パンドラのおもちゃ匣 -2ページ目

パンドラのおもちゃ匣

声劇台本などを適当に置いておく場所です。
ここにある台本は、商用以外の利用ならどこでも自由に使っていただいて結構です。
何か質問などある方は、twitterの@marion2009までどうぞ。

⑥〈神様のセンス〉



女 「ねえねえ、これ見て。」

男モノ  とても嬉しそうに目を輝かせながら彼女が持ってきたモノは、どう見ても可愛いとは言えない、
      あやしげなマスコットのついたキーホルダーだった。

女 「原宿を歩いてたら雑貨屋さんで見つけちゃったの。ねえ、可愛いでしょ。」

男 「・・・これ何?」

女 「わかんない。多分、猫か何かだと思う。」

男 「何かって・・・。わからないのに買ったの?」

女 「だって可愛かったんだもん。」

男 「どこが?」

女 「えー、可愛くない?」

男 「少なくとも、ぼくにはこれの可愛さはわからないな。」

女 「そうかなぁ。可愛いと思うんだけどなぁ。ま、いいや。はい、プレゼント。」

男 「え?」

女 「大切にしてね。」

男 「ちょっと待ってよ。いらないよ、こんなの。」

女 「えー、そんなぁ。」

男 「大体、キーホルダーならこの間もらったヤツがあるじゃないか。
   あの、またよくわからないキャラクターの。」

女 「もにゅもにゅ君?」

男 「それ。その、もにゅもにゅ君。」

女 「そっか。でも良いじゃない、二つとも付ければ。」

男 「二つも付けたら邪魔だよ。それに、きみが気に入って買ったんだから、
   きみが付ければいいじゃないか。」

女 「駄目よ。だってこれ、あなたに似合うと思って買ったんだから。」

男 「これがぼくに似合うって?」

女 「そう。」

男 「・・・きみのセンスはぼくには良く分からないな。」

女 「そう?」

男 「変わり者だって言われない?」

女 「うーん・・・、あ、言われたことある。」

男 「ほらね。」

女 「前に、友達にあなたの事聞かれて、写真見せて・・・。その時、『あんたの趣味変わってるね』って。」

男モノ  彼女に悪気がないのは、表情を見ればわかった。でも、ぼくには返す言葉が見つからなかった。

女 「どうしたの?」

男 「いや、別に・・・。貸して、付けるから。」

女 「・・・いやだったら、無理しなくても良いよ。」

男 「ぼくに似合うと思って買ったんでしょ?」

女 「うん。」

男 「・・・似合う?」

女 「うん。可愛い。」

男モノ  人の好みは千差万別。彼女の好みを決めた神様のセンスに、感謝しなければならないんだろう。


-完-


⑤〈普通の選択〉



女 「あ、降ってきた・・・。」

男モノ  空を見上げると、灰色の空からぽつりぽつりと雨が降り始めていた。

男 「だから言ったろう。今日は雨が降るって。」

女 「だって、天気予報で五十パーセントだって言ってたから、降らないかもって思ったんだもん。」

男 「五十パーセントは普通、降るって考えるだろ。」

女 「そんな事無いわよ。半々なんだから、降るかもしれないし、降らないかもしれないじゃない。」

男 「だから、わからなかったら、用心して傘を持ってくるのが普通だって言ってるんだよ。」

女 「何よ、普通普通って。あなたの普通とわたしの普通は違うの。」

男 「何だよ。こっちは心配して・・・。」

