銀座にお気に入りの焼鳥居酒屋がある。
その店では、毎年この時期、つまり秋になると、恒例の名物串が出る。
松茸串。
合鴨肉で巻かれた松茸が3個、串刺しになり、塩焼きで、酢橘が添えられ、提供される。
皿も、それだけはより高級な別皿となる。
松茸串以外は、目の前に置かれた平皿に、焼かれた順に、ホイホイと乗せられていくのだ。
初めてホワイトボードにかかれた特別メニューにそれを目にしたときは、書かれた値段を二度見した。
2500円。
いやいや、串一本に2500円はないだろう。これは無理!。
と、絶対に注文しないと心に決めたものだった。
しかし、店の女の子から、
「今だけの限定ですよ。ほとんど原価提供なんです。」
と、にっこりされると、その決心も鈍った。
そして、隣の、ご夫婦なのか、御年配の男女の二人連れが、なんの緊張感も、躊躇いもなく、それを注文したのも、俺の対抗心に火をつけた。
俺は、競争は嫌いだ、などと言っているが、なんだかんだ負けず嫌いなのかもしれない。
「それじゃあ、私も松茸お願いします。」
と言ってしまっていた。
3年前の話だ。
恵比寿に、お気に入りの酒場がまだあったころは、毎回タクシーで通っていた。
そのタクシー代が往復で3000円程だった。
「タクシーやめて歩いたと思えば、2500円なんて安いものじゃないか。」
あるいは、
バーで、ちょっといいシングルモルトをワンショット飲んだだけで、2~3000円はする。
自分で買えば一本750cc6000円くらいのものであってもだ。
「それを思えば、松茸串、一本が2500円だって、それは妥当な値段じゃないか。」
そんな風に、自分に言い聞かせている。
慣れとは恐ろしいもので、以来、逆にそれが愉しみになってしまい、毎年、この時期が来ると、嬉々と店を訪れ、松茸串を食べることにしている。
今年は、妻も連れて行った。
今年は松茸の値段がお安いのか、1本2200円だった。
とはいっても、やはり高級串には違いない。
しかし、それだけに香りも味も素晴らしかった。
妻も偉くそれを気に入ったようで、一本食べ終えるや、俺に訊いてきた。
「ねえ、これもう一本頼んでもいい?」
俺が、なんと答えたかって?
答えは、タイトル。