第116話 夜に震えて
家に戻ってから直樹は
誠心誠意言葉を尽くして
根気よく私を説得し続けた。
「俺の事を信じて」
そう言われて
私の胸は締め付けられる。
信じたいのに信じられない。
それは本当に悲しくつらい事だ。
直樹はきっと
私に何一つ嘘はついてこなかったのだろう。
それでも私は
目に見えない直樹は信じる事が出来ずに
いつでも直樹の事を物理的に束縛してきた。
長い話し合いの末
ようやく私は直樹の提案を受け入れる覚悟を決めた。
結婚するまでは直樹は実家で生活をする事。
直樹は仕事が終わったら毎日うちに来て
必ず終電で帰る事。
週末はうちに泊まる事。
結婚式は半年先を目安に
式場を探す事。
新婚旅行はハワイに行く事。
そんな事を私達は決めたのだった。
私にとっては苦渋の決断だったけれど
結婚に向かって現実的に準備をしていかなければいけないわけで
論理的に考えればそうする事がヘベストなのだと
自分でもきちんと納得したはずだった。
でもそれは
やはり理屈で理解しただけで
私の感情は全く言う事をきかなかった。
直樹が帰ってしまい
一人ぼっちになった私は
早くも夜に震えて
膝を抱えて泣いていた。
こんなに不安定で私は生きていけるのだろうか。
結婚すれば不安がなくなると思い込んでいるけれど
結婚したからといって心が平穏になるなんて
そもそも何の根拠もないような気がする。
直樹と出会った時から
ずっと信じ続けている結婚への幻想が
根底から揺るいでいく恐怖を感じて
私は頭を抱えて叫びたくなる。
もう何も考えるのはやめようと
ベットに入り目とつぶったものの
眠りの糸口をいつまでも見つけられずに
時間だけが過ぎていく。
私は
ふとある事を思い出し
ほとんど無意識の内にお財布だけを持って
タクシーを拾った。
「運転手さん、上野まで。」
上野でイラン人が魔法の葉巻を売っていると
美咲が言っていたのを思い出したのだ。
続き気になる人はクリックしてね♪
