店に入ると、カウンターテーブルには珍しく餃子の姿が見えた。
銀色のトレーに焼かれる前の餃子が綺麗に並べられていた。
紆余曲折あって、マスターは焼き餃子を滅多に作ってくれなくなってしまった。
紆余曲折というのはアレだ。
この店を始めて訪れた客が、その美味しさと安さに感動し、SNSにその時の様子を店の名前入りでアップしたのだ。
「餃子なんてたぶん一皿100円。」
なんて嘘も書かれていた。
しかし、信じる者は多かった。
それ以降、餃子を注文する客が増えた。
そして、会計時、マスターと揉めた。
「えっ、餃子、100円じゃないの?」
この店にはメニューが無い。だから、値段も不明だ。
だからと言って、会計時ぼったくられるなんてことは断じてない。
しかし、餃子一皿100円と信じていたものにとっては、告げられた金額が、予想より高かったのだろう。
瓶ビールと餃子で650円と踏んでいたものにとって、
「お会計、1000と350円になりまーす。」
は、腑に落ちなかったに違いない。
正確な内訳を知るのはマスターのみだが、瓶ビール650円、お通し300円、餃子400円だとしても、十分に良心的な値段だ。
それをぼったくり呼ばわりされては、いくら温厚なマスターとはいえ、不機嫌になって当然だ。
以来、餃子は作ってくれなくなってしまった。
その餃子が、この日は存在していた。
これは頼まなければなるまい。
前の店で水餃子を食べ、餃子がダブルことになったが、そんなの関係ない。
焼き餃子を注文した。
しかし、前の店で飲み食いし過ぎていた。
日本酒一杯と、餃子2個で、残りは隣の客に進呈し、店を出た。

