⑥〈神様のセンス〉
女 「ねえねえ、これ見て。」
男モノ とても嬉しそうに目を輝かせながら彼女が持ってきたモノは、どう見ても可愛いとは言えない、
あやしげなマスコットのついたキーホルダーだった。
女 「原宿を歩いてたら雑貨屋さんで見つけちゃったの。ねえ、可愛いでしょ。」
男 「・・・これ何?」
女 「わかんない。多分、猫か何かだと思う。」
男 「何かって・・・。わからないのに買ったの?」
女 「だって可愛かったんだもん。」
男 「どこが?」
女 「えー、可愛くない?」
男 「少なくとも、ぼくにはこれの可愛さはわからないな。」
女 「そうかなぁ。可愛いと思うんだけどなぁ。ま、いいや。はい、プレゼント。」
男 「え?」
女 「大切にしてね。」
男 「ちょっと待ってよ。いらないよ、こんなの。」
女 「えー、そんなぁ。」
男 「大体、キーホルダーならこの間もらったヤツがあるじゃないか。
あの、またよくわからないキャラクターの。」
女 「もにゅもにゅ君?」
男 「それ。その、もにゅもにゅ君。」
女 「そっか。でも良いじゃない、二つとも付ければ。」
男 「二つも付けたら邪魔だよ。それに、きみが気に入って買ったんだから、
きみが付ければいいじゃないか。」
女 「駄目よ。だってこれ、あなたに似合うと思って買ったんだから。」
男 「これがぼくに似合うって?」
女 「そう。」
男 「・・・きみのセンスはぼくには良く分からないな。」
女 「そう?」
男 「変わり者だって言われない?」
女 「うーん・・・、あ、言われたことある。」
男 「ほらね。」
女 「前に、友達にあなたの事聞かれて、写真見せて・・・。その時、『あんたの趣味変わってるね』って。」
男モノ 彼女に悪気がないのは、表情を見ればわかった。でも、ぼくには返す言葉が見つからなかった。
女 「どうしたの?」
男 「いや、別に・・・。貸して、付けるから。」
女 「・・・いやだったら、無理しなくても良いよ。」
男 「ぼくに似合うと思って買ったんでしょ?」
女 「うん。」
男 「・・・似合う?」
女 「うん。可愛い。」
男モノ 人の好みは千差万別。彼女の好みを決めた神様のセンスに、感謝しなければならないんだろう。
-完-
⑤〈普通の選択〉
女 「あ、降ってきた・・・。」
男モノ 空を見上げると、灰色の空からぽつりぽつりと雨が降り始めていた。
男 「だから言ったろう。今日は雨が降るって。」
女 「だって、天気予報で五十パーセントだって言ってたから、降らないかもって思ったんだもん。」
男 「五十パーセントは普通、降るって考えるだろ。」
女 「そんな事無いわよ。半々なんだから、降るかもしれないし、降らないかもしれないじゃない。」
男 「だから、わからなかったら、用心して傘を持ってくるのが普通だって言ってるんだよ。」
女 「何よ、普通普通って。あなたの普通とわたしの普通は違うの。」
男 「何だよ。こっちは心配して・・・。」
女 「心配なんかしてくれなくて結構です。」
男 「あ、そう。じゃあ、勝手に濡れて帰れば。」
男モノ 勢いとはいえ、少し言いすぎたかなと思い、ちょっと行ってから彼女の方を振り返ると、
彼女は元の場所で立ちつくしたまま、空を睨んでいた。
男 「・・・風邪ひくよ。」
女 「・・・・・・。」
男 「ほら、入って。」
女 「・・・・・・。」
男 「・・・悪かったよ。ゴメン、言い過ぎた。」
女 「そうじゃないの・・・。わたし、・・・お見合いをしたの。」
男 「え?」
女 「お見合いをしたのよ。相手は証券会社の専務の息子・・・。」
男 「・・・そうなんだ。」
女 「学歴も収入も良いし、見た目だって悪くない。わたしの事も気に入ってくれたみたいで・・・。
普通に考えたら、誰だってその人を選ぶって・・・。」
男モノ 彼女はぼくに背を向けたままそう言った。
小さな出版社のしがないイラストレーターのぼくには、何も言葉が出なかった。
女 「ねえ、あなたの普通を聞かせて。」
