『一房の葡萄 他四篇』 有島武郎著
来週、なぜか朗読コンクールの審査員をやることになりました。
コンクール当日に読まれる原稿があらかじめメールで送られてきまして、宮沢賢治の『祭の晩』と有島武郎の『一房の葡萄』のそれぞれ結末部分を抜粋したものでした。
どちらの作品も読んだことがなく、結末だけ読んでもなんのこっちゃよく分からなかったので、事前に全文を読んでみました。
『祭の晩』は風の又三郎的な宮沢賢治らしい作品でしたが、『一房の葡萄』は子供に道徳を教える良い話にも思えるものの、なんとなく納得しかねる部分もある話でした。
100年前に書かれた話なのでネタバレもないと思いますので、話を要約します。
・絵を描くのが好きな主人公は、ジムというクラスメートが持っている絵の具が羨ましくて昼休みに盗んでしまいました。
・昼休みの教室に残っていたのは主人公だけだったので、すぐにクラスメートたちにバレて、先生のところに連れていかれます。
・大好きな先生に嫌われるのがイヤで主人公が泣いていると、先生は窓から葡萄をもぎってくれて家に帰されました。
・翌日学校に来ると、ジムが笑いながら主人公を先生のところに連れて行きます。先生は言いました。「ジム、あなたはいい子、よく私の言ったことがわかってくれましたね。ジムはもうあなたからあやまってもらわなくていいと言っています。二人は今からいいお友達になればそれでいいんです。二人とも上手に握手をなさい。」
・そして先生はまた窓から一房の葡萄をもぎって、ジムと主人公に半分ずつ渡しました。(終)
うーん・・・先生がジムをどう言いくるめたのか、とっても気になります。
あとジムが許したとてクラスメートたちは主人公が窃盗したことを忘れないよね、というモヤモヤは残りました。
まあ今のネット社会を見れば、不祥事をしでかした人間をまったく関係のない人たちが寄ってたかって袋叩きにする世の中なので、許すことの大切さを見習いたいところではあります。
「一房の葡萄」は青空文庫でも読むことができますけど、有島武郎が唯一残した本作には他四編も収録されていて、そのほとんどが幼い少年が自分のしたことに対して罪悪感を抱える、という話でした。
有島は三人の自分の子供たちのために本作を書いたらしいですが、誰かに怒られたり罰せられたりするから悪いことをしてはならないというのではなく、それよりも恐ろしいのは自分の良心に咎められることだということを伝えたかったのでしょう。