『木々は歌う 植物・微生物・人の関係性で解く森の生態学』 D.G.ハスケル著 2019年
いやー、今回は本のタイトルにやられました(笑)。
原題は「The Songs of Trees」(木々の歌)で、セイボ、バルサムモミ、サバルヤシ、トネリコなど特定の12本の樹木にフォーカス。
先日ご紹介したBambooは植物の生体電位を私たちに聞こえる音に変換してくれるデバイスでしたけど、植物の歌を目に見える文章に変換してくれたのがこの本だとも言えそうです。
雨や風などで発生する木の音や、木に集まる鳥や虫の音の描写が多く、木の周りのどれほど豊かな生態系が育まれているのかを、科学的であると同時に「歌」として詩的に表現する素敵な一冊でした。
「われわれはみんなーー木々も、人間も、虫も、鳥も、バクテリアさえもーー多であってひとつなのだ。」(p.14)
「だからわたしたちは、帰属しているということを行動原理にしなければならない。・・・木々という、自然界のつなぎ手の声に耳を傾けることは、すなわち、生命によりどころを与え、実態をもたらし、美をも提供している関係性の中に、いかに住まうかを学ぶことでもある。」(p.15)
「日本語版への序文」で始まり、本文の中でもゴヨウマツ(の盆栽)を取り上げるなど、著者の日本贔屓が垣間見えるところも嬉しいところですが、たくさん植物の写真が掲載されているのも日本語版だけだそうです。
ところで日本語版への序文には、日本で買った駅弁の中に紅葉したモミジが一枚入っていたことに著者がいたく感激し、
「日本では、季節の変わり目を見守り、称える習わしが非常に発達している。」
「日本の伝統は、わたしたちが生命のコミュニティの一員たることを、胸の躍るやり方で、贅沢に思い起こさせてくれるのだ。」
・・・と書いてくれています。(日本語版以外にも書いて欲しかったですが。)
よく「日本には四季がある」と言い、それを聞いた外国人が「外国にだって四季はあるよ!」と反論するのも聞いたことがありますけど、より正確に言えば「日本には微妙な四季の移ろいを愛でる風習がある」ということですね。
社会が工業化していく中で国土から自然が減り、それに比例して私たちの自然を愛でる感性も減少してしまいましたが、それを失うことは日本人としての伝統やアイデンティティを失うことと等しいように私には思えます。
日本に限らずアメリカ先住民の文化を見ていても思いますが、やはり自然を観察することこそが文化の基盤ですね。
最後に本作に載っていたケチュア(アマゾンの先住民)の言葉を紹介して終わりましょう。
「木々には歌がある。川も生きて歌っている。わたしたちは彼らから、自分たちだけの歌を習う。木が歌うなんて頭がおかしいと思われる。頭がおかしいのはこっちではなく、わたしたちを見くびる人間だ。」
「わたしたちはずっと昔から、木々が歌うのを知っていたし、森の無数の生き物たちと命を共にしてきたんだ。」(p.51)