【読書の春 Special 2020】 | Wind Walker

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ネイティブアメリカンフルート奏者、Mark Akixaの日常と非日常

ブログに書かなかったシリーズ第7弾。

 

以前は単純に良かった本を単独に書いて、そうでないものをこのシリーズにまとめて紹介していたんですけど、最近は良いとか悪いとかではなくて何か書きたいことがあるものを単独で書き、別に書くこともそんなに無い本がこのシリーズに回ってきているような気がします。

 

何が言いたいかというと、まとめて紹介された本の著者や愛読者の皆さんは気を悪くしないでねということです(笑)。あくまでも一個人の感想に過ぎませんので。

 

 

 

 

『家康、江戸を建てる』 門井慶喜著 2016年

 

小田原城が落ちた時、秀吉は家康の領地と関東八ヵ国の国替えを申し入れる。それは徳川家の力を弱体化させる策略だったが、そうと知りつつ家康は承諾。彼の頭には湿地帯の関東平野を豊穣の地に変える構想があったのだ・・・という小説。

 

江戸(東京)湾に流れ込む利根川の流れを大規模な工事で変え、貨幣で覇権を握ろうと豊臣政権が流通させていた大判よりも純度の高い小判を鋳造。

 

戦国時代の覇権争いを描いた小説は読んだことがありましたが、こういう裏方の官僚的な配下の活躍を描いた作品は初めてだったので面白かったです。後に東京が首都になる基礎が作られた話でもありますし。

 

文章はライトノベルのような軽さなので時代小説としての評価は難しいものの、雑学好きな方やプロジェクトXとかが好きな方にはオススメ。

 

 

 

 

 

『世阿弥 風姿花伝(100分de名著)』 土屋恵一郎著 2014年

 

『風姿花伝』は世阿弥が能の奥義を子孫に伝えるために書いた秘伝ですが、明治以降は誰でも読めるものとして広まりました。

 

それはこの本が単なる能楽論であるだけなく、ビジネスマンにはマーケティング戦略を学べる一冊でもあるからとのこと。

 

舞台に立つ人間としてビジネスマンより学べるものがあるのではないかと期待して読んでみましたが、なぜだか今の私には特に心に響きませんでした。「老いの美学」なども書かれているので、将来また時間を置いてから読み返したいと思います。

 

ちなみに『風姿花伝』の現代語訳も読んでみましたが、このテキストの方がずっと分かりやすくてオススメ。ブログでも何回か紹介してますけど、「100分de名著」のテキストってものすごく優秀なのです。

 

 

 

 

 

『幻の漂白民・サンカ』 沖浦和光著 2001年

 

渡米中に自分が日本のことをあまりよく知らないことに気がついて帰国後は民俗学的な本を読み漁りましたが、当時興味をもったことの一つがサンカでした。

 

日本で戸籍を持たずに山野に暮らす非定住の民で、三角寛という作家の調査によれば独自の文化や文字があったとか、国家権力にまつろわぬ先住民の末裔ではないかという話も。なんと1960年代まで日本各地にそんな人たちがいたというのです。

 

しかし関連書を読むうちにサンカにまつわる情報の多くは三角寛の創作だったことが分かり、興味は一気にフェードアウトしてしまいましたが、最近になって「サンカってどこまでが本当だったのだろう?」とまた気になったので本作を読みました。結果、サンカが生まれたのはどうやらそんなに古い時代ではなさそうでした。

 

今まで読んだサンカについての本の中で最も誠実な一冊だったので興味がある方にはオススメですが、「サンカって何?」という方はわざわざ知る必要はない気がします(笑)。

 

 

 

 

 

『ウルティマ、ぼくに大地の教えを』 ルドルフォ・アナヤ著 1996年(原著は1972年)

 

「チカノ(メキシコ系アメリカ人)文学の父」と呼ばれる著者の代表作。アメリカでは30万部を超えるベストセラーだそう。

 

ニューメキシコに住む7歳の少年の家に、呪術師でもある祖母のウルティマがやってくるところから物語は始まります。

 

主人公の少年の体験するさまざまな事件に対し、ウルティマがアドバイスして少年を成長させる過程は『君たちはどう生きるか』に近いものを感じました。

 