女 「心配なんかしてくれなくて結構です。」

男 「あ、そう。じゃあ、勝手に濡れて帰れば。」

男モノ  勢いとはいえ、少し言いすぎたかなと思い、ちょっと行ってから彼女の方を振り返ると、
      彼女は元の場所で立ちつくしたまま、空を睨んでいた。

男 「・・・風邪ひくよ。」

女 「・・・・・・。」

男 「ほら、入って。」

女 「・・・・・・。」

男 「・・・悪かったよ。ゴメン、言い過ぎた。」

女 「そうじゃないの・・・。わたし、・・・お見合いをしたの。」

男 「え?」

女 「お見合いをしたのよ。相手は証券会社の専務の息子・・・。」

男 「・・・そうなんだ。」

女 「学歴も収入も良いし、見た目だって悪くない。わたしの事も気に入ってくれたみたいで・・・。
   普通に考えたら、誰だってその人を選ぶって・・・。」

男モノ  彼女はぼくに背を向けたままそう言った。
      小さな出版社のしがないイラストレーターのぼくには、何も言葉が出なかった。

女 「ねえ、あなたの普通を聞かせて。」

男 「ぼくの・・・。ぼくも、その人を選ぶのが普通だと思うよ。」

女 「・・・それがあなたの答え?」

男 「そうだね・・・。」

女 「そう・・・。ありがと。決心がついたわ。」

男 「そう。・・・おめでとう、って言うべきかな。」

女 「ごめんなさい。」

男 「いや、謝らなくて良いよ。それが・・・、『普通』の選択さ。」

女 「・・・もし雨が降らなかったら。」

男 「え?」

女 「ううん。何でもない。・・・それじゃあ、行くね。」

男 「うん・・・。」

女 「さよなら。」

男 「さよなら。」

男モノ  その日以来、ぼくは傘を持って出かけるのをやめた。
      ぼくを捨てた彼女に対する小さな抵抗として。


-完-



④〈オリーブオイルとシャンパンと〉



女 「あれー?」

男モノ  台所で、彼女が大きな声をあげた。

男 「どうしたの?」

女 「パスタを作ろうと思ったら、オリーブオイルが切れてたの。」

男 「何だ、そんな事か。サラダ油で良いじゃない。」

女 「駄目よ。ペペロンチーノはオリーブオイルが命なんだから。ねえ、買ってきてくれない?」

男 「え?今から?」

女 「だって、それがないと夕飯が作れないんだもの。」

男 「えー。今、仕事のファックスを待ってるとこなんだよ。」

男モノ  ファックスを待ってる事は嘘じゃなかったが、正直ぼくは買い物に行くのが面倒だった。

女 「そう。じゃ、いい。わたしが買いに行くわ。」

男 「ゴメンね。」

女 「ううん。良いわよ、別に。・・・でも、覚えてる?わたしたちが初めて食事したときのこと。」

男 「え?」

女 「ほら、まだわたしたちがつき合う前。偶然街で会って・・・。」

男 「ああ、一緒にパスタ屋に食べに行った・・・。」

女 「あの時も、うちのオリーブオイルが切れてて買いに行って・・・。」

男 「そうそう。その話を聞いて、会社じゃほとんど会話した事無かったのに、何故かパスタの話で
   盛り上がっちゃって。それで、ぼくの知ってるパスタ屋に一緒に食べに行ったんだっけ。」

女 「あの時オリーブオイルが切れてなかったら、こんな風になる事なんて無かったと思うわ。
   ううん。わたしがオリーブオイルを買いに行ってなかったら、二人がつき合う事はなかった。」

