『古代インカ・アンデス不可思議大全』 芝崎みゆき著 2022年
かつて『古代エジプトうんちく図鑑』、『古代マヤ・アステカ不可思議大全』で取り上げた手書き作家の芝崎みゆきさんが、今年一気に3冊も新刊を出していました。
古代インカ・アンデス編と、別冊でその旅行編、そしてモアイ像でおなじみのイースター島編。
過去作同様によくわからない神話や風習などを、文字も絵もすべて手書きで楽しませてくれます。
特に古代インカ・アンデス編は、過去最大の力作では。
文字や絵を全部手書きで描くだけでも大変そうなのに、その情報量たるや。半端ではない勉強が必要だったでしょうに、ほぼ同時に3冊も出せることが信じられません。
「好きこそ物の上手なれ」を体現する一冊ですね。
ミイラやいけにえの文化などそれだけで十分に血生臭い歴史が語られますが、スペイン人がやって来てからはさらに凄惨なことに。
力づくでインカから膨大な量の金を収奪し尽くしたスペイン人たちでしたが、内輪揉めを繰り返してほぼ全員が平穏な老後を送れずに悲惨な最後を遂げていました。人間にとって富とはなんなのかを改めて考えさせられます。
個人的に面白かったのは、アスカの地上絵。
上空からの写真からしか見たことがないので「空から見るために作られたもの」と思い込んでいたのですが、最近では「歩くためのもの」説が主流だということです。
現代でもアンデスにはまっすぐな線を行進する行事があることや、ほとんどの地上絵が一筆書きで描かれていることからも納得できます。
ところでアンデスでは聖なるもの全般を「ワカ」と呼ぶそうですが、北米のラコタ族も聖なるもの・不思議なものを「ワカン」と言い、そういえばサンスクリット語でも「摩訶不思議」のように偉大なものを「マカ」と言うことも思い出します。
偶然なんでしょうけれど、摩訶不思議です。
イースター島編も読んでみました。
モアイは神像ではなく、祖先の像。モアイとは「誰々のために」という意味もあるという説も。
そして意外なことに島民にとってはモアイよりも「アフ」という像の台座のほうが神聖なもので、偉大なる長の霊廟であり、祭事の場であり、祖先崇拝の場であり、後期は集団墓地にもなったという存在とのこと。
最後に載っている旅行記もイースター島の現在がわかって旅行気分にさせてくれますし、旅先で出会う登場人物たちもユニークで面白かったです。
折りしも先月発生した火災で多数のモアイ像が修復不可能な損傷を受けたというニュースを見ました。そのような被害が起こる前にこの本に記録しておいてくれたことは、日本の読者にとっては不幸中の幸いと言えるのかもしれません。
『アンデス・マチュピチュへっぽこ紀行』 芝崎みゆき著 2022年
『古代インカ・アステカ不可思議大全』の旅行編。
過去に読んだ古代マヤ・アステカ編の別冊旅行編はスルーしてしまったのですが、イースター島編で旅行記の部分が面白かったので読んでみました。
『不可思議大全』では歴史的なことを扱っていましたけど、本作は遺跡や遺物などを詳細に教えてくれて『不可思議大全』の補完となると同時に旅行ガイドとしても使えます。
アンデスといえばマチュピチュが真っ先に脳裏に浮かびますが、「マチュピチュなんて前座だよ」とのこと。シパン王墓博物館が著者の推しのようでした。
それが分かるだけでも読む価値はあると思います。