らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】 -56ページ目

第295話 真実の行方

携帯からの目次を作りました



――大変なことしてしまった――

――人を殺した――


二つの言葉が繋がる。


彼は今度こそ真実を告白するつもりだ。


嘔吐が収まった後も

俊ちゃんの身体は硬く

生気に乏しい視線は定まっていない。


肩を上下させながら

ヒッヒッと浅い息つぎをしていている。


過呼吸寸前といったかんじで

私は俊ちゃんの口元をビニール袋で覆いながら

「ゆっくり息をして。 落ち着いて」と繰り返す。


そして

今更のように気がつく。


最近の俊ちゃんが

覇気がなく無機質に見えたのは

心の防衛本能による感情鈍化状態にあったからなのだと。


『殺人』という事の重大性を考えれば

何も感じないですむように心を閉ざしていたのにも納得がいく。


それが今

LSDの作用で心理システムが崩壊し

抑えていたものが一気に溢れ出したのだろう。


「大丈夫。 何を聞いても驚かないよ。

俊ちゃんが何をしたって私は最後まで味方だよ。

そう約束したでしょう?」


言いながら

胸が締め付けられて泣けてくる。


「信じて、全部話して」


私は愛に溺れながら

俊ちゃんのことを抱きしめる。


呼吸が落ち着いた俊ちゃんは

山積みにされた新聞の中から一部を手元に取り

震える指先で一面の見出しを指して呟いた。


「俺がやったのや」



意味がわからなかった。


あまりにも現実離れした展開に

私はその場に相応しい態度や感情が掴めない。


ただ

頭の中で『まさか』という平面的な三文字が反芻される。



俊ちゃんが指差した記事は

連日トップニュースで報道されている

猟奇的かつ残忍な殺人事件だった。


さあ、ゲームの始まりです

ボクは殺しが愉快でたまらない


犯人は警察に対して声明文を送りつけている。


連続殺人鬼の映画を地でいくような大胆な事件で

ワイドショーでは毎日

精神分析医が犯人像の推理をしている。


事件発覚から数週間がたち

目撃情報も多く寄せられているというのに

いまだ犯人の特定には到っていなかった。


「待ってよ。 だってこれって、関西だよ?」


事件の日付を確かめ記憶を遡っていく。


「この日、私一緒にいたよね? 仙台にいたでしょう?」


当日の記憶が思い出せず

うなだれた彼の顔を覗き込みながら確認する。


「俺がやったのや」


俊ちゃんの真剣な表情を見定めて

全身から血のけが引いていくのを感じた。


俊ちゃんに対する様々な心象の断片が

自動的に事件とリンクしていく。


私にすら

頑なに隠してきた彼自身の心の闇。


俊ちゃんの心の闇は

途轍もなく深く異質だった。


私は付き合い当初からそのことに気がついていた。


時々見え隠れする

彼の内に秘めた衝動性は

他の男の中には見出せない強力な魅力の一つだった。


内部で鬱積したままの不安や緊張

全身から滲み出るような葛藤と抑圧の坩堝を

私は無意識に嗅ぎ取っていたのだ。


そう。

私は確かに感じ取っていた。

彼の心の奥底に幽閉されているグロテスクな魔物の存在を。

俊ちゃんが犯人なら

それはまさしく驚愕の事実だけど

その犯行事態には違和感がないとも思えた。


そういえば俊ちゃんは

自分がいつか重大な犯罪を犯すのではないかと恐れていた。

名前の字画が『凶悪犯』の画数なのだと怯えていた。



俊ちゃんは

犯行時の様子を具体的に語りはじめる。


生々しく状況を説明する彼の瞳には

揺れ動く狂気の炎が宿っている。


「ちょっと待って!」

思わず話を制止する。


頭の中を整理したかった。


俊ちゃんの告白は

私が今まで想像で紡いできた物語を

根底から覆してしまうことになる。

全ては私の見当違いだったのだろうか。

俊ちゃんに関しても。

私を取り巻く状況や敵に関しても。


追跡され包囲されているのは私ではない?

監視の対象は俊ちゃんだった?


すでに俊ちゃんに容疑がかかっていて

警察が内偵捜査を進めているのだろうか?


そう考えてみれば

今までの矛盾は解消されて

世界の連続性を取り戻せるような気がする。


おぼつかない頭で

私は必死で仮定を組み立てなおしていく。


物語を最初の部分まで巻き戻す。


いつからだっただろう。

私は俊ちゃんの態度に不自然さを感じるようになる。


それが彼の浮気や心変わりからくるものだと疑い

詮索ばかりするようになる。


俊ちゃんはあいかわらず優しかったけれど

日増しに感情の色を失っていくように見えて

私の不安は募っていく。


ある日

部屋の壁に小さな穴を見つける。


私は『盗撮』の事実を俊ちゃんに伝える。


でも彼は怯えるだけで

その事実と向き合おうとはしない。


私がヒステリックに責め立てても

部屋や電化製品をいくら破壊しても

何も言わずに耐えているだけだ。


私はそんな俊ちゃんのせいで

ますます混乱し追い詰められていく。


俊ちゃんが敵の一味だと思うようになる。


毎日買ってくるスポーツ新聞には

敵からの暗号による指示が隠されているのだと思い込む。


全ては私の妄想だった?


俊ちゃんは

自分の罪に怯え

事件の発覚を恐れていた?


いや、だめだ。

それでもやっぱり辻褄があわない。


そもそも俊ちゃんが犯行を犯すのは

物理的に不可能なはずだ。


ならどうして?

何故俊ちゃんはこんな話をするのだろう?


これも私を混乱させるための計画の一環で

敵からの指示を受けての演技なのだろうか?


私の思考は振り出しに戻ってしまう。


そんなバカな!


演技で嘔吐したり

過呼吸をおこすことなんて事が出来るはずがない!


いったいどういうことなの?!


いったい何が現実なの?!



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