梔子<クチナシ>

language of flower・・・I’m too happy(私はとても幸せです)






挑むような目の小僧だった
あの人が好きで俺を追い落そうとしていている輩の目ではない
何と例えたら良いのか

ーあ、主君を守る武士の目ー

『俺より強そうだ』
「ねぇ、いいでしょう」

屋敷に男を置くなど
いつも俺なら聞く耳持たないだろう
しかし、俺は其奴を屋敷に住まわせた

『犬ならピと喧嘩になるが・・・』
「犬・・・犬じゃ」

貴女はなぜか慌てて俺の目をその白い手で塞いだ
その温もりがまだ俺の瞼に残像の如くある
よく働く
貴女が庭に作った畑に薬草を取りに行こうとすれば
籠を持って付いて行き
くたびれるだろう風呂の水汲みも
ちょこまかと動きあっと言う間に終えていた
俺は、いつの間にかハヤンと言う少年に
信頼を寄せ始めていた

『ハヤン、欲しいものはあるか?』

禄をねだる訳でもない
俺は甘いものでも買ってやろうと聞いただけだった

「何もありません」
『遠慮をしなくてよい』
「名を付けて頂いた、それだけで私は幸せです」

おかしな事を言う奴だった



私はね、白い子犬を拾った
毛がふわふわと柔らかくて頬擦りしたら気持ちが良い
その温もりは、冷えた体をぽかぽかと暖かくしてくれた

「ハヤン、あの人もきっと可愛いって言ってくれるわ」

眉の辺りの毛がピクピクと動く
ちゃんと聞いているのね
あれほど寝れなかったのに、すんなりと眠りに落ちた
動物って癒し効果があるのね
朝日が寝屋に差し込んでから、やっとその眩しさに目が覚めた

頬にハヤンの毛が当たっている
昨日のふわふわとした感触じゃない
こうツルってした、表現しにくいわ
そうサラサラした感じかしら
目を開けたら短い白い髪が目の前にある
たった一晩でふわふわの毛が
サラッサラ〜の髪の少年に変身していたのよ

「ハヤン」
「はい」

恐る恐る声をかけたわ
ちゃんと言葉を返してきた
昨日のが夢で、今が現実だって思うことにしたわ
だってそうでしょう
言葉を喋る犬なんていないじゃないの
でも、これはこれで困るのよ
帰って来たあの人にどうやってこの子を置いても良いって言える?
どんなに小さくても男だったらダメって言うに決まっている

「あの頑固者は落とせないわ」

愛妻家な将軍なんて聞いた事もないわ

「大丈夫です、きっと気に入ってもらえます」

貴女の憂いを取り除く其れが俺の宿命です
偶然などないのが、この世の定め
出会いは全て必然



『ハヤン』

あの方のいない屋敷の縁側で座っていた少年に俺は声をかけた
ぶらつかせていた足をぴたり止め

「はい」

淀みのない声で返事をする
俺とあの方にだけ見えていた少年であった