自分が勝手にやっているプロジェクトのことを書きます。
活動の要請内容とは全然関係ありません。
以前、シリア難民も支援していきたいと書きました。
私には時間が限られていて、継続したアプローチをすることはできません。
できることと言えば、本人のニーズを引き出したり、話を聞いたり、家族や現地の理学療法士に医療現場で当たり前とされている基本的な事を伝えたり、介護しやすいように模様替えをしたり。
その中で、今地道にやっていることがあります。
それは自助具作りです。
自助具って言うと、医療関係職や家族が使っていたりしないと、馴染みが無いと思いますが、
簡単に言うと日常生活便利グッズといった所でしょうか。
ちょっとしたアイディアで、何らかの障がいによって「できなくなったこと」を自助具を使って「できるようにする」画期的な道具です。
ちなみに、
日本では、自助具についてのパンフレットが山ほどあります。
同じ自助具でも、それを発売する会社も沢山あって、パンフレットを見ながら、どの会社のものがいいかな~なんて、選べたりします。
ここに来る前に勤めていた東京の病院では、
自助具が沢山あって、担当の患者さんと、その自助具のマッチングを作業療法士が行っていました。
その流れはざっと、
①リハ室や病棟で試しに使ってみて、使えそう自助具を評価。
②自助具レンタル表にセラピストの名前を記入してレンタル(無料)。
③患者さんに病棟(入院中の生活場面)で実際に使っていただく。
④作業療法士が患者さんに合っているかどうかを評価。(セラピスト勤務時間外の使用状況の聞き込みもします。)
④使用に問題が無ければ、患者さん家族にお話しして購入していただく。
⑤退院後も使っていただく。
こんな流れで、お金を無駄にすることも少ないのですが、
ここヨルダンには勿論パンフレットなんてありません。
自助具も殆どありません。そしてどこに行ったら購入できるのか(杖や車いす等のメジャーな福祉用具は薬局に置いています)分かりませんし、私が家庭訪問したシリア人の患者さん達はそもそも、自助具って何?とその存在を知らない方々ばかりでした。
ちなみに、どこに行っても購入できない、ヨルダン大学病院が海外から輸入したものを使っているけれど患者さんが欲しいと思っても海外から取り寄せることしか方法がない、という話も聞きました。
時折、どこからか支援されたのであろう福祉用具を難民の方の家で見ますが、
使えなくて放置されているものも見てきました。
アカバでは、病院にて購入を勧められたためにわざわざ首都のアンマンに行って購入したものの、全然サイズが合わない等お金の無駄になってしまっているケースも何人も見てきました。
福祉用具、自助具の評価をする人がいないのか、評価の仕方が間違っているのかわかりませんが、支援に無駄が多いと感じています。
支援をしても、使えなければ全くのガラクタ。
それが生活場面で役に立たなければ全く意味をなさないのです。
食べ物や衣類等の万人が必要な物はどんなものでも有難いかもしれませんが、自助具はその方に合ったものを提供することがとっても大事なんです。
そんなことばかり言っていても埒が明かないので、
何かできることが無いかな‥と考えたのが、ヨルダンで手に入る材料による自助具サンプル作りでした。
ただこのサンプル、私が一人で作っていても能力や時間に限りがありますし、
せっかくなので全然違う職種のプロに思い切って相談してみた所、話がポンポンまとまっていったのです。
そんなわけで、シリアの戦争で銃弾のせいで脊髄損傷となってしまった患者さんも含む数名の協力者を得てこのプロジェクトが動いています。
私の周りにいた素敵な協力者達の力を借りて、私1人では到底できないことも、私には到底思いつかなかったであろうアイディアも出していただき、形になってきていることが本当に嬉しいです。
まずお願いしたのはヨルダン在住の日本人デザイナーの友人のMeiさん。
toribalogyというブランドを作っている、こころのあったかーい友人です。(去年私が精神的に落ちていた時、彼女にどれだけ救われたか分かりません)
※Facebookページはリンクできないようなので、興味がある方はtribalogyとFacebook検索をしてみてください^^
依頼をしたのは「万能カフ」という自助具です。
これは握ることが難しくなった方に、こんな風にバンドを撒きつけて、握らなくても自分で道具を使えるようにするものです。
用途はいろいろ
彼女と一緒に家庭訪問もして、どんな素材がいいのか、生活場面での使い勝手についてなど、患者さんとその家族×デザイナー×作業療法士で、真剣にディスカッション。
なぜなら、これは当事者であるAさんのためだけではなく、他の患者さんにも役に立つものづくりとなるであろうから。
当事者である彼もそのことを十分に理解しており、気付いたことを教えてくれるので、有意義な時間となりました。
私がダウンタウンで買った生地や金具も、自助具として良いものと悪いものがあることもMeiさんやAさんから教わりました。
ちなみに、Aさんからの意見は、ポケットを何個かつけて、歯ブラシやペン、スプーンなどを1つの万能カフ済むようにしたいとの意見。
(私たちが持って行ったカフは2つあって、一つは歯ブラシに適切、一つはスプーンに適切で、どちらも便利だけど、毎回使用用途を変えるために装着し直さなければならないのがとても大変というエピソードがありました)
早速、Meiさんはどこにどんなポケットがあれば良いのかをメモ。
私は、Aさんの手の機能の特徴や能力について、ポケットの角度や適切な強度等を補足。
多くの方に使える、というポイントも一緒に考えました。
こういう話し合い、とても好きです。
次の協力者はヨルダン在住の活動先のろくろ職人のMaataz(マァタズ)。
彼に依頼したのは「自助食器」。
スプーンの角度を調整することが難しい方に適用です。お皿の片方の高さが低くなっており、反対側は縁がカーブしているため、ごはんを掬いやすく、お皿からもこぼれづらいのです。
彼にシリア人の頸髄損傷の方の話をし、物を掴むことが出来なくなった方のために、自助食器を作って欲しいとお願いしたら、快く承諾。
その後職業訓練部門のボスにも話を通し、サンプルは無料で作って、その後は低価格での提供をしてくれる流れになりそうです。
⇒ 2weeks later...
