石垣に咲くコスモス
土曜日の夕方。
箱詰めした葡萄の蓋をみんなで
協力して貼り終える。
地味な作業だが、ここまで済ま
さないと、明日は明日で相当
忙しくなるのが目に見えている。
Yくんは2kg箱を18個と自分の
食べ量をしっかり車に積み込み、
「次は柚子採りかな?」と言って
帰って行った。
Mくんは母に頼まれて、お世話
になっている近所のSさんや、
少し遠くのIさんに葡萄を届け
に行って来た。
2人とも大層喜ばれ、Sさんは
摘んだばかりの紫蘇の穂をどっ
さり持たせてくださり、早速
今夜の天麩羅の材料になりそ
うだ。
母もMくんも美味しい天麩羅を
食べる機会が少ないと思い、
新しい油で南瓜、茄子、舞茸、
竹輪、紫蘇の穂等をどっさり
揚げた。
実はYくんは、子どもの頃
さつまいもの天麩羅を食べ過ぎ
てお腹を壊し、天麩羅は苦手
なのだ。
2人とも気持ちよく平らげて
くれて、特に紫蘇の穂の風味
が良いのに感動している。
「何事もなく収穫が終わって、
本当によかったね」
今日の一致した気持ちである。
それでも、休みなく働いたから
流石に疲れはピークに達して
いる。
早めに就寝することにしよう。
………
何だろう?
昨夜も殆ど眠れなかったのに、
今夜は輪を掛けて目が冴えて
いる。
眠れないのは、疲れた身には
本当に辛い。
隣の部屋から、規則正しい母の
寝息が聞こえる。
Mくんも昨夜は午前1時過ぎて
就寝したと言っていたけど、
ちゃんと眠れているのかな?
サーーー
あれ?
雨の音かな?
ザーーーー
少し激しくなってきたようだ。
ゾーーーーー
ドシャー➖️➖️➖️➖️➖️➖️
こんな物凄い雨音は生まれて
から聞いた事がない
「何?何?どうなっている?」
ぐっすり眠っていたはずの
Mくんが起きて来た。
まるで大きな樽に汲んだ水を
片時も休みなく注ぎ掛けて
いるようだ。
あまりの音の大きさにMくんは
掃き出し窓も開けられない。
2人の頭をよぎったのは、7月
の豪雨で崩落した引き込み線の
道が根こそぎ落ちてしまわない
か?
Mくんがシートや砂、セメントを
買って来て水の出口のパイプまで
取り付けて補修しているが、これ
はあくまで応急処置だ。
先日の大雨でも土嚢を落とし、
引っ張り上げて据え替えた
ばかり。
本格的な復旧工事は早くて来月、
それまでに想像を絶する雨が
降れば更に大きく崩落し、
私達は車で帰宅出来なくなる。
暗澹とした気持ちで、天気の
雨雲レーダーを見つめている
ばかりだ。
だが、ふと気がつくと雨音が
ほんの少し緩んだようだ。
「せめて1台だけでも車を交わし
て来るよ」
Mくんが素早く出て行き、
夜の闇にライトが煌々とつく。
危なくない林道まで走らせて、
懐中電灯を灯して帰って来た。
午前3時、雨雲は去ったようだ。
「少しだけでも寝なくてはね」
うとうとしたと思ったら、日曜
日の朝になっていた。
続きます。