追いこむ

「無いわ・・・どこに置いたのかしら?」
時より赤い髪を掻き毟るとため息をはく。
「きのう、ここで書いて・・・テーブルに置いて・・・乾いたから他の文と一緒にして・・・あ~っ、もうわかんないわ」
トクマンの言う『逆ギレ』と言うものだろうか。
トクマンに警護を頼むと、医仙から色々な天界語を教えられるのか不思議な言葉を言う。
確かこの間は、『でりかしーの無い男』意味は何であったかな。
そう、「無神経な男」俺のことらしい。
呆れて声も出なかった。
この方は、俺の事をそのように思っているらしい。
『何をお探しですか?医仙』
俺が声をかけると、不機嫌そうにふりかえり
「いま声をかけないで、あとちょっとで思い出しそうなのよ」
卓に俯して頭を抱えた。
一緒に探してやりたいが、物を聞かねば探せぬ。
『お手伝い致しましょう』
すると急に立ちあがって俺の周りを一周した。
そして、クンクンと仔犬のように匂いを嗅ぐ。
俺は、変な匂いを漂わしているのか?
先ほど兵営で汗を流したところだ。
まさか、昨夜刺客を一突きした血飛沫か匂うのか・・・。
「あなた、怪しいわ。チェ・ヨン」

そう言うと私の袖の中へと白い手を差し入れる。
『医仙、そのような事をおなごがするなど・・・』
俺が口を開いた瞬間に上をむいてキッと睨んだ。
「疑惑を晴らしたいのなら、抵抗をしてはいけないわ。チェさん」
袖の中に無いとわかると上衣の合わせ目から手を差し入れる。
ゴソゴソと俺の胸をさわるとフンと鼻息もあらくジッと腰紐を見た。
まさか、あなたは俺を身ぐるみ剥がそうと思っておるのではないな?
俺が腰紐の結び目を握るとニヤリと笑った。
「やっぱり、そこに隠しているのね。ウンスさんの目は誤魔化せないわよ」
医仙は、俺の脇の下に手を入れると
「コチョコチョコチョ・・・」
と言いつつ擽りだす、こそばく無いのだ。
しかし言葉と歯痒い刺激と医仙の香りに手が腰紐から離れてしまった。
「観念しなさい。テジャン、チェ・ヨン」
シュルっと言う音を立てて腰紐を抜き取った。
俺の腰紐を戦利品のように卓の上に置き、こちらを振り返る。
両手の細い指を細かく動かしながら俺を壁際へと追いこんだ。
女に身ぐるみ剥がされそうになり、追い込まれるなど初めてだった。
『医仙、やめて・・・やめてくだされ』
情けなくも合わせを硬く手で押さえて懇願した。
「じゃ~自分で脱いで、何も持っていないのなら脱げるわよね」

はぁ・・・俺は、脱いだ。

一枚一枚、医仙に渡しながら・・・最後の一枚になるまで。
「ねぇ・・・その中に隠してるなんて無いわよね」
訝しむように下穿きを見る。
『お願いだ・・・もう許してくれ』
そう言った時に医仙は、俺の下穿きの紐に手をかけた。
カタンと音がするとチャン侍医が扉を開けて入ってくる
「医仙さま、これをお忘れでないですか?」
ゆっくりと我らを見ると、ガタンと音が響き扉に片手をつき膝をまげ、手にもつ紙がハラリと落ちた。
「お二人は・・・そのような間柄だったのですね」
額から流れる冷や汗をそのままに後ずさりながら慌てて出ていった。
チャン侍医には悪いが、誤解をして頂こう。

「どうしたのよ、チャン先生ったら。ねっ?」

俺を見上げる顔は、呆れるほどに可愛い。
『医仙・・・お探しの物とは、あれではないですか?』
俺がチャン侍医の落とした紙を指さすと下穿きの紐からやっと手を離した。
「えっ・・・。あっ・・・これ、これよ。良かった誰かに見られると恥ずかしいじゃない」
大切そうに胸に抱えた。
俺は、後ろを向きながら緩んだ下穿きの紐を結びなおす。
『何ですか?それは』
医仙に落とされた衣を掴んで一纏めにして聞いた。
「あっ・・・恋文よ」
言われてから気がつかれたのか医仙は「あっ」という顔をされた。
俺の手の掴んだばかりの衣が、バサッと足元へと落ちる。
その音で医仙は、振りかえり俺を見て誤魔化すように言う。
「あら~ちょうどいいわ。あなたの健康診断をしましょう」
『そうだな、イムジャ。そは、誰に書いた恋文だ』
今度は、俺が医仙を壁に追いこんだ。

『誰に書いたのだ、イムジャ』

さっきまでの情けない顔はどこへいったのか、チェ・ヨンは怖い顔だった。
裸で私を壁に押さえつけて、息がかかるほどに顔を近づける。
「なんで、あなたに言わないといけないの、チェさん」
厚い唇があと僅かで触れてしまいそうだった。
押し付けられた広い胸は、熱く燃えるようで火傷してしまいそうだった。
『俺に、言えぬ方ですか』
顔を背けた瞬間、私の首筋へとその唇がふれた。
「あ・・・」
思わず漏れた声に
『俺にでさえも、そのような声が出せるのか?』
熱い息が耳に吹きかかり、あの人の舌打ちとも溜息とも言えない音が聞こえた。
『はぁ・・・俺は飢え死にしそうだ』
私から身体を離して足元に落ちた衣を一纏めに握りしめて出て行こうとする。
「なんで飢え死にしそうなの?待って・・・お願い」
あの人の足は止まる事はない。
仕方がないわ、こんな告白は今までした事ないのよ。
「あなたに、あなたに書いたのよ」
今度は、私が情けない声で言うばんだった。
急に止まると振りかえり驚く顔で
『本当ですか?偽りなどありませぬな』
とあの人は聞いた。

私はコクコクと頷き、手に握るあの人の衣を受け取った。

「漢文の練習よ・・・大した中身などではないわ」
そう言ったのに、身支度を調えたあの人は大切そうに懐へとなおした。

あなたの熱さに渇いたのは、私の方だった。