猫と電池 | さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

酒場であったあんなこと、こんなこと。そんなことを書いてます。ほとんど、妄想、作話ですが。

バッテリー。
電池。
それが何の為の電池だったのかはわからない。
まだ電池としての役割を果たせるものだったのか、それともその働きを終え後は特殊産業廃棄物取り扱い業者がそれを引き取りに来るのを待つだけだったのか?何れにしてもそれは俺以外の者に依って家のキャビネットの上にポツリと置かれていたに違い無いのだ。

俺がその存在を知ったきっかけは飼い猫のキョンだった。 キャビネットの上に飛び乗った彼女は、暫し何かを前脚でチョイチョイしていたかと思ったらそれをキャビネットの上から落下させた。フローリングの床に落ちたそれは、カツンという硬化的な音を響かせた。
高い所に飛び乗り、そこに置かれていた何かを前脚でチョイチョイして落っことす、というのは別にキョンに限った話でも無く、猫を飼っている人ならば誰しもよく目にすることだと思う。問題は落とされたのが何かをということだ。コインや消しゴムの類であれば、「ま、いっか。」で片付くが、聖水の入った高価な盃やら、精巧、取り扱い要注意な必要以上に秒針の付いたクロノグラフなんかだったりすると目も当てられない事になる。 しかし幸い今回彼女が落としたものは音からして小さな小石のようなものに思われた。 それの落下と間を置かずしてキャビネットの上から床に飛び降りて来た彼女は、さらにそれを前脚で蹴飛ばし、まるでアイスホッケープレーヤーがパックを追うかのようにそれを追いかけ回した。こういう一人運動会も猫を飼っている人ならばほぼ毎夜、体験していることだと思う。 ドタバタうるさいのを別にすれば、飼い主に散歩をせがむわけでもなし、実に心温まる愛くるしい光景だ。
しかし、キョンは何を追いかけ回しているのだ?
立ち上がり近寄ってわかったが、それは小さな、それこそ直径が5ミリメールも無いような円盤型の電池だった。
「そうか、キョンは電池で遊んでいたのか。いいじゃ無いか。満足いくまで遊べ。」
そう言って彼女の頭を撫でて、そこを立ち去り、またソファーに戻り映画の続きを観はじめた俺だったが、それからしばらくして、今度は妙に静かになったキョンが部屋の隅に小さく丸く蹲るのを目にし、妙な不安に包まれることになる。
実は先日、電池を誤飲した乳児の話を耳にしたばかりだった。
もしキョンがそれを追いかけ回した挙句、飲み込んでしまっていたとしたら・・・
「キョン、お前電池どうした?」
しかし、そう尋ねても彼女がそれに答えてくれるわけも無く、だが、さっきまで元気いっぱい走り回っていたはずの彼女がこうも急峻に静かになるというのは、よくあることと言われればそうなのだけれど、おかしい、異常だと言われればそうも思えた。
とりあえず電池だ。
床に転がっている電池が見つかれば安心だ。
たから、それから30分、血眼になって床を這い蹲って探した結果、漸くベッドの下にそれを見つけた時の俺の心の晴れ晴れ感ったら!
俺は電池を拾い上げると蓋つきの箱にそれを入れきっちりと蓋を閉じた。
関係あるのかわからないけど、昨夜見た夢は、可愛い女と知り合い、ドライブに行こうって流れになるのだけど、いざ車のキーを回してみたら、キュルルルっと心細い音しかエンジンは上げず、つまりバッテリーがあがってたというものだった。

おはようございます。では、皆様良い1日を。( ^ ^ )/□