偶然見つけ入った酒場は、また機会があったら来てみたいと思うくらい、良かった。
そろそろ電車も動き始めた頃だろうと、もう少し呑み喰いできそうではあったが、それは控えて駅に戻ってみる事にしたのだが、途中、赤提灯を目にしてしまったのがいけなかった。
「この際だし、もう一軒寄ってく？！」
俺の中のもう一人の俺が、にやっと笑った。
どこか昭和博物館的な匂いもしないわけでもない造りの店だったが、清潔感があり、値段も良心的だった。
ホッピーも黒白両方揃っていて、中だけのおかわりも可能だった。
なによりラッキーアワーがでた。
俺はこの注いだ後に瓶の口に現れる気泡をラッキーアワーと呼んでいる。
コレがでると、いいことがある事が多い。
ラッキーアワーに間違いは無く、当初、冷やかし半分な所もなきにしもあらずだったが、すっかり大好きになっていた。
串カツが、二度漬け禁止のソース壷に各自一回限り串カツを漬けて食べる大阪の串カツを真似たタイプじゃなかった事も、俺の心をくすぐった。
「ソースは？」
と訊ねる俺に、店員さんは、は？という感じのどこか不思議そうな顔をすると
「そこに、ソースありません？」
と、カウンターのむこうから、カウンターに置かれた調味料が置かれたあたりを指差した。
醤油にならんでソースの瓶が置かれていた。
「あ、二度漬け禁止じゃないのね！」
俺はさも、当然知ってましたよ風を装い、それは口には出さず、目の前のソースの瓶を取ると、串カツにかけて頬張った。
カラリと揚がったさくさくの衣に熱々の玉葱、それにちょいと控えめのウスターソース。
ほふほふ食べると、ソースの香りが鼻に抜けて・・・
旨いっ！！！
思わず、親指突き立てグーをする俺に、塩もいけるっすよ！と店員さんもにっこりとした。
俺はホッピーの中を追加すると、比較的早めに提供出来るという、煮込みも頼んだ。
たまに、スピードメニューと称して、すぐに出来ます！と謳っていたり、絶対旨い、食べなきゃ損！とか謳っている店も見かけるが、たいていそういう店に限って、随分待たせるし、喰って損をする。
それに対し、このお店の、若干時間かかっちゃうかもしれないけどさ、まあ、こっちのメニューは比較的早くできるっす！という、どこか控えめな表現も、俺を、いえいえいえいえ、どうぞ待ちますんでごゆっくり！という気分にさせた。
しかし、それは本当にすぐに届いた。
能ある鷹は爪を隠すものなのだ。
すっかり気分を良くして店を出ると、電車運行は復旧していたものの電光掲示板には40分待ちの表示が出ていた。
にもかかわらず、次の横須賀線は5分もまたないうちに到着した。
それに乗込み、横浜駅で湘南新宿ラインに乗り換えた。
もちろんシートはグリーンだ。
酔っ払った時は、寝てしまう事が多い。
そんな時グリーンだと、起こしてもらえる。
コツは、自分が降りる駅の一駅前迄グリーン席を購入する事だ。
そうすると、その駅を越えた頃、天井のランプはグリーンから赤に変わり、めざとくそれを見つけたグリーンアテンダントがやってきてすっかり眠りこけた俺を
「お客様、グリーン券拝見致します。」
とゆすり起こしてくれ、「あ、ゴメン、すっかり寝過ごしてしまった、次降ります。」と降りた駅が、本来自分が降りたかった駅になるって寸法だ。
そんなわけで、恵比寿迄グリーン券を購入し、乗ったわけだが
「お客様、グリーン券拝見致します。」
って身体を揺すられたのが赤羽を過ぎた後っていうのは、どういうことかね？？？
しかも寝ぼけているもんだから、ポケットやら財布やら色々捜して
「おっかしいなあ、ホント、グリーン券買ってるんですよ！」
なんて言っている。
あの質問やめてくれないかなあ。特に寝ぼけている時は。
本気で紙のチケットを捜して、慌てる事になる。
あるわけないのだ。そんなもの。
スイカカードにインプットされるだけのものなのだから。
って、結局大宮迄いっちまった。
流石に、そこじゃ改札の外には行かなかったけどね。
なんとか池袋迄戻れたものの、既に終電。
いや、もしかしたら、まだあったのかもしれないが、それで帰る気力無し。
ヘイ、タクシーで、10000円。（おつり入り）
まったく踏んだり蹴ったり
誰のせい？