ホピ族などのプエブロインディアンの文化のルーツはどうもメキシコのマヤ文明にあったようなのですけど、本作で「インディアン」が畏怖の対象として出てくるのでメキシコ人はインディアンを決して同族とは見ていないことが興味深かったです。

 

主人公は将来神父さんになるための教育を受けているので、ウルティマのもつ伝統的な考え方よりもカトリックの話にページ数が割かれていたのが個人的にはちょっと残念でした。

 

しかしその「ウルティマの話をもっと聞きたかった」という想いがラストをより感動的なものにしているのも事実なので、計算の上でそうしたのだとすると作者はとんでもない策士です(笑)。

 

オススメかと言われると微妙ですが、名作なのは間違いないでしょう。

 

 

 

 

 

『アミ 小さな宇宙人』 エンリケ・バリオス著 1986年

 

この本はスピリチュアル系の世界では大絶賛されていて、私の周囲でも非常に評価が高い一冊です。

 

主人公のペドロ少年は宇宙人のアミと出会い、宇宙から見た地球は愛の度数の低い未開の星だと教わるーーというあらすじと、さくらももこさんの描いた表紙から「いい大人が読む本ではないかな・・・」と、なんとなくスルーしてきました。

 

アミの見せてくれる世界は、人々は愛に満ちていて、起こってもいないことに不安を抱かずに今を楽しむ、警察も防犯意識も所有の概念もないユートピア社会。

 

ただ気になったのが、その人の愛の度数を測る機械があって、地球で未曾有の災害や戦争があった場合、数値が700以上の人だけが宇宙人に助けてもらえるということ。

 

遠い過去に一度そういうことがあって、地球人の子孫が別の惑星で平和に暮らしている姿も描写されるのですが、その時に良い人が全員連れ去られて悪人しか残らなかったから地球がこんなに荒んでしまったんじゃないの? という疑問も浮かんでしまいました。

 

あとスーパーコンピューターによって彼らの世界のシステムがコントロールされているとのことで、先天的に愛の度数が低い子が生まれたり何かの拍子で数値が低くなった人間は人知れず洗脳や抹殺をされているのでは・・・と、あらぬ想像も。

 

私も「愛が一番大切」というメッセージには賛同しますけど、良いことばかり聞かされると「裏に何かあるのでは・・・」と勘ぐらずにはいられないようです。

 

本の最初に「これは子どものためのファンタジーなので大人は読み続けないように!」と書かれていたので、残念ながらこのおとぎ話を楽しむには私は年を取りすぎてしまったのでしょう。

 

 

 

 

 

『アルケミスト』 パウロ・コエーリョ著 1988年

 

こちらも『アミ』と同様にスピ界隈で絶賛されている一冊。同じ時期に同じく南米の作家によって書かれた小説ですが、こちらは大人の鑑賞にも耐える作品です。

 

羊飼いの少年は、ピラミッドの近くに宝物が隠されているという夢を二度見ます。その夢を信じて少年は羊を売って旅に出ました。旅の途中に出会うさまざまな苦難や人々のアドバイスによって少年は成長していくというお話。

 

錬金術士のような人生の本質を知り尽くしたような登場人物たちによる「夢を諦めるな」とか「何かを強く望めば宇宙のすべてが協力して実現するように助けてくれる」などの自己啓発セミナーでよく言われてそうなメッセージがふんだんに盛り込まれているのが特徴ですが、ただひたすらポジティブな言葉ばかりを聞かされるだけではないのが本作の長所。

 

主人公がすべてを失う困難に何度も遭遇し、しかしそこから学びを得てさらに大きなものを獲得するという逆転劇が共感や感動を生むのです。

 

200ページもない短い話ですけど、過不足なく完成された名作。最上級のオススメです。

 

ではなぜ単独で紹介しなかったのかといえば、今更オススメするまでもなく非常に有名な作品であることと、「とにかく読んで」という以外に言うべき言葉が出てこないからです(笑)。20年ほど前にも読んだことがありましたが、年を取ってから読んだら以前よりももっと感動できました。

 

 

 

 

 

気軽に外出できない今こそ、普段時間がなくて向き合えなかったものと向き合うべき時でしょう。

 

そうすれば今という時間が災厄などではなく、むしろ人生においてプラスとなるのです。