ローラーコースターを鰻屋で | さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

酒場であったあんなこと、こんなこと。そんなことを書いてます。ほとんど、妄想、作話ですが。

通りをあてもなく歩いているとふと「う」とかかれた青い幟が目に入った。
見上げると、古い木造建築の建物があり、道路に面した軒下の窓からは、良い匂いのする煙がフワフワと立ち上り、その向こう側から団扇を仰ぐパタパタという音が耳に入った。
老舗の鰻屋なんだろう。
雰囲気だけでそう感じた。
とても昨日今日建てられた建物には思えなかったし、居抜き営業の店にしても、地方の閉店店舗を狙っては内装も外装も殆ど変えずにそのまま営業、暇無し、無駄なし、飾りなし、近年人気の、安い、早い、まずくても文句受けつけない、の、でもそれほどまずくもない、どっちかっていうと旨いんじゃね?という肉料理屋の煙の匂いとも違っていた。
それは間違いなく鰻屋だったし、よく見ると幟には四代目と隅の方に書かれていた。
間違いなく、ここは、四代に渡って続く、伝統ある老舗の鰻屋なのだ。
店に入るとすぐに、二階へと続く、由緒ありそうな長いこと煙に燻されたためなのだろう黒々とした幅の広い大きな階段が目に入った。
それは、二階にもまた階段につづく情緒溢れる小綺麗な由緒ある座敷があることを期待させた。
靴を脱ぎ、早速二階へと向かおうとする俺に、店のお姉さんが言った。
「どうぞ、こちらへ。」
通されたのは、階段の上じゃなくて、一階奧の部屋だった。
一階より二階に行ってみたいものだと思っていただけに、その案内にはちょっとがっかりしたが、奧部屋に入るや、考えも変わった。
こちらはこちらで、良い雰囲気だった。
テーブルに置かれた灰皿やら醤油置きやらの小物も懐古的な良い味を醸し出していた。
席に着き、早速品書きを眺める。
まずは酒だ。
これが思いの外安い。
特級 一級 二級と用意され、一番高価な特級で一合500円。
級が一段下がる毎に100円ずつ安くなっていく。
驚いたのは酒だけじゃなかった。
主役の鰻が、え?と思うほどに安い。
御値段不明の時価はおいといて、それ以外では、一番高い鰻重大でも1600円っていうんだから、俺はちょいとした時代錯誤に陥った。
ほんとに???
そう思いつつ、当初の予定変更、鰻重の他、白焼きに鰊の酢漬けまで頼んでいた。
「鰻重は、鰻とご飯が別になりますが、そちらで宜しいですか?」
と、お店のお姉さんが確認してくる。
こちらでは、鰻がご飯に乗ったものは鰻丼、鰻とご飯、別々に分けられて出されるのが鰻重とされているらしい。だからといって、鰻丼が丼に入れて出されるのかというとそうではなく、重箱にご飯を敷いた上に鰻を乗せたものが鰻丼とのことだった。
俺は鰻丼に変更した。
「肝吸いはいかがされます?」
変更した俺にお姉さんがまた、問い掛ける。
どうやら肝吸いは別売らしい。
品書きを見ると、たしかにそれは単独で存在した。酒の特級と一級の差額分しかしない。俺はついでにそれもお願いすることにした。
お酒は熱燗も冷やもできるということで冷やでお願いした。

お酒といっしょに、枝豆が添えられてきて嬉しくなった。
が、ほぼ同時に届いた鰊の酢漬けを口にして、うぐっとなった。
固い。
とても噛みきれない。
せめて、もう少し小さく切られていれば、まだ食べやすいのだが、これじゃはまるでビーフジャーキーだ。
とても箸だけを使って上品に食べるなんて無理だ。
両手で持って身を捻り、毟り取るようにでもしないことには食べられなかった。
しかし、それをすると、微妙に鰊が酢に浸かって濡れている分、それを掴む手も無駄に濡れ、また酢の匂いも手にうつる。
味はとても良いのだが、人前で格好良く食べるためには、初心者には難易度が高い料理だった。それないの工夫と慣れが必要だった。
おそらく、通な方々は、マイ鋏なりを持参して、出向くのだろう。
そして、鰊の酢漬けが出されると、徐に懐から鋏を取りだし、それを食べやすい大きさに裁断するのだ。
何時の日になるかわからないが、次回は鋏持参で挑もうと俺に決意をさせた一品だった。
次回は、おしぼり片手にそれに酢の香りを染み込ませながら食べるという見苦しい様を披露するわけにはいかない。

鰊に奮闘していると、白焼きが届く。
早い。
まだ頼んで5分もたっていない。
早いに越したことはないけれど、それにしてもちょいと、コレは白焼きにしては早くないかい?
そう怪訝ながらも、蓋を開け、俺は、つい
「なんじゃこりゃ?」
と呟いていた。
予想とは程遠い、白というより茶色の鰻がそこには在った。
大を頼んだわけでは無いから、大きさが重箱に対しスカスカなのはともかく、新鮮さがどこにも感じられず、どこか乾涸らびて冷めきって見えた。
焼きあがった白焼きを何時間も天日の下に放置したら、こんな風になるのかもしれない。
安いとおもったが、こういうことか。
俺はがっかりしつつ、しかし、残すわけにもいかない、仕方なしにそれに箸を入れた。
かちかちに固くなっているだろうと思われたその表面だったが、意外にも箸先はすっと通った。そしてこれまた箸に力を入れなくても、容易にその身は解れた。
解れた身のひとつを口に入れ、俺は言葉を失った。
一見冷めて乾涸らびて見えた白焼きだったが、口にするとほっこり柔らかく、そして温かかった。
つづいて、そのあとを追い掛けるように時間がかからず届いた鰻丼も同じだった。
蓋をあけると、とてもガッカリするのだが、口にするとこれが妙に旨い。
鰻丼の鰻も蒸されていないのか、どこか佃煮のような硬さと甘みがあるのだが、これがご飯に絶妙に調和していた。鰻の割に多すぎと思われたご飯も、結果的には良い塩梅だった。そして、鰻丼をつまみに酒が進んだ。
おかげで昼から3合呑む羽目になってしまった。

関東背開き蒸しあり、関西腹開き蒸し無しとは聞くけれど、いったい、こちらはどっちだろう。
背開きだけど、蒸しは無し。

いずれにしても、歓喜しては、がっかり、落胆しては、うひょー!!のくり返し、なんとも山あれば谷ありの不思議な鰻屋。賛否両論あるんだろうけど、俺としては全然アリ、どころか、大満足、旨かった。
まるで、鰻のジェットコースターやな♪

と、キメタところで御会計3900円。
頼んだお酒は、特級、一級、二級のどーれだ?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

※ちなみに鰻はどちらも中でよろしく。それから鰊と頼んだお酒一合の値段は同じだよ。
・・・って正解したから何が出るってわけじゃないんだけど・・・

その前に、オマイさん!
誰が最後まで読むんだい、こんな長文。

てへ。