私が3歳か4歳の頃、じいちゃんと一緒に観た映画がある。

イギリスで育っているので、若干、日本人と感覚が違うと思うが、

『マルセリーノの歌』という映画である。

全部内容を覚えてはいない。

タダ、哀しいお話だった。

主人公は、孤児で聖フランシスコの修道院の下働きをしている少年マルセリーノ。

ある日、修道僧達に絶対入ってはいけないと言われた部屋に入ってしまう。

そこには、両手両足に大きな穴が空き血を流している男が横たわっていた。

マルセリーノは、その男の傷を撫で、『僕が食物を運んであげる』といい、毎日、自分のパンとぶどう酒を男に運んだ。

男は、ある日マルセリーノに

『お前は、本当に優しい子だ。私と共に私の国に行くかい?』と言う。

マルセリーノは喜びその男と共に天国に登った。

修道僧がその部屋に入ると幸せそうに微笑みマルセリーノは亡くなっていたと言う話である。


子ども心に、すぐその男はキリストと分かったが、どうも腑に落ちなかった。何故なら、神に愛された結果がコレ?

悲しすぎるやろ!

マルセリーノは、『ニューシネマ・パラダイス』のトトに似てる。


ブラザーサン・シスタームーン

【第20話】

鷹埜ミヤビ(イ・ジアさん)は、何故かモヤモヤする気持ちを研究に没頭することで何とか自分を保っていた。

例の装置の完成は、着々と進んでいた。

装置の発明者であるミヤビがいる日本が、韓国始め欧米各国よりいち早くこの装置を完成させる事は予想に固くない。


石丸(北村一輝さん)は、やはり余り顔を出さない。

ケン・ソゴル(ソン・スンホン様)が側で警護にあたっている。

しかし、ケンは、日本が装置が完成間近であることを何故か国情には報告していない。

理由は、分からないが。

ケンは、あのフランス大使館のパーティーから明らかに、心此処にあらずと言った感じであった。

ミヤビは、孤独に慣れているはずだと思っていたのに。

『ケン?ケンったら!』

『あっ、ごめん。何?』

『何って。どうしちゃったのよ。みんな。他に、何か大変な事件でも起きているの?石丸さんもちっとも顔を見せないし。』

『えっ、ミヤビ寂しいの?いや、彼は、方崎(渡部篤郎さん)から、呼び出し喰らったんだよ。ヘマしたんじゃないのか?(笑)』



『えっ!』

『いや、冗談だよ。仕事だよ。仕事。』


ミヤビは、何かある、そう感じるものの聞くのも嫌だった。いや、怖かった。


光(深津絵里さん)は、珍しく仕事を休んだ。

海風にあたり風邪でもひいたのか大変な高熱を出した。

光は、熱にうなされながら夢を見た。


美しい草原に、ポツリと修道院が建っていた。その辺りには、白い野ばらが咲き誇っていた。

スラリと背の高い美しい男性が立っている。彼は、どうやら修道僧のようだった。

そっと、光の手を取る。

『あ、あなたは誰?』

『何を言ってるんだ。クララ。私だ。フランシスコだよ。』

『クララ?』クララとは誰だ。

優しく見つめる美しいその瞳は、何処かで出会ったことがあるような懐かしさがあった。

静けさの中、暫くふたりで空を見つめていた。

いつのまにか日は暮れ、美しい青い月が登っていた。

そのフランシスコという修道僧は光の肩を抱き、耳元で囁くように

『The bluemoon is so beautiful.』と言った。


しかし、その瞬間、彼は胸をおさえ激しく苦しみ始めた。そして、倒れた。

光は、彼に駆け寄り抱き起こす。


『大丈夫ですか?早くお医者様を!』

苦しい息の中、その修道僧は

『神よ、貴方は残酷だ。』とツブヤキ

『いいんだ。やはり、君は選ばれた女性なんだな。誰かひとりのモノになることは許されない。クララ、さあ、お別れだ。』

と言い残し、息を引き取った。


光は、叫ぶように泣きながら悲鳴を挙げていた。


そこで夢が覚めた。

汗でぐっしょりと濡れたパジャマを着替える。

光の熱は下がっていた。


方崎から日本列島が、列島配置だけタイムリープしたことを聞いた草野は、急いでミヤビではなく光の所に戻った。

帝都大学事務局の同僚は、

『あれ?草野さん。速水さん、今日は、体調崩してお休みですよ。知らなかったの?』

『えっ、あっ、仕事でちょっと連絡してなかったから。そうですか。光さん、大丈夫かな…心配だな。』

『家に行けば。』

『家?いやあの…』

草野は、光が何処に住んでいるのか知らない。



翌日、光は出勤した。

『草野さん、来てたわよ(笑)』

『えっ、はい?』

光は、困ったように首を振る。

『あの方は、警察庁の方なので。』

『ハイハイ(笑)あっ、噂をすれば。ほら来た!』


草野が慌ててやって来た。

『光さん、大丈夫ですか?どこが悪かったんです。あっ、ちょっといいですか?』

光の返事も待たず、腕を掴み外に出た。

『光さん、この間、嫌な思いをさせたなら謝ります。二度とあんな事はさせない。誓います。だから…』

光は、草野の慌てぶりに思わず吹き出した。

そして、優しく語りかける。

『謝らないで。もういいんです。』

光は、珍しく自分からいつものベンチに座り大学構内の自販機を指差し

『草野さん、コーヒーごちそうしてください(笑)』と言った。

草野は、それがとても嬉しかった。


草野は、コーヒーを買って光に渡した。

『光さん、ミルクたっぷり。砂糖無し(笑)』


『おい、石丸!何やってる!』

そこには、ケン・ソゴルが立っていた。

『石丸?』

光の視界に、ケン・ソゴルが入った。

『ケン・ソゴル…』





光は、クラクラする頭の中でフラッシュバックのようにいくつもの映像が重なりあった。


それが一つになった時、コーヒーの紙コップが地面に落ちた。


『The bluemoon is so beautiful.』