男 「・・・何が言いたいの?」

女 「別に・・・。ただ、今日オリーブオイルが切れたのも運命かしらね。」

男モノ  ちょうどその時、ファックスの受信音が聞こえてきた。

女 「・・・ファックス、届いたみたいね。」

男 「・・・オリーブオイルの他に買うものは?」

女 「あら、買い物に行ってくれるの?」

男 「また運命の人に会われたら困るからね。」

女 「そう。ありがと。じゃあ、シャンパンを一つお願い。」

男 「シャンパン?」

女 「うん。だって今日は、オリーブオイルが切れた記念日だから。」

男モノ  ぼくは仕事のファックスを持って、近くのショッピングモールに向かった。
      オリーブオイルとシャンパンと、小さな花束を買いに。


-完-



③〈パズル〉



男モノ  彼女はパズルが好きだった。部屋に行くと、いつも作りかけのパズルがあった。

女 「ねえ、紅茶で良い?」

男 「うん。ありがと。・・・ねえ。」

女 「んー?何?」

男 「きみ、いつもパズル作ってるよね。」

女 「あ、うん。高校の頃にはまっちゃって、それからずっと作ってるの。もう、趣味と言うより、日課かな。」

男 「へぇ、そうなんだ。」

女 「暗いかな?」

男 「いや、そんな事無いと思うよ。ただ・・・。」

女 「ただ?」

男 「うん。完成したパズルを一度も見た事がないなって思っただけ。
   だから、いつも途中でやめちゃうのかなって・・・。」

女 「え?いつもちゃんと最後まで作ってるよ。
   一度なんか、無くしちゃったピースを取り寄せてまで作ったんだから。」

男 「そうなんだ。でも、完成品を見た事無いな。何処かにしまってるの?」

女 「ううん。完成したのは、全部人にあげちゃってるの。」

男 「あげてる?何で取っておかないの?」

女 「だって完成しちゃったら、もうつまらないじゃない。絵を完成させるまでの過程を楽しむものだから。」

男 「そんなもんかな。」

女 「そうよ。ただの絵になってしまったら、ひびがある分だけパズルは見にくいじゃない。
   飾るんだったら普通の絵を飾るわ。はい。」

男モノ  そう言って彼女は、紅茶を二つテーブルに置いた。

男 「・・・ねえ、一つ聞いても良い?」

女 「何?」

男 「どうしてぼくとつき合おうと思ったの?」

女 「どうしたの?急に。」

男 「いや、何となく。」

女 「そうねぇ・・・、ミステリアスだったから、かな。
   他の人と違うって言うか、何を考えてるかわからない感じが魅力的だったから。」

男 「・・・そっか。」

女 「うん。あ、ほら、紅茶、冷めちゃうよ。」

男 「うん・・・。」

男モノ  その時の彼女の笑顔に、ぼくは得体の知れない恐怖を感じた。
      きっと彼女にとってぼくは、額に入った絵ではなく、完成までを楽しむパズルの一つなんだろう。


-完-



②〈リンゴの色〉




女 「はい、これ。実家から送ってきたの。」

男モノ  そう言って、台所でむいたリンゴをお皿いっぱい持ってきた。

男 「リンゴ?」

女 「そう。青森のおばさん家から、毎年実家にいっぱい送られてくるの。美味しいよ。」

男 「あー、ぼくは、あんまり果物食べないんだよね。」

女 「えー、美味しいのに。なんで?」

男 「果物ってさ、皮をむいたり種を取ったり、食べるの面倒じゃない?
   その割に、そんなに美味しいと思わないし・・・。」

女 「そうかなぁ・・・。美味しいと思うんだけど。ビタミンだって豊富だし。」

男 「ビタミンとかはサプリメントで摂れるし、わざわざ果物を食べなくてもって思っちゃうんだよね。」

女 「でもこれは、皮をむいてあるんだし、食べるの面倒じゃないでしょ?」

男 「うーん、でも、果物を食べる習慣自体無くなっちゃったって感じかな。
   せっかくむいてくれたから一つ二つは食べるけど、こんなには無理だよ。」

女 「そっか。勿体なかったね・・・。」

男モノ  彼女は本当に残念そうに言って、リンゴを一つ口に運んだ。

男 「・・・そう言えば、ぼく達けっこう食べ物の好みが違うよね。」

女 「そう?」

男 「ほら、ぼくは甘いものが好きだけど、きみは甘いもの苦手でしょ?」

女 「うん。」

男 「僕はアルコールが苦手だけど、きみはけっこう好きだし・・・。
   食べ物の好みの違いって、けっこう大きい問題なんだよな。」

女 「そうかなぁ。」

男 「そうだよ。だって、長く一緒にいたら、食べ物の好みの違いって耐えられなくなるって言うじゃない?
   ぼくはあれが食べたいのに、きみが食べられないから遠慮して食べないとか・・・。
   そう言うのって、いつかきつくなってくるかもね。」

女 「そんな事ないよ。だって、好みが違うから、あなたが残したものをわたしが食べられるんだし、
   好みが同じだったら食べるものが偏って良くないと思うよ。」

男 「そうかなぁ。」

女 「そうよ。同じだったら二人でいてもつまらないじゃない。違う二人だからこそ、
   お互い新しいものに触れ合えるし、相手の足りないところを補えるとは思わない?」

男 「まあ、確かに・・・。」

女 「ね。だから、あたしたちの相性はバッチリって事よ。」

男 「何それ?」

女 「はい、リンゴ。美味しいよ。」

男モノ  そう言って彼女はにっこりと笑った。この笑顔にぼくはいつも丸め込まれてしまう。
      そうしていつの間にか、彼女色に染められていくのだろう。


-完-