男 「ぼくの・・・。ぼくも、その人を選ぶのが普通だと思うよ。」
女 「・・・それがあなたの答え?」
男 「そうだね・・・。」
女 「そう・・・。ありがと。決心がついたわ。」
男 「そう。・・・おめでとう、って言うべきかな。」
女 「ごめんなさい。」
男 「いや、謝らなくて良いよ。それが・・・、『普通』の選択さ。」
女 「・・・もし雨が降らなかったら。」
男 「え?」
女 「ううん。何でもない。・・・それじゃあ、行くね。」
男 「うん・・・。」
女 「さよなら。」
男 「さよなら。」
男モノ その日以来、ぼくは傘を持って出かけるのをやめた。
ぼくを捨てた彼女に対する小さな抵抗として。
-完-
女 「あ、降ってきた・・・。」
男モノ 空を見上げると、灰色の空からぽつりぽつりと雨が降り始めていた。
男 「だから言ったろう。今日は雨が降るって。」
女 「だって、天気予報で五十パーセントだって言ってたから、降らないかもって思ったんだもん。」
男 「五十パーセントは普通、降るって考えるだろ。」
女 「そんな事無いわよ。半々なんだから、降るかもしれないし、降らないかもしれないじゃない。」
男 「だから、わからなかったら、用心して傘を持ってくるのが普通だって言ってるんだよ。」
女 「何よ、普通普通って。あなたの普通とわたしの普通は違うの。」
男 「何だよ。こっちは心配して・・・。」
女 「心配なんかしてくれなくて結構です。」
男 「あ、そう。じゃあ、勝手に濡れて帰れば。」
男モノ 勢いとはいえ、少し言いすぎたかなと思い、ちょっと行ってから彼女の方を振り返ると、
彼女は元の場所で立ちつくしたまま、空を睨んでいた。
男 「・・・風邪ひくよ。」
女 「・・・・・・。」
男 「ほら、入って。」
女 「・・・・・・。」
男 「・・・悪かったよ。ゴメン、言い過ぎた。」
女 「そうじゃないの・・・。わたし、・・・お見合いをしたの。」
男 「え?」
女 「お見合いをしたのよ。相手は証券会社の専務の息子・・・。」
男 「・・・そうなんだ。」
女 「学歴も収入も良いし、見た目だって悪くない。わたしの事も気に入ってくれたみたいで・・・。
普通に考えたら、誰だってその人を選ぶって・・・。」
男モノ 彼女はぼくに背を向けたままそう言った。
小さな出版社のしがないイラストレーターのぼくには、何も言葉が出なかった。
女 「ねえ、あなたの普通を聞かせて。」
男 「ぼくの・・・。ぼくも、その人を選ぶのが普通だと思うよ。」
女 「・・・それがあなたの答え?」
男 「そうだね・・・。」
女 「そう・・・。ありがと。決心がついたわ。」
男 「そう。・・・おめでとう、って言うべきかな。」
女 「ごめんなさい。」
男 「いや、謝らなくて良いよ。それが・・・、『普通』の選択さ。」
女 「・・・もし雨が降らなかったら。」
男 「え?」
女 「ううん。何でもない。・・・それじゃあ、行くね。」
男 「うん・・・。」
女 「さよなら。」
男 「さよなら。」
男モノ その日以来、ぼくは傘を持って出かけるのをやめた。
ぼくを捨てた彼女に対する小さな抵抗として。
-完-
④〈オリーブオイルとシャンパンと〉
女 「あれー?」
男モノ 台所で、彼女が大きな声をあげた。
男 「どうしたの?」
女 「パスタを作ろうと思ったら、オリーブオイルが切れてたの。」
男 「何だ、そんな事か。サラダ油で良いじゃない。」
女 「駄目よ。ペペロンチーノはオリーブオイルが命なんだから。ねえ、買ってきてくれない?」
男 「え?今から?」
女 「だって、それがないと夕飯が作れないんだもの。」
男 「えー。今、仕事のファックスを待ってるとこなんだよ。」
男モノ ファックスを待ってる事は嘘じゃなかったが、正直ぼくは買い物に行くのが面倒だった。
女 「そう。じゃ、いい。わたしが買いに行くわ。」
男 「ゴメンね。」
女 「ううん。良いわよ、別に。・・・でも、覚えてる?わたしたちが初めて食事したときのこと。」
男 「え?」
女 「ほら、まだわたしたちがつき合う前。偶然街で会って・・・。」
