第328話 トーナメント
いつもの閉店後のミーティング。
高梨はバインダーを開いて、こう言った。
「来週と再来週、二週間にわたってトーナメントを行います。
優勝者には20万円のボーナスが出るので、みんな頑張るように」
ホステス達がざわざわとする中、私はトーナメントの意味がわからずに
「なんなの? 一体」 と隣に座る栄子に尋ねた。
「まりもと純は初めてだよね。 半年に一回くらいやってんの。
二週間のポイント合計が一番多い子が優勝だよ」
「へぇ~、トーナメント中は皆が必死で指名取るかんじなの~?」
「いやぁ、全然いつもと変わらないよ。 トーナメントだから客を呼ぶとか、ないない」
栄子は鼻で笑って言った。
私は考えていた。
二週間という期限付きなら
かなり無理をすれば優勝が狙えるかもしれない。
結果的に優勝は無理だったとしても
優勝争いくらいは出来る実力が今ならもうあるはずだ。
入店して3ヶ月
No1の週が一度あったし、近頃はNo3以内に必ず入っている。
いい力試しになる。
私は自分のモチベーションが上がっていくのを感じた。
翌日、手初めに
二人の同伴要員に電話でその旨を伝えた。
ルッチには単刀直入にお願いすることにした。
「ルッチ、指名のトーナメントがあるんだって! 協力して欲しいよぉ♪」
「ま~たトーナメントやんのかぁ! なんだやぁ~、まりも、優勝狙いかぁ?」
「うん! 頑張ってみたぃ!」
「がははははは、んだっちゃ、俺がその二週間は毎日行ってやるわ」
「わぁい♪ ありがとー! ルッチ大好き♪」
「その代わりって言うのもあれだけどや、一度くらい店終わった後にカラオケ付き合ってけろ!」
そのくらいはお安い御用、というわけで
楽々と商談は成立した。
次は明宏。
こちらはあいかわらずの色恋だ。
「だーりん、あのね、来週から二週間、指名のトーナメントあるの。
賞金が20万でるんだって。 あたしさ、少し頑張ればとどくかもしれないの。
もし優勝出来たらさ、その賞金で二人で旅行に行かない?」
「まじまじ?! 旅行! でも、おまえ休み取れないって言ってたじゃん」
「それは大丈夫だよぉ! トーナメントで優勝すれば、絶対に休みもらえるよ!
結果さえだせば、店側だってこっちの要求をのんでくれるはず。
そうでもしないと休みもらえそうもないしさぁ…
これは二人でラブラブできる最高のチャンスだと思うの!」
「そういうことなら全面的に協力するよ!
毎日同伴してもいいよ? ボーナスまだ全額残ってるしさ」
「ありがとぉ! 絶対に優勝するから、旅行行こうね!
そぉだなぁ~、海外はちょっと無理だからさ、沖縄なんてどぉ? きっともぉ暖かいよね?
だ~りんと二人で、南の島でトロピカルジュース飲みたいな!
ねね、水着どうしよー! 今の時期って売ってるのかな? 可愛いのなさそうじゃない?
