らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】 -46ページ目

第304話 妹の理沙

携帯からの目次を作りました


父は

精神科での治療や投薬の具体例を挙げ

真摯に説得を続けたけれど

精神病院が恐ろしい場所だという私の印象を払拭させることに成功はしなかった。


私は『自分は絶対におかしくない』と証明をする事に必死で

父との話し合いはどこまでいっても平行線を辿った。


「この話は保留にしておこう。 

まりも今日は疲れただろう? そろそろ休んだらどうだ?」


父はそう言って話を締めくくり

「おまえが帰ってきてくれてうれしいよ」と付け加えた。


私は自室に戻ってベッドに入った。


まだ覚醒剤は抜けていないはずなのに

蓄積された疲労が限界に達していたのか

すぐに泥のような眠りに堕ちていった。


――俊ちゃん

どこにいるの?――


――そばにいてよ

おねがい どこにもいかないで――


――わたしを一人にしないで――


現実と区別のつかない夢の中で

私はまだ彼の姿を探していた。



翌日

理沙が私の部屋にやってきた。


「おねーちゃん、起きてる?」


私は重たい半身を起こして理沙を見た。


「もう五時だよ、何回か起こしにきたんだけど、おねーちゃんぐっすり眠ってた」


理沙はピンクと白のボーダーのTシャツに

水玉模様のショートパンツをはいている。


「学校は? もう終わったの?」


「今夏休み中だよ」


「あぁ、そっか。

……理沙、元気にしてた?

背伸びたね、クラスでも高い方なんじゃない?」


短パンからまっすぐに伸びる理沙の足は細くて長い。


「背の順は真ん中より少し後ろくらいだよ。

あのね、おねーちゃんに相談があるの」


理沙はクッションの上にあぐらをかいて座った。


窓から斜めに差し込む夕日が

理沙の頬をオレンジ色に染めていた。


「あたしね、ストレートパーマをかけたいの……」


理沙はそう言って唇を尖らせた。


理沙が生まれたとき私は十歳だった。

妹から相談らしい相談を受けるのはこれが初めてのことだ。


「いいんじゃない? 理沙かなりクセっ毛だもんね。

縮毛矯正かければいいよ。 いい美容院知ってるから連れていってあげようか?」


「でもお母さんがそんなのまだ早いって……

ダメだって言われちゃったんだ。

私クセっ毛がすごいコンプレックスなのに!

梅雨の時期なんてブローしても全然ダメなんだもん!」


赤ちゃんだった理沙を「だっこさせて!」と母によくせがんだ事を思いだしながら

「理沙もそういうお年頃なのねぇ~」と私は微笑ましい気持ちで言った。


「ストレートパーマかけたいよ……」

理沙は口をへの字に曲げている。


理沙は私と違って我侭なタイプではない。

どちらかといえば従順な子だ。


「じゃ、お姉ちゃんからお母さんに頼んであげるよ」


私は理沙を引き連れて一階のリビングに下りていく。


母が夕飯の支度をしているのか

台所から味噌汁の匂いが漂ってくる。


物音に気づいた母が

エプロンで手を拭きながらダイニングに顔を出す。


「起きたのね、お腹すいてるでしょう?

七時に夕飯にするけど、先に何か食べる?」


優しく声をかけてきた母に

私は何故かイラっとして一気に捲くし立てた。


「理沙にストレートパーマかけさせてあげなよ!

なんでダメなの? コンプレックスだって言ってるじゃん! 

だいたいお母さんはなんでもかんでもダメダメって言いすぎなんだよ。

そうやって親の権限で何でも禁止してたら、理沙も私みたいになるよ!

これ以上は被害者を作らないでよね!!

理沙のことも浩一のことも

私が帰ってきたからにはお母さんのいいようにはさせないから!」


自分でも驚くほど感情的になっていた。


母は唖然とした顔で私を見ると

「……うちにはうちのやり方があるの。

そういう事はお父さんとお母さんが相談して決めてるんだから

あんたは口を出さないでちょうだい!」

と強い口調で言った。


「相談して決めてる?

お父さんはいつだってお母さんの言いなりになってるだけじゃん。

だいたい、どうしてストレートパーマをかけちゃダメなのよ?

髪の毛を染めるって言ってるわけじゃないでしょ? 

校則違反でも何でもないじゃん!

お母さんはそうやって『禁止』する事で子供をコントロールしたいだけでしょ!」


私はますます感情的になってたたみかけた。


「理沙はまだ中一なのよ! 高校生になってからでも遅くはないでしょう!」


母も引く気はないようだ。


「まだ早いって何を根拠に判断してるわけ?

お母さん、覚えてる? 

私が小学校の修学旅行の時さ、持って行く下着を自分で選びたいって言ったら

まだ早い!って許してくれなかったよね?

みんなが可愛いサンリオとかミッキーのパンツなのにさ

私だけお母さんが買ってきたグンゼのおへそまであるパンツで超恥ずかしかったんだよ!」


「そんな事、今は何の関係もないでしょう!」


「関係あるよ! 意味のない事をどうして禁止するの?