男 「ああ、一緒にパスタ屋に食べに行った・・・。」
女 「あの時も、うちのオリーブオイルが切れてて買いに行って・・・。」
男 「そうそう。その話を聞いて、会社じゃほとんど会話した事無かったのに、何故かパスタの話で
盛り上がっちゃって。それで、ぼくの知ってるパスタ屋に一緒に食べに行ったんだっけ。」
女 「あの時オリーブオイルが切れてなかったら、こんな風になる事なんて無かったと思うわ。
ううん。わたしがオリーブオイルを買いに行ってなかったら、二人がつき合う事はなかった。」
男 「・・・何が言いたいの?」
女 「別に・・・。ただ、今日オリーブオイルが切れたのも運命かしらね。」
男モノ ちょうどその時、ファックスの受信音が聞こえてきた。
女 「・・・ファックス、届いたみたいね。」
男 「・・・オリーブオイルの他に買うものは?」
女 「あら、買い物に行ってくれるの?」
男 「また運命の人に会われたら困るからね。」
女 「そう。ありがと。じゃあ、シャンパンを一つお願い。」
男 「シャンパン?」
女 「うん。だって今日は、オリーブオイルが切れた記念日だから。」
男モノ ぼくは仕事のファックスを持って、近くのショッピングモールに向かった。
オリーブオイルとシャンパンと、小さな花束を買いに。
-完-
女 「あれー?」
男モノ 台所で、彼女が大きな声をあげた。
男 「どうしたの?」
女 「パスタを作ろうと思ったら、オリーブオイルが切れてたの。」
男 「何だ、そんな事か。サラダ油で良いじゃない。」
女 「駄目よ。ペペロンチーノはオリーブオイルが命なんだから。ねえ、買ってきてくれない?」
男 「え?今から?」
女 「だって、それがないと夕飯が作れないんだもの。」
男 「えー。今、仕事のファックスを待ってるとこなんだよ。」
男モノ ファックスを待ってる事は嘘じゃなかったが、正直ぼくは買い物に行くのが面倒だった。
女 「そう。じゃ、いい。わたしが買いに行くわ。」
男 「ゴメンね。」
女 「ううん。良いわよ、別に。・・・でも、覚えてる?わたしたちが初めて食事したときのこと。」
男 「え?」
女 「ほら、まだわたしたちがつき合う前。偶然街で会って・・・。」
男 「ああ、一緒にパスタ屋に食べに行った・・・。」
女 「あの時も、うちのオリーブオイルが切れてて買いに行って・・・。」
男 「そうそう。その話を聞いて、会社じゃほとんど会話した事無かったのに、何故かパスタの話で
盛り上がっちゃって。それで、ぼくの知ってるパスタ屋に一緒に食べに行ったんだっけ。」
女 「あの時オリーブオイルが切れてなかったら、こんな風になる事なんて無かったと思うわ。
ううん。わたしがオリーブオイルを買いに行ってなかったら、二人がつき合う事はなかった。」
男 「・・・何が言いたいの?」
女 「別に・・・。ただ、今日オリーブオイルが切れたのも運命かしらね。」
男モノ ちょうどその時、ファックスの受信音が聞こえてきた。
女 「・・・ファックス、届いたみたいね。」
男 「・・・オリーブオイルの他に買うものは?」
女 「あら、買い物に行ってくれるの?」
男 「また運命の人に会われたら困るからね。」
女 「そう。ありがと。じゃあ、シャンパンを一つお願い。」
男 「シャンパン?」
女 「うん。だって今日は、オリーブオイルが切れた記念日だから。」
男モノ ぼくは仕事のファックスを持って、近くのショッピングモールに向かった。
オリーブオイルとシャンパンと、小さな花束を買いに。
-完-
③〈パズル〉
男モノ 彼女はパズルが好きだった。部屋に行くと、いつも作りかけのパズルがあった。
女 「ねえ、紅茶で良い?」
男 「うん。ありがと。・・・ねえ。」
女 「んー?何?」
男 「きみ、いつもパズル作ってるよね。」
女 「あ、うん。高校の頃にはまっちゃって、それからずっと作ってるの。もう、趣味と言うより、日課かな。」
男 「へぇ、そうなんだ。」
女 「暗いかな?」
