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井戸の水を桶に張り、俺の肩に手を置いた医仙の足を洗った。
肩に乗せられた手がこわばり硬くなって行くのがわかったが、俺は黙っていた。
『さ・・・おやすみなされませ。医仙』
俺がそう言うと小さな声で、
「ヨン・・・あの花を取って来てくれない?」
俺の上衣を脱いで渡されながらそう言った。
『わかりました。ちゃんと寝ていてください』
倒れこみ少々痛んだ白い花を除け、大きく花ひらいた夜会草を摘み取って医仙の屋敷に届けた。

静まりかえった屋敷の中は、物音一つしなかった。
ただ閨の方からジリジリという蝋燭の芯が燃える音だけが響いている。
このような静けさのなか毎夜お一人で過ごしておるのかと思うと、この方が気の毒になった。
もっと来て差し上げたいが、夜更けに男が女の家に通うなど、何もなくともこの方に迷惑をかけるばかりだ。
それにつけても真夜中に夜着を裏返して夜会草に願をかけてまで叶えたい願いとは何であろうか。
ふと手に握った、儚げな白い夜顔を眺め足が止まった。
やせ細り、裸足で『あなたに逢いたいのです』などと言ってもらえる自信など俺にはない。
もし、医仙が好意を寄せる相手がおり、その者との逢瀬を頼まれたら俺はどうするであろうか?
また、この花をお渡しして、もし医仙の願いが叶ってしまったら俺は堪えれるのだろうか?
俺は足が前に出なくなった、この花をあの方に渡したくなくなったのだ。
「ヨン、どうしたの?」
かすれる声が俺を呼んだ。
花を今直ぐに踏みつけて『全て萎れていました』とでも言って毎夜毎夜、夜顔を俺はひたすら摘んで捨てようか・・・浅ましい奴だ。
「入ってきて、お願い」
いつもと違う医仙の声は、俺を引きこむように誘(いざな)った。
『此処に置きます』
俺は、閨の前に夜顔をそっと置いた。
閨の奥から啜り泣く医仙の声がした。
俺は、堪らず置いた花を掴んで扉を開けた。
そこには寝台に伏してなく女の姿の医仙がいた。
細い肩を引き寄せて胸のなかへと抱き込むと、夜露に濡れた衣がしっとりと冷たくこの方の身体を冷んやりと凍えさせていた。
『花を持ってきました。着替えて、早う寝てくだされ』
俺はやっとの事で声をだした。
引き離した身体を見ると薄い夜着の上からでもふっくらとしたやわらかな乳房の先の形が浮きあがっていた。
俺は目をそらせて肩を掴み己の身体から遠く離そうとすると
「その花を摘んで来て欲しいと言ったのじゃないわ」
と言い下を向いて極小さな声で
「察しってもくれないのね。あなたって・・・」
俺は、己の都合のよいように聞こえいるのかと不安になった。
ゴクッと唾を呑み込む音が耳にジリっと響く。
『医仙それは・・・俺に抱いてくれと言っているのですか?』
どうか違うと言ってくれ。
ただ寒いから抱きしめて欲しいだけだと・・・。
俺の期待は、烈しく壊れた。
この方が潤んだ瞳で『コクリ』と頷き、夜着の腰紐をシュッと引きそれを俺に渡したのだ。
『一夜だけなどと戯言を言うのですか?』
柳眉を寄せて大きく首を振り、開かれた唇が綴ったのは
「あなたに摘んで欲しいのは、私です。」
白い手が俺の両頬を包み込み僅かに傾けると赤い唇が重なった。
俺はこの方を試すような言葉を言ってしまった。
離れた唇をもう一度俺が両頬を掴んで喰いつくように合わせた。
腰紐の無い夜着の合わせは、はらりと広がり先ほど垣間見た白くふんわりとした乳房があがる息の下、ゆるゆるとゆれて俺を惹き寄せた。