【読書の新春 村上春樹 Special】 | Wind Walker

Wind Walker

ネイティブアメリカンフルート奏者、Mark Akixaの日常と非日常

さて今回は私と同じ誕生日の村上春樹さんの本をまとめ読みしたので、感想を記録しておきます。

 

私は『海辺のカフカ』(2002年)で読むのをやめてしまったので、それ以降の作品を中心にすべて初めて読んだ作品ばかり。

 

 

 

『アフターダーク』 村上春樹著 2004年

 

眠りっぱなしの姉・エリとよく眠れない妹・マリを巡る、ある一夜の話。・・・村上春樹作品はあらすじを書くのが難しく、なおかつ筋だけ説明してもあまり意味がないですね(笑)。

 

複数の話が並行して進み、それぞれ話の決着も謎の解決もしないままに終わってしまうので、人によってきっと読み方も感想も千差万別なことでしょう。

 

二つの世界を行き来しているらしいエリの話はどう解釈して良いものやら混乱させられましたが、マリのパートの登場人物が「二つの世界を隔てる壁なんてものは、実際には存在しないのかもしれない」、「僕ら自身の中にあっち側がすでにこっそりと忍び込んできているのに、そのことに気づいていないだけなのかもしれない」(p.142)と語るところで、ようやくこの作品のテーマらしきものが見えました。

 

でもその解釈でいくとトロンボーンを持った好青年がハーメルンの笛吹き男のように危険な存在に思えてゾッとしてしまいましたが・・・ああ、そうか。「次に来る闇」を想像して戦慄するのを楽しむ話なのかな、これは。

 

今までにない感じの意欲作でしたが、ただ『競売ナンバー49の叫び』と同様、謎解きとしての面白さがあることと読み物として面白いことはイコールではないですね。

 

 

 

 

 

 

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』 村上春樹著 2013年

 

学生時代の仲良し5人グループの4人から突然理由もわからず絶縁を言い渡された過去をもつ主人公・多崎つくるが、36歳になってからその真相を探ると衝撃の事実が・・・というお話。

 

主人公が死にたがっていたり、自分にはなんの取り柄もないと思い込んでいたりと、相変わらず読者の共感を得るのが上手です。

 

ただミステリーっぽい導入部で読者を引きつけた割にお話が旧友に会って話をするのを繰り返すだけであることと、またしても謎が解決されないまま終わることで評価は大きく分かれそう。

 

こじんまりとした話で名作だとまでは思いませんけど、好感は持てました。特に今回の主人公が意味もなく複数の女性とセックスするようなことがなかったことはホッとしました。女性キャラが出てくるたびにハラハラしたので(笑)。

 

 

 

 

 

 

『パン屋を襲う』 村上春樹著 2013年

 

最近の作品ばかり読むのにちょっと飽きてきたので、初期の名作と名高い短編の「パン屋襲撃」を探したところ、この本に収録されているというので読んでみました。

 

1981年「パン屋襲撃」、85年の「パン屋再襲撃」という二つの短編にドイツ人の女性イラストレーター、カット・メンシックさんがイラストをつけた、あとがきを含めて77ページの本。(作者によれば「絵本」なのだそうです。)

 

偶然に『多崎つくる』と同年に出版された本ですが、「再襲撃」の「親しい女性のアドバイスに従って主人公が過去のトラウマを克服しに行く」というプロットは全く同じ。著者のなんらかの実体験に基づいているのでしょうか。

 

面白いですけど、それだけに短編だと物足りなく感じてしまいました。ひょっとしたら「短編だから」じゃなくて、近作に描かれる「隠れた悪意」が無いことに物足りなさを感じてしまったのかもしれません。・・・まあパン屋を襲撃に行く時点で完全に犯罪行為ではあるんですけども(笑)。

 

 

 

 

 

 

『騎士団長殺し』 村上春樹著 2017年

 

ようやくたどり着いた最新刊。

 

一応あらすじを書くと、突然妻から離婚を告げられた主人公は有名な画家である老人の家に一人で住むことに。その家の屋根裏で「騎士団長殺し」という題名の一枚の絵を発見したことから奇妙な体験が始まる・・・という話。

 

本作のタイトルを初めて聞いたときは中学生がつけたような幼稚さを感じたほどでしたが、読み終わってみれば確かにこれは「騎士団長殺し」の話でした(笑)。

 

妻との別れ、井戸、夢の中での性交、リトルピープル(謎の小人)など過去作に出てきた要素がいっぱいで、新しい物語を読んでいるというよりは同じ主題の変奏曲を聴いているような感じでしたけど、後期作品ではこれが一番面白かった気がします。ファンタジー要素も多めで非合理な部分も多く、それだけに異次元へのトリップ感が尋常ではありません。

 

以前「最初の10ページで面白いのが名著」と書いた覚えがありますが、本作で面白いと感じたのは100ページほど読んでから。しかしそこから先は、読むのを止められないほどグイグイ引き込まれました。

 

『アフターダーク』や『多崎つくる』は物語の裏側を深読みしたくなる(せざるをえない?)ような謎めいた作品でしたし、『1Q84』は「前半は傑作、後半は退屈」という評価に困る作品でしたけど、本作は普通に読んで普通に楽しめました。

 

物語が久しぶりにキレイに収束して、未来を感じるエンディングにしてくれたのにも素直に満足。初めて村上春樹を読む人にも面白いのでは。オススメです。

 

ただ南京虐殺やナチスドイツのオーストリア併合をわざわざぶっこんできたのはノーベル賞狙いなのかな? というあざとさは感じました。逆にそういう底の浅いところが賞を取れない理由なのではないかと・・・大きなお世話ですね(笑)。

 

 

 

 

 

過去に『海辺のカフカ』を読んだときに「村上春樹は終わった」と思ってしまったものですが、なかなかどうして後期作品も初期作品とは違った良さが充分にありました。

 

純粋に読んでいて楽しかったですし、なにより「気になる作家のまだ読んでいない本がたくさんある」というモヤモヤ感が解消されたのが一番の収穫。

 

私が過去作で一番好きだったのは『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』で一番低評価なのは『海辺のカフカ』でしたけど、どちらも内容は何一つ覚えていないので(笑)、いずれその辺りの作品も読み返してみたいと思います。