男 「いや、そんな事無いと思うよ。ただ・・・。」
女 「ただ?」
男 「うん。完成したパズルを一度も見た事がないなって思っただけ。
だから、いつも途中でやめちゃうのかなって・・・。」
女 「え?いつもちゃんと最後まで作ってるよ。
一度なんか、無くしちゃったピースを取り寄せてまで作ったんだから。」
男 「そうなんだ。でも、完成品を見た事無いな。何処かにしまってるの?」
女 「ううん。完成したのは、全部人にあげちゃってるの。」
男 「あげてる?何で取っておかないの?」
女 「だって完成しちゃったら、もうつまらないじゃない。絵を完成させるまでの過程を楽しむものだから。」
男 「そんなもんかな。」
女 「そうよ。ただの絵になってしまったら、ひびがある分だけパズルは見にくいじゃない。
飾るんだったら普通の絵を飾るわ。はい。」
男モノ そう言って彼女は、紅茶を二つテーブルに置いた。
男 「・・・ねえ、一つ聞いても良い?」
女 「何?」
男 「どうしてぼくとつき合おうと思ったの?」
女 「どうしたの?急に。」
男 「いや、何となく。」
女 「そうねぇ・・・、ミステリアスだったから、かな。
他の人と違うって言うか、何を考えてるかわからない感じが魅力的だったから。」
男 「・・・そっか。」
女 「うん。あ、ほら、紅茶、冷めちゃうよ。」
男 「うん・・・。」
男モノ その時の彼女の笑顔に、ぼくは得体の知れない恐怖を感じた。
きっと彼女にとってぼくは、額に入った絵ではなく、完成までを楽しむパズルの一つなんだろう。
-完-
男モノ 彼女はパズルが好きだった。部屋に行くと、いつも作りかけのパズルがあった。
女 「ねえ、紅茶で良い?」
男 「うん。ありがと。・・・ねえ。」
女 「んー?何?」
男 「きみ、いつもパズル作ってるよね。」
女 「あ、うん。高校の頃にはまっちゃって、それからずっと作ってるの。もう、趣味と言うより、日課かな。」
男 「へぇ、そうなんだ。」
女 「暗いかな?」
男 「いや、そんな事無いと思うよ。ただ・・・。」
女 「ただ?」
男 「うん。完成したパズルを一度も見た事がないなって思っただけ。
だから、いつも途中でやめちゃうのかなって・・・。」
女 「え?いつもちゃんと最後まで作ってるよ。
一度なんか、無くしちゃったピースを取り寄せてまで作ったんだから。」
男 「そうなんだ。でも、完成品を見た事無いな。何処かにしまってるの?」
女 「ううん。完成したのは、全部人にあげちゃってるの。」
男 「あげてる?何で取っておかないの?」
女 「だって完成しちゃったら、もうつまらないじゃない。絵を完成させるまでの過程を楽しむものだから。」
男 「そんなもんかな。」
女 「そうよ。ただの絵になってしまったら、ひびがある分だけパズルは見にくいじゃない。
飾るんだったら普通の絵を飾るわ。はい。」
男モノ そう言って彼女は、紅茶を二つテーブルに置いた。
男 「・・・ねえ、一つ聞いても良い?」
女 「何?」
男 「どうしてぼくとつき合おうと思ったの?」
女 「どうしたの?急に。」
男 「いや、何となく。」
女 「そうねぇ・・・、ミステリアスだったから、かな。
他の人と違うって言うか、何を考えてるかわからない感じが魅力的だったから。」
男 「・・・そっか。」
女 「うん。あ、ほら、紅茶、冷めちゃうよ。」
男 「うん・・・。」
男モノ その時の彼女の笑顔に、ぼくは得体の知れない恐怖を感じた。
きっと彼女にとってぼくは、額に入った絵ではなく、完成までを楽しむパズルの一つなんだろう。
-完-
②〈リンゴの色〉
女 「はい、これ。実家から送ってきたの。」
男モノ そう言って、台所でむいたリンゴをお皿いっぱい持ってきた。
男 「リンゴ?」
女 「そう。青森のおばさん家から、毎年実家にいっぱい送られてくるの。美味しいよ。」
男 「あー、ぼくは、あんまり果物食べないんだよね。」
女 「えー、美味しいのに。なんで?」
男 「果物ってさ、皮をむいたり種を取ったり、食べるの面倒じゃない?
