『逝きし世の面影』 | Wind Walker

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ネイティブアメリカンフルート奏者、Mark Akixaの日常と非日常

『逝きし世の面影』 渡辺京二 著 1998年

 

 

この本は幕末から明治にかけて日本を訪れた外国人の、日本という国について書かれた記録をまとめたもの。

 

ググったら10万部を売り上げたロングセラーとのことなので、既に読まれた方もいらっしゃることでしょう。

 

 

「この町でもっとも印象的なのは・・・男も女も子どもも、みんな幸せで満足そうに見えるということだった」、「日本人はいろいろな欠点をもっているとはいえ、幸福で気さくな、不満のない国民であるように思われる」というような当時の日本人の様子が客観的な視点から語られます。

 

最初に語られるのがこの「皆が幸福そう」という印象で、日本人は笑うことが好きで、お互いに礼儀正しく、口論もほとんど見られなかったといいます。最後まで読んだ後も心に残ったのがその「幸福」なイメージでした。

 

本書を単純に外国人の皆さんが我が国を褒め称える「日本万歳」の本として読んだ方も多いのかもしれませんが、しかしタイトル通り、これは「滅んだ文明」の記述であり、私たちが読んでも異文化に触れている感覚は拭えません。

 

子どもには厳しく躾をするのではなく自由に遊ばせていたりとか、時間の概念がなく時がゆったりと流れているとか、実際私がインディアン文化に初めて触れた時に抱いた印象と非常に似ている点が多かったように思います。

 

そういえばコロンブスが新大陸を発見し、アメリカ先住民と接触したときの日記に「彼らは極めて純真かつ正直」と書かれていたことを思い出しました。そしてその文章は「彼らは立派な召し使いになるだろう。手勢50人もあれば彼らを一人残らず服従させられるし、望むことをなんでもやらせることができるだろう」と続くのですが・・・。閑話休題。

 

 

ペリー来航が1853年だと考えると、当時から現在までわずか160年ほどしか経っていないわけですが、本書を読んでいるとその間の急激な変化と、それに伴って失われたものの巨大さがまざまざと浮かび上がってきます。

 

個人的に興味深かったのはやはり「信仰と祭」の章で、「私の知る限り、日本人は最も非宗教的な国民だ。」、「日本人はまるで気晴らしか何かするように祭日を大規模に祝うのであるが、宗教そのものにはいたって無関心で、・・・それに反して迷信は非常に広く普及していて、お守りとか何かの象徴を住居その他につけるのがごく普通になっている。」等々、そこだけはまったく今と変わっていなかったのが意外で面白かったです。(笑)

 

私はてっきり、近現代に身につけた科学的思考が宗教に取って代わったのだとばかり思っていましたが、日本人の宗教への不信・無頓着は古くからの伝統だったのですね。

 

 

アメリカでは「インディアンは野蛮で、残酷で、駆逐すべき存在だ」というイメージを人々に植え付けるのに西部劇が一役買っていたといいますが、私たちの抱いている江戸時代のイメージもほとんど映画やTVの時代劇で培ったものであり、本当のところは驚くほど知らないのだなぁと本作を読んで反省させられました。

 

 

読んだら誰かに紹介したり内容を語りたくなります。きっとそれが名著というものなのでしょう。

 

600ページ近くあって、読破するにはちょっとだけ時間とエネルギーが必要なんですけどね。