『オオカミたちの隠された生活』 | Wind Walker

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ネイティブアメリカンフルート奏者、Mark Akixaの日常と非日常

『オオカミたちの隠された生活』 ジム&ジェイミー・ダッチャー著 2014年

 

 

今年はオオカミの本をもう嫌というほど読みましたけど、これはついに出会った究極のオオカミ本!

 

大型本なので写真集だと思っていたのですけど、読んでみたら写真だけでなく文章も充実していて、オオカミにまつわる名言も掲載されているお得な一冊でした。

 

 

著者のジム&ジェイミー・ダッチャー夫妻は20年以上をオオカミの研究に費やし、「リビング・ウィズ・ウルブズ」というNPOを立ち上げたお二人。

 

人間を警戒するオオカミの群れを至近距離で観察する手段として、なんと子供の頃から人に慣れた新しいオオカミの群れ「ソートゥース群」を国内の研究センターから大人の雌雄オオカミ2匹と子オオカミ4匹をもらい受けることによって作りました。

 

この本はソートゥース群に生まれ育った、何世代ものオオカミたちの観察記録です。

 

内容は私が今年読んできた本の内容を一冊にまとめた感じで、最初からこの本だけ読めば十分だったかもしれません(笑)

 

 

オオカミが悪者として童話に登場するおかげで「悪の動物」という先入観を抱かれているというのは『狼の群れと暮らした男』にも書いてあったことですが、さらにその根源はキリスト教で神を羊飼いとし、信者を羊の群れと例えたことから、必然的にオオカミが悪魔となったという推測に納得。

 

現実にはこの100年で野生のオオカミによって人が死んだと報告されているのは北米全体でわずか2件なのです。

 

実際のオオカミの群れを観察してみると、彼らは残忍で攻撃的な動物ではなく、社会性のある愛情深い存在でした。

 

 

オオカミが絶滅して生態系が崩れたというのも、単純に「被食動物の数が増えすぎた」ということなのかと思っていましたが、オオカミはリスクの少ない獲物を狙うので病気にかかった弱い個体が草食動物の群れから取り除かれ、結果的に被食動物の群れが健康を保てるという点が大きいそうです。

 

またオオカミがいることで彼らは常に警戒をしなければならず、一箇所にとどまってエサを食べ尽くすこともなくなり、移動し続けることで病気が蔓延する確率も減るとのこと。狩られる側の草食動物にも大きなメリットがあるなんて面白いですね。

 

 

アメリカで絶滅してしまったオオカミを復活させるためにイエローストーン国立公園にカナダから連れてきたオオカミを放したという話は皆さんご存知のことと思いますけど、なんと2011年にはオオカミの数は「回復した」と宣言され、絶滅危惧種のリストから外されてしまいました。

 

その結果、大規模なオオカミ狩りが堂々と開始され、せっかく増えたのにアイダホ州とモンタナ州ではまた半数近くまで減ってしまったということです。残忍で攻撃的な「悪の動物」とは一体どの種族のことなのでしょうか・・・。

 

 

なぜ自分がこんなにもオオカミに惹かれるのかと考えたら、ただ「犬に似てて可愛い」というだけではなく、無理解で利己的な人間によって絶滅の淵に追いやられるという悲哀を背負っているからであり、その姿が先住民とかぶるからなのかもしれません。

 

 

 

私が常に主張してきたのは、

最善のオオカミの生息環境は

人間の心の中に存在するということです。

あなたの心の中にも、ほんの少しだけ、

彼らの住むスペースを残しておいてください。

 

 エド・バングス

(連邦内務省魚類野生生物局ロッキー山脈オオカミ復元コーディネーター)

(P.82)