その割に、そんなに美味しいと思わないし・・・。」
女 「そうかなぁ・・・。美味しいと思うんだけど。ビタミンだって豊富だし。」
男 「ビタミンとかはサプリメントで摂れるし、わざわざ果物を食べなくてもって思っちゃうんだよね。」
女 「でもこれは、皮をむいてあるんだし、食べるの面倒じゃないでしょ?」
男 「うーん、でも、果物を食べる習慣自体無くなっちゃったって感じかな。
せっかくむいてくれたから一つ二つは食べるけど、こんなには無理だよ。」
女 「そっか。勿体なかったね・・・。」
男モノ 彼女は本当に残念そうに言って、リンゴを一つ口に運んだ。
男 「・・・そう言えば、ぼく達けっこう食べ物の好みが違うよね。」
女 「そう?」
男 「ほら、ぼくは甘いものが好きだけど、きみは甘いもの苦手でしょ?」
女 「うん。」
男 「僕はアルコールが苦手だけど、きみはけっこう好きだし・・・。
食べ物の好みの違いって、けっこう大きい問題なんだよな。」
女 「そうかなぁ。」
男 「そうだよ。だって、長く一緒にいたら、食べ物の好みの違いって耐えられなくなるって言うじゃない?
ぼくはあれが食べたいのに、きみが食べられないから遠慮して食べないとか・・・。
そう言うのって、いつかきつくなってくるかもね。」
女 「そんな事ないよ。だって、好みが違うから、あなたが残したものをわたしが食べられるんだし、
好みが同じだったら食べるものが偏って良くないと思うよ。」
男 「そうかなぁ。」
女 「そうよ。同じだったら二人でいてもつまらないじゃない。違う二人だからこそ、
お互い新しいものに触れ合えるし、相手の足りないところを補えるとは思わない?」
男 「まあ、確かに・・・。」
女 「ね。だから、あたしたちの相性はバッチリって事よ。」
男 「何それ?」
女 「はい、リンゴ。美味しいよ。」
男モノ そう言って彼女はにっこりと笑った。この笑顔にぼくはいつも丸め込まれてしまう。
そうしていつの間にか、彼女色に染められていくのだろう。
-完-
女 「はい、これ。実家から送ってきたの。」
男モノ そう言って、台所でむいたリンゴをお皿いっぱい持ってきた。
男 「リンゴ?」
女 「そう。青森のおばさん家から、毎年実家にいっぱい送られてくるの。美味しいよ。」
男 「あー、ぼくは、あんまり果物食べないんだよね。」
女 「えー、美味しいのに。なんで?」
男 「果物ってさ、皮をむいたり種を取ったり、食べるの面倒じゃない?
その割に、そんなに美味しいと思わないし・・・。」
女 「そうかなぁ・・・。美味しいと思うんだけど。ビタミンだって豊富だし。」
男 「ビタミンとかはサプリメントで摂れるし、わざわざ果物を食べなくてもって思っちゃうんだよね。」
女 「でもこれは、皮をむいてあるんだし、食べるの面倒じゃないでしょ?」
男 「うーん、でも、果物を食べる習慣自体無くなっちゃったって感じかな。
せっかくむいてくれたから一つ二つは食べるけど、こんなには無理だよ。」
女 「そっか。勿体なかったね・・・。」
男モノ 彼女は本当に残念そうに言って、リンゴを一つ口に運んだ。
男 「・・・そう言えば、ぼく達けっこう食べ物の好みが違うよね。」
女 「そう?」
男 「ほら、ぼくは甘いものが好きだけど、きみは甘いもの苦手でしょ?」
女 「うん。」
男 「僕はアルコールが苦手だけど、きみはけっこう好きだし・・・。
食べ物の好みの違いって、けっこう大きい問題なんだよな。」
女 「そうかなぁ。」
男 「そうだよ。だって、長く一緒にいたら、食べ物の好みの違いって耐えられなくなるって言うじゃない?
ぼくはあれが食べたいのに、きみが食べられないから遠慮して食べないとか・・・。
そう言うのって、いつかきつくなってくるかもね。」
女 「そんな事ないよ。だって、好みが違うから、あなたが残したものをわたしが食べられるんだし、
好みが同じだったら食べるものが偏って良くないと思うよ。」
男 「そうかなぁ。」
女 「そうよ。同じだったら二人でいてもつまらないじゃない。違う二人だからこそ、
お互い新しいものに触れ合えるし、相手の足りないところを補えるとは思わない?」
男 「まあ、確かに・・・。」
女 「ね。だから、あたしたちの相性はバッチリって事よ。」
男 「何それ?」
女 「はい、リンゴ。美味しいよ。」
男モノ そう言って彼女はにっこりと笑った。この笑顔にぼくはいつも丸め込まれてしまう。
そうしていつの間にか、彼女色に染められていくのだろう。
-完-