親身に私の話を聞いてくれて、協力してくれた彼とそのボスに感謝です。
そして、この写真はその2つが合わさったときのもの。
Aさんは疲れるとは言うものの、今まで2年間ずっと家族介助で食べさせてもらっていたのが、このカフのおかげで最大能力で、自分で掬い、自分で口に入れることができるようになりました。
ただ、医療界では実はこの最大能力で、というのがミソで、
できるようになった、と言う言葉の中には、常になのか、まぐれなのか、できるけどしていないのか、色んな裏が隠されています。
日常生活活動(Activity of Daily Living;略ADL)には、
「出来るADL」と「しているADL」という言葉があり、その評価もそれぞれ別にあるのです。
私は、頑張って頑張って辛い思いをしながらできるのではなく、普段日常でそこまで努力をしなくてもできるようにしたいのです。
食事って本来楽しいもので、辛い思いばかりじゃ嫌になってしまいますから。
ただ、使わないと能力が伸びないことも分かっています。Step by Stepで、少しづつ初めることで折り合いが付きました。(多分)
私が、
「普段から使わないと、脳が筋肉に、〝使わなくていいんだよ~”と命令して動きを忘れてしまうのよ~!!。」と言うと、
「わかった、わかった。」と使ってくれると言って下さいました。
※社交辞令かもしれないので、私は時折様子を見に行かなければなりません
受傷してから2年、食事に限らず、身の回りの事を殆ど介助で行ってきたことなので、疲れるのは無理有りません。
そして、なぜか現地ドクターは安静にと言うそうです。
彼は電動車いすで外に出たり、JICAの研修にも参加する方です。安静、は少し彼には違うような気がします。
リハをバリバリすることで疲労のため筋肉が動きづらくなったりと逆効果の時もありますが、2年経った今でさえも過介助であったり、絶対安静にしていると、確実に予後予想よりも最大能力は下回ることは必至です。
ちなみに私は、自助具装着+自助食器で、私が帰国する7月までには彼は自分で食事ができると思っています。
まずは5分だけでも十分です。
いや、1分でもいいです。
食事に対する手の耐久性をつけて欲しいのです。
幸いなのは、彼はまだ諦めているわけではないこと。
こうやって私が生活のためのアイディアを考えていると、
どんなコップでも一人で飲める便利な物があったら嬉しいんだけど‥(こちらの国では、客人や家族と団らんしながら紅茶を飲む習慣があります)
と自分がしたいことを私が聞く前に伝えてくれたのです。
こういう「自分の思い」を伝えてくれる瞬間は、作業療法士で良かったと思う時であります。
勿論、このニーズに合う自助具もあります。
どんなコップでも、というのは少し難しいかもしれませんが、多くのコップに適用できそうなものであれば可能な気がしています。
できれば、見栄えもカッコイイものがいいんです!
見栄えが悪いと使いたくないと思う方も多いでしょうから。
陶芸も木工もある活動先に在籍していることが、こんな形で役に立つとは!
今活動先は冬休みなので、休み明けには作って欲しいものリストを持って行こうと思います。
最終的には、現地の方々がこういった便利グッズのノウハウを知って、ニーズに合わせた物づくりができるようになればと思っています。
理想は、1つのセンターに色々なサンプルを常時置いておいて、医療スタッフやが実際に使用してみて評価をし、良さそうであれば現地の職人に発注という流れであれば、この国でもできるのではないかと感じています。
個人だけでなく、この私の勝手な構想に共感してくださった支援団体からもサポートしてくださると声をかけて頂き、どんどん繋がりができて楽しくなってきました
その他、シリア難民に対して私が出来ないことの中で、褥瘡(床ずれ)のケアというものがあります。これも、周りに相談していたら、帰国してしまう協力者の後任として、新たに協力して頂ける方を紹介していただきました。
昨日はその引き継ぎで、医療職5名と通訳1名の計五人で業務引き継ぎ。
久しぶりのケースカンファレンスのようでした。
この話はまた後日。
自分一人だと出来ないことは沢山ありますが、誰かと協力することで、出来る事ってぐーんと広がるのだな、と帰国半年を切った今、痛感しております。
人との繋がりは私にとって本当に大事なことです。
有難うございます。