困ったなぁ… ビキニがいいよね? あ~ん、超楽しみだよぉ!!」
旅行なんて行くつもりは更々ないけれど
営業話は早々に切り上げて、あえて旅行の話をメインにした。
こっちの『本気』が伝われば
明宏は文句を言うどころか、自ら進んで店に通うに決まっている。
二人が毎日店に来てくれるという確約を取り付け
私が優勝できる可能性はかなり高まったことになる。
トーナメントで優勝を目指すという意志を
最初から正直に伝えたのは、この二人だけだった。
あとの客には
露骨に指名をねだるような真似は逆効果になると思い
会社にDMを送ったり、小まめに電話を入れたりと、熱心な営業に励んだ。
準備も根回しも十分に整い
余裕の心持で向かえたトーナメント初日。
レギュラーの6人は
当然のように同伴客を引き連れて出勤した。
栄子は普段と何も変わらないと言っていたけれど
それは大嘘だったということがすぐに分かった。
確かにアルバイトの子達は
最初から優勝など狙えるわけもなく
やる気なさそうに待機席でくっちゃべっているけれど
レギュラーの子には次から次と指名客が訪れている。
他の子達の戦意喪失を狙って
先手必勝とばかりにスタートダッシュをかけた私だったけれど
初日が終わってみると12ポイントで栄子と同点だった。
『涼しい顔してやってくれる』
私は沸々と
栄子に対するライバル心を燃やした。
二週間後、トーナメント優勝者として表彰されることは
私の予定の一部になっている。 負けるわけにはいかない。
次の日には
久しぶりに田中が遊びに来てくれた。
「た~ちゃんったら、ちっとも顔見せてくれなぃんだもん! まりも寂しかった!」
私は頬を膨らませて言った。
「つーか、おまえ、すっかり人気者で、指名入れても20分もつかねーじゃん。
たまには俺のことも思い出してくれよ! って、こっちの方が寂しい気持ちだぞ!」
私は田中には親近感を持っている。
最初に同伴してくれた客ということもあるし、なんとなく馬が合うのだ。
「実は、今トーナメント中なの。 いちおー優勝狙ってるのよ」
「げー、どうりで営業熱心だと思ったらそういうオチかよ!」
田中は苦笑いをする。
「あはは、まぁでも、本当にた~ちゃんには逢いたかったのよ!
もちろん指名が欲しいのは本音だけどさ。
頑張って優勝してみせるから、そしたらお祝いしてよね♪」
「けっこう自信ありそうじゃんか。 しかし、まりもは野心家なんだなぁ~
強烈な自我とめざましい上昇力。 俺も見習いたいもんだね」
「野心家かぁ~。 そういえば私って目的や計画を実行しようとする時
人並みならぬパワーを発揮するかも! 負けず嫌いだからかな?」
「そうかもな。 おまえさ、失敗して挫折したことはないの?」
「もちろんあるよ! でも、挫折したままへこみっぱなしって事はないなぁ。
私ね、努力と実行力があれば人生無敵! ってくらい強い思い込みがあるんだ。
失敗したり、挫折することもあるけど、それでも挑戦し続けていれば
どう転んでも人より早くなんらかの成功を手に出来るもんだと思わない?」
「うむ。 たしかに早くから目標にむかって走ってる人は強いかもな。 だけど、疲れない?」
「う~ん、疲れるね。 でも、人並みじゃ満足できないんだもん!
キリがないの。 これでもか、これでもかってどんどん上にいきたくなる。
仮に人が羨むような立場に自分がなったとしても、そこが到達点にならないんだよね。
まだこれは最終目標じゃない! って。 考えてみるとしんどい生き方よねぇ… あはっ」
私は苦笑した。
「まりもは一生チャレンジャーな人生を送るんだろうな」
田中の言葉に
「たぶんそうなんだろうね」と私も納得してしまった。
「ねぇ、た~ちゃん。 世の中には二種類の悲劇があるんだってよ。
一つはね、願いが叶わないこと。 もう一つは願いが叶ってしまうこと。
たぶんさー、野望っていうのは果てしなくて終わりがないものなんだよー!」
私はめずらしく営業抜きの語りに入っていた。
「これは一つ忠告。
野望体質の女ってのは、勝気で嫉妬深いだろ?
誰かに負けるのが耐えられない。 つねに前へ前へ、誰よりも前に出ようとする。
結果的に敵をつくりやすいし、のどかな人間関係は望めないぞ」
「そうかもね。 それでも私は、常に優越感と達成感が欲しいんだわ。
例えばさ、綺麗なホステスのお友達がいっぱいいるた~ちゃんのことを彼氏にしたい! とかね♪」
私は悪戯な笑顔で微笑んだ。
そろそろ高梨が私を抜きにやってくると思い
とってつけたような営業トークを織り交ぜたのだった。
「で、俺はあなたの野望のために、何回店に通えばいいのよ?」
田中が笑いながらグラスを開けた。
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