第330話 決戦の週末
いよいよ週末二日を残すだけとなったトーナメント。
現在トップは栄子で次点が私、その差は3ポイント。
三位が真由美で、私との差は4ポイントだ。
他のホステス達が次々と振るい落とされていく中
依然として上位三人はギリギリの接戦が続いていた。
栄子との差はたかだか3ポイントだけど
残り二日で詰めることは意外と難しいに違いない。
どれだけ必死に客を呼んだところで
営業時間内につける客数は決まっているからだ。
決戦の週末。
午前中から名刺ホルダーをめくり
営業電話に精を出す。
普段よりも濃厚な色営業のラストスパート。
口から出任せ、調子良いことばかりを客に吹き込んだ。
後々困ったことになりそうだけど知ったことか。
今の私には今日の指名1本が何よりも重要なのだ。
同伴要員の明宏とは
出勤時間ギリギリに店の下で待ち合わせをした。
本来『店前同伴』は
「同伴してもらうんだから早くから逢って食事くらい付き合うように」
という理由で店側から禁止されている。
だけど、私は
寝坊した時など『店前同伴』をお願いすることが割と多い。
とくに今回明宏は
優勝すれば二人で旅行に行けると思っているから
私のいいように動いてくれている。
おかげでギリギリまで客に電話をかけることが出来た。
メイクルームで髪のセットが終わると
気合を入れるため通常より赤みの強い口紅を注した。
明宏を引き連れて同伴、その後も立て続けに指名が入る。
いいペース。 期待が持てる。
金曜日はただでさえ客入りがいいのに
トーナメント終盤ということで店先には8時台から行列が出来ていた。
私は自分の指名客を捌くのに手一杯で
店全体がどういう状況なのか把握できずにいたけれど
客が店に入りタイムスタートするまでに1時間以上かかっていそうな賑わい方だ。
「まりも、指名のお客さん来てるんだけど
待ち時間長くて帰るって言ってるから、すぐに挨拶行って!」
高梨に言われて私は店の外で待つ客の元に走る。
来てくれた客に並んでもらうのも、ホステスの手腕にかかっている。
「うわぁ~、すごい混んでるね。 ごめんねぇ~」
長蛇の列を確認しながら
私は申し訳なさそうに頭を下げた。
「今日は随分待ちそうだから、平日にでも出直すよ」
「えー! だめっ! どぉしても今日話したいことあるの!
せっかく来てくれたんだし、少し待ってよぉ。 ねっ!」
内心焦りながら
寂しそうな表情を作り両手を合わせてお願いする。
「う~ん… それじゃ別の店で飲んでから12時過ぎにまた来るよ」
十二時過ぎは今より厳しい状況に決まっている。
だけど、客の表情を見ると無理強いするのは得策ではなさそうだ。
「そっかぁ… OK! わかった。 12時過ぎね♪ 待ってるょ」
私は「ばいば~ぃ」と笑顔で手を振りながら
その背中に『絶対来いよ!絶対来いよ!絶対だぞ!!』と心の中で唱えた。
丁度その時、栄子の客がエレベーターから降りてきた。
行列を見て「うわっ…」と呟き、そのまま踵を返して階段を降りていった。
私はほっと溜息を吐く。
3ポイント差の重圧。 やたら疲れる。
「あれ、まりもダメだったの?」 高梨が尋ねた。
「うん… また後で来るって言ってたけど、どうだろぉな~
てか、もっと店広くしてよ! せっかく客呼んでも店に入れないんじゃ
こっちはやってらんないって!」
私はイライラして高梨に八つ当たりをした。
「まりも、条件は皆同じだってこと忘れるなよ」
高梨がピシャリと言った。
たしかに…
現に栄子の客も帰って行ったのだから
愚痴をこぼしてもしかたがない。
キャッシャーに寄って
客のタイムスケジュールを覗き込む。
その紙には
客の卓番と指名
タイムスタート時間が書かれている。
栄子の指名本数を目で追いながら指を折る。
ここまで私の方が1本多い! 着実に差は縮んでいる。
私はすかさず
携帯電話を持ってトイレに篭った。
国分町に出ていそうな客を選び
追い討ちの『お願いコール』を数本かける。
同伴で入った明宏は一度店から出て
ラーメンを食べてからまた並んでくれることになっている。
一日に同じ客を二度呼ぶなんて
必死過ぎて格好悪いけれど、ここまで来たら形振り構っていられない。
指名が重なって
どの席にも二十分とついていられない。
一時間以上も並ばされたあげく
あっという間に席を抜ける私に客は不機嫌になってしまう。
席に付いている間も
挨拶やお見送りで何度も離席しなければならず
忙しすぎてフォローもままならない状態だった。
深夜二時を回り最後の客を送り出すと
私はぐったりとテーブルに突っ伏した。
指名は自己最高の16本を叩き出していた。 栄子は12本。
3本の差を詰め、逆に私が1ポイントリードして金曜日の営業を終えた。
あとは明日一日、この差を守りきればいい。
疲れた体を引き摺って
キャッシャーに預けたお財布を取りに行くと
すでに今日の集計結果が出ていた。
勝利を確かめるべく
用紙を覗き込んで我が目を疑った。
栄子12本。 まりも16本。 真由美20本。
真由美?!
真由美が? 嘘!!
私は同伴からラストまで途切れることなく
二十分おきに指名客のテーブルを渡り歩いた。
16本がMAX! それ以上なんてありえない!
一日の客入りを上から順番に確かめ
その種に気がついて愕然とした。
同伴出勤は七時半までに店に入ることになっているのに
真由美は同伴で、かつオープンと同時の六時に出勤していたのだ。
六時台、七時台にも指名が重なっている。
真由美はこの一時間半を計算に入れて動いていたことになる。
なんてことなの!!!
栄子を捲くることに必死で
自分の尻に火がついていた事に気が付かなかったなんて!
なめていた。
私は真由美のことを自分よりも格下のホステスだと思いこんでいたのだ。
これだけ限界まで頑張って
まさか真由美に同点につけられるとは…
足の力が抜けて
その場にへなへなと座り込んでしまいそうだった。
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