『史上最強の哲学入門』 飲茶著 2010年
以前読んだ『「最強!」のニーチェ』があまりに面白かったので、飲茶先生の本をまた探してみました。
本当はニーチェのときのように一人の哲学者を一冊かけて解説してくれるような本が良かったのですけど、無かったのでこれに。
さまざまな哲学者を紹介するスタイルが入門書の定番であるのだそうですが、飲茶さんは「今までの入門書に何が足りなかったか」を自問した挙句、「バキ」分が足りなかったというとんでもない答えにたどり着いてしまいます(笑)
「バキ」とは、『グラップラー刃牙』に始まる格闘技漫画シリーズのことで、世界中から猛者が集まって最強の男を決めるという少年漫画。
強い(優れた)哲学者が世に現れては、また別の哲学者がそれと対立するさらなる強い論を提示するさまを、バキの世界観に見立てているのが本作の特徴。
一見バカバカしく思えるこの構成が、実は非常に有効に機能しているのですッ!
私も学生の頃に「定番」スタイルの入門書をいくつか読みましたが、哲学者の時代順に「こういう人が現れて、こういうことを言いました」ということが列挙してあるだけで、なかなか頭に入らなかったものです。
本作では「真理・国家・神・存在」の4つのテーマに分かれ、それぞれにどのような筋道で人類の哲学が発展してきたのかがものすごく良く分かるのですよ。点と点がつながって線となるような。
たとえば、
プロタゴラス「絶対的な真理などない」
↓
デカルト「絶対に疑えない確実なものとはなにか?」
↓
カント「世界のホントウの姿は知りえません」
↓
サルトル「僕たちの手で人類を真理に導こうじゃないか」
↓
レヴィ=ストロース「真理は一つの方向で進むわけじゃない」
↓
デリダ「到達できない真理を求めるのは不毛だ」
・・・という感じ。
昔、『嘔吐』を読んだときにはよく分からなくて、サルトルって「難しいことを考えすぎて吐いたおじさん」というイメージしかなかったんですけど、こういう思想の方だったのですね(笑)
哲学者というとソクラテスやアリストテレスのような古代ギリシアのイメージが強かったですけど、これを読むと近現代の哲学の方がやはり興味深いです。
「無知の知」とか「スコラ哲学」とか、ワードだけ知っているだけでなんとなく分かっている気になってしまっていることも多いですが、読んでみると意外とちゃんと理解していなかったことが多くて実に面白かった。
それにしても飲茶先生って、難しいことを分かりやすく嚙み砕くのが本当に上手ですね。
哲学には興味はあるけど難しそうで・・・、という人にほどおすすめ。
表紙はなんと「バキ」シリーズの作者、板垣恵介先生が担当!
とても凄いことだとは思いますけど、私はバキって一度も読んだことがないのです・・・(笑)