『花まんま』 | Wind Walker

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ネイティブアメリカンフルート奏者、Mark Akixaの日常と非日常

『花まんま』 朱川湊人著 2005年

 

 

2005年の直木賞受賞作品。

 

著者のプロフィールには「2003年に日本ホラー小説大賞短編賞受賞」と書いてあったので、てっきり本作もホラーなのかと思ったのですが違いました。

 

幽霊、謎の生物、前世の記憶、言霊など、確かにどれも人の死にまつわるオカルトめいた話なのですが、人を怖がらせることを目的にしたホラーではなく「泣ける怪異譚」という趣。以前ご紹介した『魂でもいいから、そばにいて』に近いものを感じます。

 

 

著者は1963年大阪府生まれとのことで、この短編集ではどれも舞台は半世紀前の昭和の大阪。猥雑でありながら人と人との距離が近く、東京生まれの私が懐かしいはずもないのですが、いわれなき郷愁をリアルに感じさせてくれます。この作品の魅力はまさにこの「ノスタルジックな空気感」ですね。

 

冒頭の「トカビの夜」という作品に「パルナスのCMソング」というのが出てきて、「お菓子屋さんの宣伝とは思えないほどマイナーな曲」で、登場人物が胸元をさすりながら「何かその歌、寂しい感じがするやろ。聞いとったら、このへんがシクシクするような気がするんや」(p.19)といいます。

 

解説を読むとどうやらパルナス製菓のCMソングは関西ローカルながら実在したとのことなので、早速YouTubeで検索。

 

 

初めてなのに懐かしい。・・・それがまさにこの作品集の感想そのものだというのが面白いところ。

 

 

怖かったり不気味だったりする場面はあるものの、ジャンルとしてはホラーではないです。じゃあなんなの、と聞かれたら返答に窮しますが(笑)、ジャンルに関係なく儚くて切ない読後感が得られる傑作であることは断言できます。

 

荒唐無稽な題材でありながら、本当に昔あったことのように語る自然体な語り口が非常に巧みで引き込まれました。これはほんまにおすすめ。

 

 

 

 

しかし一番怖いというか不思議なのは、なぜ自分がこれを読もうと思ったのかまったく思い出せないことです・・・。