らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】 -53ページ目

第298話 七夕祭り

携帯からの目次を作りました


全力疾走しながら後ろを振り返ると

見張りの女が血相を変えて携帯電話を取り出しているのが見えた。

公園の脇に止まっていた車が動き出し

Uターンして私の方に迫ってくる。

近隣のマンションの窓には

私の姿を見おろす顔がいくつも並んでいる。

どの顔にも

「まりもを逃がしたらまずい」

という焦燥の色が浮かんでいる。

このギリギリのタイミングで私が逃げ出すとは

敵は思ってもみなかったことだろう。

ミッションは最終段階で

後は実行を待つばかりだったのだから。

それでも

敵の優位に変わりはない。


私は携帯電話も財布も持っていないのだ。

だけど

私が誰かに接触して全てを話してしまえば

敵の計画は存続不能に陥るに違いない。

ここで私を逃がせば一貫の終わり。

敵は死に物狂いで私の捕獲に手を尽くすだろう。

一刻も早く

この敵陣から抜け出さなければ。

大通りに出た私は

国分町を目指して息つく間もなく走り続ける。

俊ちゃんのビーチサンダルは大きくて

指の間に痛みがはしる。

見慣れた国分町を

脇目も振らずに走り抜けると

町が様変わりしていることに気がつく。

通りを挟んで真っ直ぐ伸びる商店街には

色鮮やかな吹流しと大きなくすだまが立ち並んでいる。

七夕祭りだ。

早朝なのに

商店街の人間が清掃を行っている。

私は安堵して立ち止まり

膝に手をついて呼吸を整える。

ここまでくれば敵と無関係な人間もいるはずだ。


いくらなんでも

一般人の前で私を誘拐することは出来ないだろう。

私は間一髪のところで

敵の本拠地から抜け出すことに成功した。

コンビニの前であたりの様子を伺う。

路地裏に立っている二人の男を発見して息をのんだ。


さっきまで車に乗っていた

あの二人組みの男だったのだ。


あんなに走ったのに

一体どうやって追跡しているのだろう。


敵の計り知れないネットワークに

私は心の底から恐れおののく。


二人の男は

威圧感たっぷりにこちらを睨みつけてくる。

通行人はまだ少ない。

とにかく人の多い場所にいなければ危険だ。

私はコンビニの前で

人通りが増える時間まで待つことにした。


その間

二人の男は路地裏から動くなことなく

私の監視を続けた。


商店街の全ての店のシャッターが上がり

私は意を決して足を進めた。


あおば通り。

このアーケード街を真っ直ぐ行けば仙台駅に着く。

仙台に信じられる人は誰もいない。

どうにかして東京へ戻りたい。

新幹線に乗ってしまえば私の勝ちだ。

何度も後ろを振り返りながら

私は駅へ向かって歩いていく。


通り過ぎる人は皆

これ見よがしに私のことをジロジロと見る。

みんな方耳にイヤホンをしていて

指示通りに私の追跡をしているようだ。

ほとんどの仙台人は

敵の組織に属しているのかもしれない。

そう考えた方が辻褄が合う。


この町はきっと

何か特殊な任務を担った諜報員達の集まりなのだ。

観光客らしき年配の夫婦を見つけ

私はその後を付いて行くことにする。

この交差点を渡れば駅まであと少しだ。

信号待ちをしていると

地下鉄の出口から階段を駈け上がってきた男が

勢いよく私にぶつかってきた。

ナイキの帽子を目深にかぶっている。


男は鋭い目で私のことを睨みつける。

私も怯むことなく睨み返すが

その瞬間恐怖で立ちすくんだ。

男が小脇に抱えている競馬新聞の間に

拳銃が隠されていたのだ。

男はニヤリと口元だけで笑うと

私の前を立ち去った。

一斉に交差点内を人が行きかう。

無数にいると思われる敵は

互いに目配せをしながら視線を送りあっている。


私は今にも殺されるのではないかという恐怖の中で

真夏の暑さにもかかわらずガクガクと震えた。

だけど

七夕祭りは私が逃げるための天与のタイミングだった。

観光客が大勢いるから

敵は私に手を出すことが出来ない。

イーブンだ。

これなら私にも勝ち目はある。

気持ちを奮い立たせ

私はまた走り出す。

仙台駅が見えてくる。

歩道橋を駆け上がり駅構内に滑り込んだ。


時刻表を見て

東京行きの新幹線を確認する。


駅構内にも敵は大勢いて

切羽詰った焦りがヒシヒシと伝わってくる。


私は売店の前に並ぶ公衆電話に向かう。


「……あの …すいません …お財布を忘れてしまって

…返すので …百円を貸してもらえませんか?」


側にいた見知らぬおばさんに頼んでみるが

声が震えてうまく発音が出来ない。


おばさんは私を一瞥すると

「交番にいけば?」と冷たく言い残して去って行った。


私は自分がまともに口もきけない状態だと分かり挫けそうになる。

これでは誰に何を説明したところで信じてもらえるはずがない。


新幹線の発車時刻五分前

私は改札口を強行突破した。


「え? ちょっとっ!」

駅員が改札口から身を乗り出して声をかける。


私は駅員も敵の一味だと勘ぐり

思い切り睨みつけてから一目散に走った。


駅員が慌てて追いかけてくる。

エスカレーターを走る。

ホームを走る。

新幹線はまだ入ってこない。

新幹線に乗るための人の列を掻き分けながら

私は祈るような気持ちで

ホームの後ろに向かって全速力で駈けていく。

「待ちなさい!」

駅員が大声をあげて呼び止める。

私は走り続ける。


みんなが何事かと私の方を注目する。

反対側のホームからも視線が一身に集まる。

ホームの一番後ろで私は逃げ場を失った。


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