かいがい | さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

酒場であったあんなこと、こんなこと。そんなことを書いてます。ほとんど、妄想、作話ですが。

ほろ酔い気分で店を出ると、記憶にない店が隣にあった。
最後に赤羽を訪れたのは2011年の4月だったから、おそらくその一年ちょっと間にできたのだろう。
もしかしたら2011年の4月の時点でもすでに存在していたのに、俺がそのとき気づかなかっただけなのかもしれない。
いずれにせよ、俺はこの時その店の存在をはじめて知った。
店頭には、まるで魚市場のように、様々な魚介類がならび、練炭に載せられた網の上では、鮪のカマやらサザエやらが焼かれ、芳ばしい煙を漂わせていた。
「こりゃ、よさげじゃん。」
俺はそう呟くと、店に足を踏み入れていた。
店に入り、「席あります?」と訊ね、「どうぞ、どうぞ。はい、お一人様カウンター入ります!」と元気で愛想のいい店のお兄さんに席へ誘導されながら気づいたが、そうだった!今日俺は一人じゃなかった。
「あ、ごめん。あと一人いるんだ。」
あわてて、お兄さんにそう伝えようと口を開いた俺だったが、言い終えるより早く、いつのまに入ったのか、すでにカウンターに腰掛け、メニューを眺める阿久麻の姿が目に入った。

阿久麻について簡単に説明しておこう。
彼女はゼリーフライの街に住む女で、明るいうちは是里依だが、日が沈むと阿久麻に名が変わるのだ。
見た目もちょっと夜の方がいい。

隣に座った俺に、メニューから目をそらすと
「あ、お酒、熱燗頼んでおいたよ。」
と、ごく自然な調子で阿久麻はそう告げると、はいよ、と、箸と小皿を俺の目の前に差し出した。
「あ、どうも。」
そうされるのが当然であるかのように、俺はそれらを受け取ると、目の前に置いた。
そんな俺の背後を、なんだか凄いものを持った店のお兄さんが通り過ぎていく。
「なんだ、あれは?」
凄いものの行方を目で追うと、それは阿久麻とは逆隣にすわる男女の前に置かれ、遠目ながらに確認すると、それは、雲丹やらいくらやらがテンコ盛りに乗った軍艦寿司だった。
「あれ、いっとく?」
凄いものに目を奪われながら、背後の阿久麻にそう訊ねた俺だったが、返事はなかった。
「ん?」
と振り返ると、いつの間に注文していたのか、貝尽くしの刺身と、焼き用の殻付き貝が目の前のテーブルを占拠していた。
呆然とする俺の前で、彼女は手馴れた様子でテキパキと蛤を焼き網に乗せていった。
「やっぱり、貝でしょ、貝!」
乗せ終えると、網の上で、もう早くもぐつぐついいながら口を開け掛けている蛤を満足そうにみつめ、ふふっと笑うと、空になっていた俺のお猪口に酒を注いでくれた。
「気がきくね。」
そういって、頬にチュッとしようと顔を近づけた俺を遮り、彼女は上目遣いに俺をみる。
「アタシって、できる小悪魔系?」
そして、上唇をゆっくり舌先でなめ口角を吊り上げた阿久麻に、今度こそおでこにチュッとやると俺は言った。
「いいや、貝々しい女。」

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

ってはなしは、もう嘘、妄想、作り話、事実とは全く関係ないので、
「俺にも、阿久麻紹介して!」
とか
「もう、まりるったら、アタシだけじゃなかったのね!」
とか
無しでお願い致しますね。

あ、でも、この店が良かったのはホントです。
次回は、あなたと。