『そして誰もいなくなった』 アガサ・クリスティー著 1939年
言わずと知れたミステリの金字塔。
なんで門外漢の私がこれを取り上げるかというと、この作品は「Ten Little Indians」というマザー・グースの童謡の歌詞になぞらえた殺人が繰り返されるというインディアンつながりの内容のため。(ちなみに最初は「Ten Little Niggers」だったのを修正したらしいです。最近ではさらに「Indians」を「Soldiers」と変更している模様。)
携帯電話があったら状況が成立しない点を除けば、75年経った今でも充分楽しめる大傑作。
マーク・トウェインの「古典とは誰もが賞賛し、誰も読まない本」という名言がありますが、それはあまりにもったいないので未読の方がいたらご一読をお勧めします。
ところで今回言及したいのはミステリの内容ではなく、使用されたマザー・グースの歌詞のほう。
十人のインディアンの少年が食事に出かけた
一人がのどをつまらせて、九人になった
九人のインディアンの少年がおそくまで起きていた
一人が寝すごして、八人になった
八人のインディアンの少年がデヴォンを旅していた
一人がそこに残って、七人になった
七人のインディアンの少年が薪を割っていた
一人が自分を真っ二つに割って、六人になった
六人のインディアンの少年が蜂の巣をいたずらしていた
蜂が一人を刺して、五人になった
五人のインディアンの少年が法律に夢中になった
一人が大法院に入って、四人になった
四人のインディアンの少年が海に出かけた
一人が燻製のニシンにのまれ、三人になった
三人のインディアンの少年が動物園を歩いていた
大熊が一人を抱きしめ、二人になった
二人のインディアンの少年が日向に座った
一人が陽に焼かれて、一人になった
一人のインディアンの少年が後に残された
彼が首をくくり、後には誰もいなくなった
この小説のために作詞されたわけでもあるまいに、なんとも恐ろしい歌詞ではありませんか。
私たちがよく知っている「One Little, Two Little, Three Little Indians~♪」という数え歌と随分違うと思ったら、やっぱり違う曲でした。
英米の文学作品や英語のちょっとした言い回しがマザー・グースを下敷きにしているものが多いとのことなので、彼らの文化を本当の意味で理解するためにはマザー・グースも、聖書やシェイクスピア作品と並んで必須な基礎知識の一つなのだそうです。
これを機にもうちょっとマザー・グースの勉強をしてもいいかもしれませんね。ナンセンスで馬鹿馬鹿しくてどこか不気味、という特徴からして好きになれそうな予感がビンビンします。