廃止し、一つひとつの製品を、デザインのディテールまで、
徹底的に作りこみ、せっかく作ったからにはグローバル展開で最大限の回収をする
戦略に切り替えた。

この世紀を生き延びようとしている会社なら、今こそ四半期単位の成長に目をつぶり、
これから5年、10年先の社会で自らの会社がどのように社会に役立っていけるかを、
もう一度真剣に考えるべきである。