地上波の新ドラマは、全く観てないなぁ。

そして、Netflixの『配達人』、ソン・スンホン様の悪役ぶり、超カッコイイ〜!


フラッシュ・バックサイレント【第十話】

昨夜の事は、忘れようとミヤビ(イ・ジアさん)は思っていた。

石丸(北村一輝さん)は、いつでもミヤビの側にいる。

部屋で、勉強に疲れ眠ってしまっても、きちんとベッドに運んでくれる。

目覚めると、近くのソファで、石丸が眠っている。

ミヤビは、いつも寝顔を見つめる。

どんなに変装したところでその美しい面差しは隠しようがない。

石丸は、ミヤビの話を聴く時、ミヤビ自身恥ずかしくなる位、じっと目を観て真剣に聴いてくれる。

人柄の温かさが伝わってくる。

気が付けば、ミヤビはいつも石丸の姿を探していた。

別に、石丸は、ミヤビに対して特別な感情を抱いている訳では無い、任務だから側にいるだけだとミヤビは自分自身に言い聞かせた。

だけど、記憶があやふやで、孤独なミヤビにとっては、石丸は唯一頼れる人になっていた。

昨夜、突然襲った頭痛にふらついたミヤビを石丸が抱きとめた。

最近、この頭痛は、頻度が多くなってきている。

『少しの間でいいから、このまま。痛みが無くなるまでこのままでいて。』

珍しく甘えるミヤビに石丸は、戸惑う。

石丸は、優しくミヤビを抱きしめた。

石丸は、アノ事故を思い出していた。愛した恋人を失い絶望にくれた日々。20年前の惨劇を。

そして、ミヤビのとてつもない寂しさや哀しみが、ミヤビの特殊能力で、石丸の身体に入り込む。

石丸は、ミヤビの喜怒哀楽の全てを半年の間、側で見てきた。それと同時に、ミヤビへの愛しさが激しく募った。

『もう、2度と何も失いたく無い』

気が付くとミヤビと唇を重ねていた。

石丸は、自分を抑える事が出来なかったのだ。




翌日、ミヤビ(イ・ジアさん)は、午後の講義を終えて、研究室に戻ろうとしていた。

講義中、いつも講義室の一番後ろに座っている石丸の姿は、今日は無かった。

『仕方ない。先に戻ってようかな』


それは、石丸が、仲縞(山田裕貴さん)から国情の報告を受けている一瞬の出来事だった。

構内を歩いていたミヤビの身さばきより遥かに早く後ろから誰かに口を塞がれた。

薬を嗅がされたのだろうか?意識はあるが身動きが取れなかった。


その瞬間、誰かが背後にいる誰かの腕をねじ上げた。

ミヤビを襲った男は、軽々と身を翻し逃走した。


ミヤビは、自分の目の前に立つ男の顔を見て気を失った。

その男は、ミヤビを抱き上げ肩にかけて研究室まで運んだ。


石丸は、話が終わった後に急いでミヤビの姿を追った。

講義の後のミヤビの姿が見えない。

『しまった!』

石丸は、慌ててミヤビの研究室に入った。

そこには、見知らぬ男がミヤビの側に佇んでいた。

『誰だ、お前!』

『フン、日本の公安もお粗末だな。まともに警護も出来ないのか?』

その男は、氷のような冷たい表情で石丸を凝視する。





スラリとした鋭い眼差しの東洋人の男だが、日本人ではないことは、石丸にもすぐに分かった。
『お前は、まさか!』
ミヤビの意識が戻り目を覚ました。
『はじめまして』その長いまつ毛の東洋人の男は、ニヤリと笑い
『ケン・ソゴル(ソン・スンホン様)と言います。宜しく。』
ミヤビを優しく見つめ挨拶をした。
『貴方は・・・?』
ミヤビの頭の中に、突然、懐かしい風景がフラッシュバックした。
遥かに遠い子どもの頃の風景が浮かぶ。

激しい頭痛がミヤビを襲った。
『ミヤビさん?』駆け寄る石丸の前に、ケンが立ちはだかる。
『触るな!』
ケンは、石丸に怒りの形相で言い放つ。ケンから石丸に対して明らかな敵意があった。
『もし、俺の到着がもう少し遅かったら、彼女はさらわれていたんだぞ。あの男は、プロだ。お前ら生ぬるい日本人に彼女を守る事など出来ない。勘違いするな!』
まるで、昨夜のミヤビとのやり取りを見ていたかのようである。

『国情・・・』
石丸は、迂闊だったと思った。
自分自身、少し緊張感がゆるんでいた。
そして、本当にいよいよ事が動き始めていると感じた。

暗闇に鏑木(古川雄大さん)がいる。
『すみません。邪魔が入りました。』
相手は、
『まあ、いい。機会は幾らでもある』と静かに言った。


男の脳裏に、遥か昔の風景が浮かぶ。
『修ちゃん、また女の人にぶたれたでしょ(笑)』
『ミヤビ、なんで分かるんだよ(笑)』
『だってほっぺた真っ赤。冷やす?(笑)ここに来る時はいつもそうじゃん。モテるもんね、修ちゃんは。修ちゃんってさあ・・・ホントは好きな人いるんでしょ?』
『えっ、何それ?バカじゃないの?』
『不毛な恋(笑)まあ、いいか!』
お前が云うか?
彼は、そう思った。
『大学で、噂になってるぞ、お前。的場とはいつ結婚するんだよ?ホントに結婚するのか?』
ミヤビは、何も答えない。
アノ雪の日、的場(吉岡秀隆さん)より先に転びそうになったお前の手を俺が取ったら、お前は俺を見てくれただろうか?

俺は・・・・。
側に居られるだけで良かったんだ。その為に国家プロジェクトに入ったのだから。
金も、名誉も、権力もそんなモノは要らなかった。
普通に彼女と家庭を築き、生物学の仕事をしていればそれで良かった。
しかし、どう頑張っても人の心だけは、安易に手には入らないものだ。

それは、よく分かっている。
分かってはいるが、20年経った今も忘れられない。
愛情なのか、或いは執着なのか?
『アイツは、鈍感だからな』
男は、寂しく笑った。

『あの日、そうだ。あの日も雨が降っていたな』
雨が降り始めた。
外を見つめて男は静かにワインを口に含んだ。

『的場、お前はどう思う?』
男の眼差しは、とても寂しげだった。

続く。