うちは異常だよ! 

夕焼けニャンニャンも見せてもらえなかった! ドリフも見せてもらえなかった!

そうやって禁止ばかりするから余計好奇心が抑えられなくなるのよっ!

だから隠れてやるようになる! お母さんは詮索ばかりする!

見つかって怒られるから私は余計巧妙に隠れて悪いことをするようになる!

悪循環だったってまだわからないの?!」


私は大声で怒鳴っていた。


「いったいどうしたんだ?」

父が血相を変えて部屋から出てきた。


困り果てた母が父に状況を説明した。


「理沙も、はっきり言っていいんだよ! 口答えしていいの!

なんでもかんでも親の言いなりになる必要はないんだからね?」


私は理沙に言った。


「でも、ダメって言われたらお金出してもらえないから無理だよ……

諦めるしかないもん……」


理沙はこの成り行きに戸惑っている様子だった。


「ふん、お金ね! 

そう! お金で束縛するのがお母さんの常套手段なんだよ!

でも大丈夫。 お金なんてお姉ちゃんがいくらでもあげるよ!

理沙には服だってなんだって欲しい物は買ってあげる!」


「いいかげんにしなさいっ!

親は子供のためを思ってお小遣いを決めているし

そういうのも躾と教育のうちなのよ!」


我慢できずに母が怒鳴った。


私は

母の言葉を逆手に取った。


「その躾と教育の結果が私だよ!

お母さんのご大層な教育方針が間違ってた証拠がここにあるじゃん!

理沙が私と同じような人生を歩むことになったら私はお母さんを殺すからねっ!」


「ちょっと待ちなさい!

どうしてそんなに興奮しているんだ? 落ち着きなさい。

まりもは何をそんなに怒っているんだ?」


父が話しを割った。


「だから! 

理沙にストレートパーマをかけさせてあげてって言ってるの!

お金なら私が出してもいいよ! 

姉が妹にお小遣いくらいあげたってかまわないでしょ?」


「そうやってうちの家庭をかき乱さないでちょうだい!!」


母が顔を真っ赤にして叫んだ。


「かき乱すつもりなんてないよ!

私はただ!

お母さんの支配下から理沙と浩一のことを救ってあげたいだけ!

手遅れにならないうちにねっ!!」


そう

私はただ

理沙や浩一には自分と同じような想いをして欲しくない一心だった。


理沙のことを守ってあげたかった。


言うまでもなく

私は中学の頃の自分を理沙に投影していたのだ。


だから

当時のつらさや憤りや苛立ちが一気に噴出して

感情が爆発してしまったのだろう。


結局

「女の子は早いうちからコンプレックスを持つべきじゃない」という私の主張と

父の「いいじゃないか」という後押しのおかげで

理沙はストレートパーマをかける許可をもらうことが出来た。



私が家に帰ってから

このような母との衝突は日常茶飯事になった。


私は母と話すとき

自分の感情を抑えることがどうしても出来なくなる。


母もまた

それは同じだった。


昔から私と母の間には

ある種病的な愛憎の関係性が成立している。


互いの感情に巻き込まれずにはいられない

一心同体のような癒着した母子関係が根底にあるのだ。


だけど

昔と少し変わったことがある。


昔はこういう衝突の時

父は完全に母方について私を責めるだけだったのに

今の父は

どちらかというと私に譲歩した態度を取ってくれるようになった。


父は事ある度に

「今はまりもの治療が何よりも最優先だ」

と母をなだめ従わせた。


父の感情はブレる事なく一環した態度を貫いた。


私はくだらない冗談や

おどけた仕草で理沙のことを笑わせるのが好きだった。


理沙は私によくなついていた。

五年間の空白を埋めたくてお互いいろいろな話をした。


思春期の理沙は私に感化されて

年相応の親への反抗心も持つようになっていった。


母は時々やりにくそうにしていたけれど

それでも

姉妹が仲良くしている様子を微笑ましく眺めていた。


「理沙は将来どんな彼氏が出来るんだろうね?

お姉ちゃんが選んであげるよ! 男を見る目には自信あるからね

芸能人は誰が好きなの?」


「うーん。 男の人はいないけど、パフィーが好きだよ」


「パフィーかぁ。 

私が中一の時にはもう男の子追い掛け回してたのになぁ。

理沙は奥手なのかね~? 

私の初恋はちょうど今の理沙の頃だよ。

野球部の男の子だったんだけどね、広希って名前で可愛い顔してたんだよ!」


「ふぅーん、私はまだ恋ってよくわかんない!」


理沙がはにかんだ笑顔で俯いた。


扉をノックする音がして

浩一が声をかけてきた。


「ねーちゃん、ゲームやる?」


浩一は

セガサターンというゲーム機と

二つのコントローラーを抱えて部屋に入ってきた。


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