『体調管理も仕事のうち』とよくいわれるが、新型コロナがまた流行している昨今、熱を出す事もあるだろう。


疲労が重なればそういう事もある。

明日は、我が身。突然、仕事を休んでも責める気にはなれない。

お互い様である。

だって人間だもの。


美しき勇者【スピンオフ2】

狼狽えたケン・ソゴル(ソン・スンホン様)に近寄り微笑む鷹埜ミヤビ(イ・ジアさん)。

『どうしてここに?』

ケンは、眼を合わさずに、絞り出すようにミヤビに訊いた。

『レイさんから、手紙を戴いたの。全部知ってる。私の記憶も全て、戻ったの。だから・・・。』


遮るように、ケンはミヤビに向かって冷たく言い放つ。

『帰れ!俺の側に居ちゃあいけない。帰るんだ!早く!』

ケンは、何かあったとしても、もう自分には、ミヤビを護るチカラはないと思っていた。

『何故?嫌よ。もう離れるのは。貴方は、私をずっと側で時空を超えて護ってくれていた。貴方の人生をかけて。私は、そんな大事なことを何も気付かずにいて。今度は私の番よ。私が、貴方を護る。』

ケンは、呆れたようにフッと笑った。

『君が俺を?』

ミヤビの瞳は、涙でいっぱいだった。自分のせいでケンの命に危険が迫っている。自分のせいで、ケンの全てを犠牲にしてしまった。

ケンにミヤビの深い悲しみが伝わってきた。

『済まない。怒鳴って悪かった。』

ケンは、呟いた。

ミヤビは、涙の拭いながら気を取り直し

『さあ、これから先は、貴方の身の回りの事は、私と晄がするからね。晄〜、パパに挨拶して!』

ケンは、自分によく似た美しい20歳の娘を観た。

晄は、明るく、しかし少し照れながら

『パパ、宜しくね!』と言ってケンの住む家に走って行ってしまった。

『あの子、気を利かしたのね。』

ケンとミヤビは、暫く懐かしいこの地をふたりで歩いた。

『傷は?痛むの?』

『イヤ、今は落ち着いてるよ。大丈夫だ。』

美しい夕焼けがふたりを包む。

ミヤビは、昔ふたりでよく登った大木の側にやってきた。そして、ミヤビは、そっと手を出した。ケンは、その手を優しく取る。



美しいロンドン郊外(Alice in wonderlandでもお馴染みのギルフォードのイメージ)の中を、ふたり、手を繋いだまま、時々、互いの顔を見つめては、家路に着いた。


そこには、ケンと共に過ごしていたはずのパク・レイ(クリスタル〈f(x)〉)の姿は既に無かった。


翌日から、ミヤビと晄は、ケンと暮らし始めた。


ケンは、普段は安静にしている。天気が良ければ少しは外出する。

3人で近所のマルシェに行くこともあった。

紅茶ポットにかけるカバーの色で、ケンと晄が親子喧嘩をしている。

『ピンクだけは勘弁してくれ!』

『いいじゃん!ピンク!』

他人から、私達の事はどうみえてるのかしら?

自分は、あの事故の日に戻り普通の人間として年齢を重ねた。

ケンは、普通なら、私より10歳年下の筈だ。

夫婦に見えてる?そんな事を考えたりもする。

でも、ミヤビは、心から幸せを感じていた。

この優しい時間が永遠ではないことは、分かってる。

ケン、貴方と過ごせなかった時間を、少しでも沢山取り戻したい。

そう思っていた。





『あっ、ママ!ママの好きなデイジーだよ。私もデイジー大好き!』

ミヤビは、我に帰り

『ホント、キレイね。』

大好きなデイジーの白い花びらを見つめた。

ケンも、ミヤビと晄を見つめて優しく笑う。


ミヤビがロンドン郊外に暮らし始め3ヶ月が経とうとしていた。

ケンの顔から、険しさが消えた。


ある日、晄は、

『ママ、私、今日ちょっと、メイフェアの図書館に行ってくる。

もうすぐ、オックスフォードの編入試験があるから。』といい出かけた。


ミヤビが、マルシェから帰ると、玄関にデイジーの花束を持ったケンが立っていた。

そして、ミヤビに無愛想にだまって花束を差し出した。

『ありがとう(笑)』

ミヤビが静かに答えると美しい彼の瞳に優しい微笑みが浮かぶ。

照れながら、ミヤビの手を取るとテーブルには、ケンの手料理が並べられていた。

『俺は、産まれてから、こんなに幸せだった事は無かったよ・・・。家族なんて、居ないようなモノだったから。ありがとう、ミヤビ、愛してる。』

ケンは、ミヤビを強く抱きしめた。

『何よ、改まって。でも、まぁ、私もとても愛してる、ケン。』

ミヤビの眼から涙が溢れた。

食事が終わり、ケンが

『少し眠るよ。流石に疲れた(笑)慣れない事はするもんじゃあないな(笑)』

『後片付けはしとくから、ゆっくり休んでね(笑)』


ケンは、窓際のソファに横になった。


日が暮れ、晄が帰ってきた。

『ママ、どうだった?今日のデートは(笑)』

『もう、パパに無理させちゃダメでしょ。あっ、そろそろ起こさなきゃ。』

ミヤビは、ケンが眠るソファにそっと近寄り、起こそうとした。

『はっ!』

ケンは、既に息をしていなかった。

ミヤビは、その場に崩れた。

いつか来るはずだったのこの日。

ミヤビは、思い出した。

幸せを感じたその瞬間、不幸の底に突き落とされる自分の呪われた運命を。


カーテンが、風に揺れていた。

ケンの眠る顔には、長いまつ毛の美しい微笑みが浮かんでいた。



続く。

音楽は、手嶌葵さんの『Winter light』でお願いします。


えっ、本編はどないなってんねんと思っている皆さん、すんません(笑)