らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】 -178ページ目

第178話 大人のゲーム

ヒカルは白のスーツに

シルクのリボンがついた黒のシャツを着ていて

王子様さながらのいでたちだ。


テーマ性を秘めたヒカルらしい外見は

誰よりもこの場所に相応しく馴染んでみえる。


「久しぶりだな、 元気だった?」


口元にかすかな微笑みをつくり

自然な口調で話しかけてくる。


「うんうん、 元気よ! ヒカルったら、あいかわらず格好いいわねぇ!」


私は平静を装おうとして

余計なことを口走ってしまう。


視線をドリンクバーに向けユウを探すと

両手にグラスを持ってこちらに向ってくるところだった。


ドリンクバーはヒカルの背面に位置しているから

お互いに顔がみえることはない。


私はなんとかユウに目配せをして

ヒカルの存在を伝えたいと思うのだけど

ユウは混雑している店内をドリンクをこぼさないようにと

足元と周りばかり気にして歩いてくる。


「今日は誰と来てるの?」


ヒカルが尋ねる。


「美咲って女の子の友達よ! 今トイレに行ってるけど・・・」


咄嗟にそんな嘘をついたが

ユウはもうすぐそばまでせまっていた。


私は慌ててしまい

そわそわと体を動かす。


ようやく
ユウが立ち止まって私の方を見る。


目の表情だけで合図を送ると

ユウはヒカルの存在に気がつきはっとする。


踵をかえして

人にぶつかりながら来た道を戻ろうとする。


しかし

私のそんな不自然さを

ヒカルが見逃すわけはなかった。


ヒカルがゆっくりと首の角度を変えて振り返り

ユウの姿を捉える。


こういう時
私はさっさと開き直ってしまう。


『なるようになる』

そう居直るしかないのだから。


ヒカルは私の方に向き直り

「一緒に来てたんだ?」

と思惑に反してごく普通の口調で尋ねる。


「ふーん・・・うまくいってんの?」


私の答えを待たずにヒカルはそう続ける。


「・・・まぁね。」


私は気まずそうに下を向きながら答える。


ユウは少し離れた場所で

両手にドリンクを持ったまま立ち止まり

こちらの様子を固まって見ている。


通行人の邪魔になっていて

大勢の人がユウにぶつかりながら避けていく。


「まーだ飽きないの? おまえ」


ヒカルが両方の眉毛を上げて

軽い笑いと一緒にそんなことを言う。


「あは・・・とりあえずね・・。あはは」


返事に困って

おかしな相槌をうつ。


「なー、戻ってきたら? 俺のとこ」


完璧なキメ目線にさりげない口調。


こういう時のヒカルって

本当に格好良いから一瞬グラっときてしまう。


「ふふ、 そのうちね。」


調子にのった私はそう答える。


「そのうちっていつだよー?」


ヒカルは親しみを込めて私の肩をぽんっと叩く。


「気がむいたらよ。 あは」


私は小首をかしげながら

ユウには見えない角度でヒカルの腕のあたりに触れる。


だけど

この一連の会話はお互い本気ではなく

ただの「お約束」みたいなものだということを

二人ともちゃんと知っていた。


アバウトなルールで成り立つ大人のゲームなのだ。


「そろそろ行くわ。

あの子、こんなシーン見ちゃったら気が気じゃなぃだろうからね。ふふ」


私はヒカルの耳元で囁く。


「わかったよ。 でもあいつに飽きたらいつでも戻っておいで。」


ヒカルは私の耳元で囁き返す。


ヒカルがひらひらと手を振りながら

人の波間に消えてゆくのをじっと見ていると

私たちはまだ同じ海を泳いでいるのかもしれない

という考えがふと浮かんだ。


こんなに大勢の人がいるのに

美咲やヒカルと出会ったことは

何かのメタファーを含んでいるように思えた。


色とりどりのきらめく光線が

行き場を求めてグルグルと回転している。


まばたきをするたびに姿をかえる

光の海、人の波。


美咲もヒカルも

波のかなたにまぎれて消えてしまったようで

今しがたの出来事は

全て幻だったのではないか不安になる。


いつのまにか

私の目の前にいるユウは

泣き出しそうな顔をしていた。


「もう!! ・・・そんな情けない顔しなぃでよ! 大丈夫よ!」


私は

やれやれという気持ちで

ユウのことを慰める。


結局 

ユウの持ってきたドリンクは飲まないまま

ヴェルファーレを出る事にした。


千々ときらめく光の中

目の前を泳いでいるユウもまた

夢の一部でしかないような気がいていた。




大人のゲームは楽しいですよね。

ホステスさんはこれがとても上手なわけですが、真に受けちゃう男も多いよね^^;

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